インターネットニュースサイト「ザ・ハフィントン・ポスト」韓国版が、2月28日に開設された。世界で11番目、アジアでは日本版に続く。政治や経済の分野で緊張関係が高まる日韓両国だが、良質な意見交換を通じて相互理解の土台になろうと、両国版は連携を模索している。韓国版開設の前日に日本版編集主幹の長野智子さん(51)と韓国版編集人の孫美娜(ソン・ミナ)さん(41)、そして創業編集長のアリアナ・ハフィントンさん(63)がソウルに集まり、日韓の将来やネットメディアの展望を話し合った。
■「日韓ハフポスト通じ対話を」
孫 ようこそ韓国へ。ご活躍は拝見しています。お会いできるのを楽しみにしていました。
長野 こちらこそお会いできてうれしいです。同じ元アナウンサー同士、しかも自分のやりたいことを追求するために、退職して海外へ飛び出した経験も似ていますね。
アリアナ 日米韓3カ国の編集幹部が、みんな女性になりました。ハフィントン・ポストが世界各国に広がったのはわずか2年半のことだから、実はまだ編集幹部たちが一堂に会したことがありません。こうしてみると、壮観です。世界で11番目、アジアで2番目の韓国版の誕生で、欧米とは違う「アジア・ネットワーク」ができたことになります。
長野 韓国には取材やプライベートで7、8回来ているし、仲の良い友達もいるので光栄です。でも最近、日韓関係がぎくしゃくしていて、個人的に胸を痛めています。両国は歴史認識などの問題を抱えているけど、韓国に来ると人々は温かく接してくれるし、ニュースで伝えられる緊張感はごく一部を切り取ったもので、個々人は理解しあえることを感じます。
孫 「近くて遠い国」という表現がよく使われるけど、外国との葛藤は、お互いをよく知らないから。文化的にも似ていながら違う部分も多く、誤解も生じやすいけど、ちゃんと知り合えば私たちは友達になれると思う。
長野 実際に交流することは本当に大切。政治はとかく国民感情を利用して体制を維持しようとする部分があるけど、それに振り回されて背中を向け合うことは、お互いに失うものがとても多いと思います。
孫 日本人は韓国に複雑な感情があるように見えるけど、韓国人も過去にこだわりすぎる傾向がある。夫婦げんかのように、ささいなことが積み重なって深刻な対立になり、別れてしまうようなことは避けなければ。歳のときから付き合っている日本人の友達がいる。嫌韓感情があると報道されているけど、一人一人はみんな親切だと、普通の韓国人も知っています。
■「ネットで編集部対話も」
アリアナ 日本と韓国の人たちが、ハフポストを通じて対話できれば、とても大きなインパクトを与えられる。まずはブログをお互いに交換して掲載するのはどう?
長野 日韓の編集部のエディターが会議をして意見交換するのもいい。飛行機に乗って集まらなくてもライブブログ(情報がリアルタイムで更新されていくホームページの機能)や、ビデオ中継での討論もできる。トップページに自動翻訳機能のボタンを装着して、ワンクリックでお互いのブログやニュースが読めるようにならないかな。
孫 日韓の未来は、新しい世代の視点でとらえていきましょう。たとえば若者同士が討論する場を、それぞれのハフポストの中に設けるのも面白いかも。オフラインで文化・芸術のイベントをやってもいい。2002年のサッカー・ワールドカップのように共同で。やると決めれば、できることは多いんじゃないか。政治家ができないことを若い世代ができるようになれば理想的ですね。
アリアナ 国際版の連携は私たちにとっても最優先の課題。2014年1月に、これまでの「国際」カテゴリーを強化して「ワールド・ポスト」というページをスタートさせたけど、ここには要人のインタビューなど、世界の最新情勢が英文で網羅されています。日本と韓国に関する記事も、英語に翻訳して紹介すれば、読者の対話に一段と広がりが出るでしょう。
もちろん米国でも各国版の記事をウオッチしているので、いい記事をピックアップして英訳掲載しているし、ほかの国への紹介もしている。日本と韓国の連携がうまくいくように、私も全力で応援します。
長野 既存の枠にとらわれない新しいメディアだからこそ、できることがある、役割を果たさなければと思うんです。
孫 今までのメディアの枠を超えてアプローチすれば、新しい解決方法が得られるかもしれないですね。
アリアナ 日韓の経験豊かな女性編集幹部がリードしてくれれば、両国の対話も注目されるのではないかしら。期待が持てますね。
長野 日韓のハフポストを盛り上げるためのアイデアを、まずは日韓の編集責任者で話し合いましょう。
孫 長野さんは海外経験も豊富なので、わかり合える部分が大きいと期待しています。またお会いして、どんなことができるか相談しましょう。
長野 きっとね。楽しみです。
ながの・ともこ
米ニュージャージー州出身。1985年にフジテレビにアナウンサーとして入社。1990年にフリーとなり、1999年、米ニューヨーク大・大学院修了。2000年にテレビ朝日系「ザ・スクープ」キャスター、2011年から同「報道ステーションSUNDAY」のメーンキャスターを務める。著書に「踏みにじられた未来 御殿場事件、親と子の10年闘争」(幻冬舎)など多数。
アリアナ・ハフィントン
ギリシャ・アテネ出身。英ケンブリッジ大でディベート部の主将を務める。1974年から作家・コラムニストとして活躍。2003年には米カリフォルニア州知事選でシュワルツェネッガー氏と争う(最終的に立候補辞退)。2005年に共同創業者と「ハフィントン・ポスト」を立ち上げ、編集長に就任。2010年に黒字へ転換し、現在は国際版の展開に力を入れる。
ソン・ミナ
韓国・ソウル出身。1997年に韓国放送公社(KBS)にアナウンサーとして入社。クイズやニュース番組の司会で人気アナウンサーとなる。2004年に休職し、バルセロナ大(スペイン)大学院修了。2007年に退職し、世界を旅しながら紀行文を書く作家として活動する。初の著書「スペイン、君は自由だ」がベストセラーに。「パリではあなたが花だ」など著書多数。
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