「学校でイジメられても仮想空間に逃げればいい」小島由香が語る未来のVR

現実世界は時には息苦しい。でも、VR端末があれば、「仮想空間」に逃げられる。そこにはイジメも、嫌な人もいない。
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FOVE

小島由香さんはゲームと漫画が好きな小学生だった。大学を卒業してゲーム会社に就職、しばらくして辞めて「FOVE」という会社を立ち上げた。家にいるのが好き。外出は得意でない。アイドルが好きな「オタク」だと自認する。

小島さんがCEOをつとめる「FOVE」が、作っているのは、目の動きをとらえることができるバーチャルリアリティ(VR)のヘッドマウント端末。白くて四角いゴーグルのようだ。のぞきこむと架空の「恋人」やゲームの「敵」が現れ、使っている人は、目線を動かすだけで、仮想空間の中で人と会話をしたり、人物を操作したり出来る。手の不自由な人が目だけを動かしてキーボードを操作することも可能だ。

文系で、漫画を描いていた大学生だったいう小島さん。どうしてこんな、ぶっ飛んだ端末を作ったのか聞いてみた。

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目を見つめて話せる

——どうして、目線を使ったバーチャルリアリティ(VR)の技術に注目したのですか。

私は、カウンセラーになりたくて大学で心理学を学んでいました。人とコミュニケーションをするとき、話す言葉はもちろんですが、「目線」はとても大事な要素なんですね。

感情と、ぴったりと結び付いていますし、単純なイエスやノーでは分からないメッセージを相手に伝えられます。そうした人間の心の機微をテクノロジーで捉えることができれば、面白いなと。

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(上の写真の女性は)仮想空間の中だけで生きる女性です。でもFOVEの端末は目線の動きを追えるので、「彼女」は、あなたがどこを見て話しているのか分かっちゃうんですよ。あなたの目の動きによって表情や話す言葉が変わる。仮想の女の子や男の子だけど、本当に生きているように感じてもらえるのが私たちの技術です。

「この人めっちゃ目そらすな」と思っていたら、自分の好きな話題になった途端、俄然こっち向いてきたとか(笑)。コトバにできないところに人間の機微が現れると思うんですね。

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これ(上記写真)は、ゲーム中のプレイヤーがFBI捜査官の設定ですね。テロリストに拘束され、目の前に何人かの男性の写真を並べられています。「この中でお前の仲間は誰だ!」と詰問されているのですが、答えたらチームメートを裏切ってしまいます。

FOVEの端末は、目の動きを追いかけられるので、うっかり気を許して、仲間の写真を見てしまうと、ゲームの中の「敵」が気づいてしまうので、アウト。「お前がこの写真を見たので、こいつが仲間だな!」。そんな緊張感のあるゲームが作れます。

相手とのコミュニケーションが苦手な人が、1対1でコミュニケーションを取る練習ができたり、就職試験の面接の予行演習になったりしますね。

遠く離れたおばあちゃんも結婚式に参加

——バーチャルリアリティ(VR)は難しい技術だと思っていましたが、私たちの生きかたに影響しますね。

先日、90歳の寝たきりのおばあちゃんが、遠く離れた地で行われた孫の結婚式に出るというプロジェクトを実施しました。会場のロボットとFOVEをつなげ、それを遠く離れたおばあちゃんが目で操作したんです。ロボットが「代理」で結婚式に出席しているんですね。おばあちゃんは、何が起きたか不思議がっていましたが(笑)。技術がなければ実現しなかった、新しい形の人と人の交流なんです。

——これからどんな未来をつくりたいのですか。

将来は、めちゃくちゃリアルな自分の分身を、VR空間上に作りたいです。そこで、現実に負けないぐらいの人生を送って、リアルと変わらないコミュニケーションができる世界を目指したい。

私は元々ゲームが好きだったんですけど、ゲームというのはインタクラティブ性があるコンテンツのこと全てだと思っているんですね。買い物だってゲーム性がある。例えばアマゾンのようなサイトだって、体験としてどんどんゲーム化している。自分が知らない商品に出会ったり、時間制限がある割引商品があったりしますよね。ゲームみたいに楽しい。

——現実とVRの境目がなくなりますね。漫画みたいな世界になってきますね

コンテンツと自分の人生が全て地続きになるような世界、例えば映画は観るというより、その世界に自分がいるような、そういう世界になっていき、しかも自分が(アメリカの俳優の)ブラッド・ピットと一緒に仮想空間の中にいるとして、そこで飲んでいたワインがおいしいな、と思ったら、それを飲みたいですか?と先回りして映像がすすめてくれて、ヘッドセットの網膜認証を通してPayPal(自分の口座情報などを事前に登録しておけばネット上でお金のやりとりができるシステム)で自動決済ができるとか、そういう世界がすぐそこに来ています。

