保健の改善、人権の改善

最新の研究によると、エイズ、結核、マラリアなどの感染症を制御し、克服するために極めて効果が高い方法は、それらの感染症の流行に最も大きな影響を受けている弱い立場の人たちに焦点をあてた対策をとることです。
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最新の研究によると、エイズ、結核、マラリアなどの感染症を制御し、克服するために極めて効果が高い方法は、それらの感染症の流行に最も大きな影響を受けている弱い立場の人たちに焦点をあてた対策をとることです。これは人権の観点からも重要な意味を持つ成果であります。

感染症に関しては、どんな国でも、国民全体が等しく同じ感染リスクを抱えているわけではありません。疾病の多くは、社会から置き去りにされた人々に対し不均衡なまでに大きな打撃を与えています。犯罪者として扱われたり、社会から排除されたりすることが多いからです。

感染の高いリスクにさらされている人たちが、どこで、どのように生活しているのかを把握することによって、私たちはこれらの疾病の拡大を抑える能力を劇的に向上させていけるということを研究者たちはいま、盛んに議論しています。

HIVと結核の場合、最も大きな影響を受けているのは、女性・女児、セックスワーカー、薬物使用者、男性とセックスをする男性、トランスジェンダー、受刑者、移住労働者といった人たちです。

2002年の創設以来、世界基金はエイズ、結核、マラリアとの闘いの中で、人権課題と取り組んできました。いまもなお、そのためのより良い方法を常にさぐっています。世界基金理事会 ―世界各国の政府代表、市民社会および流行に大きな影響を受けているコミュニティ代表、民間財団・民間企業代表、技術および支援実行のためのパートナーで構成― は最近、人権擁護に向けた責務遂行に一段と力を入れることを決定しました。このことが今度は、保健システムを確立し、HIV、結核、マラリアに打ち勝つための世界の努力をさらに促すことになります。

病気の影響を最も大きく受けている弱い立場の人たちは、情報を得られなかったり、差別されていたり、逮捕されるのを恐れたりして、保健医療プログラムを利用できないでいることがしばしばあります。最も影響を受けている人たちとの接触を保ち、保健プログラムの利用を開始した人が継続的に利用できるように工夫し、適切なサービスが受けられるようにするには、地域や宗教を基盤にしてその人たちと接触を保てるグループを含め、市民社会のパートナーがより積極的に関与していく必要があります。また、そうしたグループがプログラムの実施組織として登録できるようにして保健医療情報を自由に活用し、各国の保健政策改善に向けた意見交換を活性化させることも同様に大切です。

私たちは助成活動全体の中に人権をしっかりと位置づけようとしています。資産管理担当者への人権研修の実施や人権準拠集団の設立、人権を重視した介入策への資金流通の明確化など、公衆衛生目標の達成に向けて具体的な対応に取り組んでいます。

さらに、感染症の流行に大きな影響を受け、対策の鍵を握る集団を積極的に支援し、人権を守るための幅広い活動に領域を広げようとしています。人権を重視した対策を進めていくことが効果的であり、適切でもあることをしっかりと確認し、明確にしていく必要があります。

これらの感染症に本当に打ち勝つには、弱い立場の人たちの基本的人権を守り、医学の進歩をすべての人が享受できるようにすることに焦点をあてなければなりません。すべての人が同じ基本的権利、人権を有していることをはっきり確認する必要があります。それは正しいことだからというだけではありません。投資の効果を大きく高めることにもなるからです。

しかも、世界基金のような国際財務機関はいまや、法の支配や法執行の透明性といった人権を守るための条件が財政投資の安全性確保にも資するということを認識するようになっています。安全に投資が行えれば、それだけ多くの人たちを支援することができるのです。

法制度の整備や警察官の訓練といったサービスへの投資が、エイズ、結核、マラリアの予防と治療という世界基金の使命から離れていくようなかたちで進められたらどうなるのか、私たちは米国やヨーロッパからアフリカの農村地区に至るまで、さまざまな場所で何年もかけて苦い教訓を学んできました。弱い立場の人たち、社会から追いやられている人たちが社会組織の一員として受け入れられない限り、保健目標を達成することはできません。

さらにまた、保健と人権をともに大切にすることは、私たちにとって真のコミュニティの実現が可能になるということでもあります。誰もが人間という家族として歓迎されるようになるのです。人間の精神を高めていけるのです。

私たちはいま人々を分断してきた壁を突き崩し、HIV、結核、マラリアの流行を制御するという歴史的な機会を得ようとしています。人権の尊重という課題に向けて立ち上がるべきです。そうしなければ、根拠に基づく公衆衛生の増進もまた実現できなくなってしまいます。