今も、Facebookなどでそういう広告は実現しています。自分が投稿した内容や好む情報によって広告が選ばれていますが、まだ人間の文字情報を元にしたデータを活用しているに過ぎません。

でも、人間の目線を追いかけることで、文字だけでは伝わらない人の気持ちを読み取って、より深い人間の情報を機械がつかみとることができるようになります。無意識の情報というか、深層心理に基づいた情報から人間に便利な仕組みができるような可能性を感じているんです。

Facebookの自分、Twitterの自分、いろんな自分

——そういう未来は怖くありませんか。リアルな世界はどうなってしまうのやら...。

むしろリアルな価値は高まっていくと思います。VRは、誰もが安価でアクセスできる世界になっていき、そのおかげで仮想空間の中の異国の地を旅行したり、例えばアメリカの有名な教授の授業が受けられたりします。

それが進むことでより、リアルにその場所に行って自分で体験できること、時間と空間を共有することの付加価値は高まっていくのではないでしょうか。現実世界の美しさや貴重さに、かえって気づかされるはずです。

自分の結婚式を360度撮影して保存しておくことで、いつまでも幸せな記憶をよりリアルに体験できるような思い出の残し方や、本や映像以上に、知識の習得や技術の上達が早くなるようなシステムもできそうですね。

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——ひとりがいくつもの人生を体験できそうです。

Facebookの自分、LINEの私、Twitterの人格。もうすでに、SNSごとに複数の人格をもつ時代になっていると思います。私は、Facebookでは、必死にリア充な自分をアピールしています。Twitterでは乃木坂46を追いかけるアイドルオタクです。私には、Twitterの人生も必要なんです。

正直言えば、VRのような新しい技術って否定されがちなところがあるんです。閉鎖的な空間だとか、孤独を助長するとか。ただ、良い意味での逃げ場もあるというか、たとえばイジメにあって、つらいときがありますよね。

小学校、中学校、高校にいると、学校がすべての世界になっちゃう。社会人になって、「いろんな生き方があるよ」と悟るのは簡単ですが、それは、学校を一回抜け出したからわかるんです。

だったら、学校に通っている子供たちや若い人たちにも、一度VRの世界で「逃げてみる」って体験を与えてあげたい。狭い世界だけじゃない、自分の可能性や世界の広さを感じられるようなものが、VRの世界で作れるんじゃないか。もっともっと世界はVRで豊かになるんじゃないかって、思ってるんです、本気で。

——ところで、小島さんのように文系出身の方が起業することのハードルは高かったですか。

確かに理系のエンジニア出身の起業家は多いと思いますし、女性起業家もまだまだ少ない。でも、やりたいことがあれば、何でもできる時代なんです。

大学からの友人でオーストラリア人の共同創業者がCTO(最高技術責任者)として技術まわりを見てくれて、私のアイデアやビジョンを実現してくれました。やりたいこと、作りたいもののイメージが出来ていれば、それを助けてくれる技術を持っている人は必ずいるんです。いまはネットをつかって仲間を作りやすいですから。

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——起業するとき、周りからの反対はありましたか。

特に日本で起業するというと、お金集めで苦労するというイメージがあるらしく、「借金とか大丈夫なの?」といった心配が多かったです。ただ、投資家がつけばアイデアだけで突き進むことができます。

西海岸のスタンフォード大学の学生は、Googleに就職しても、「お前、ひよったな(弱気になったな)」と皮肉られるんですよ。日本だと最先端っぽいイメージの企業でも、西海岸の厳しい環境だとすでに「安定した大企業」のように捉えられてしまうんですね。アメリカでは起業というチャレンジ自体が賞賛される空気があるが、日本ではまだまだ。だからこそチャンスがあります。

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■小島由香さんのプロフィール

FOVE最高経営責任者 / 共同創業者 

目の動きで仮想世界を自在に操作する、世界初の視線追跡型VR用ヘッドセット「FOVE0」を開発中。ソニー・コンピュータエンタテインメントではPlayStation 3用お気楽ネット「まいにちいっしょ」のアシスタントプロデューサーとして関わった。

物語の未来はゲームの双方向性にあると信じ、視線追跡と顔認識技術を最大限利用した仮想世界での非言語コミュニケーションを提唱。2015年5月から始まった、KickStarterキャンペーンで48万ドル強を集め、サムスン・ベンチャーズ、Honhai、コロプラからの資金調達を実施した。