「かぼちゃの馬車後」も跋扈する悪徳業者、投資家を嵌める狡猾手口

損失で節税する?そんな話法にご用心
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『週刊ダイヤモンド』2018年9月8日号の第一特集は「まだまだあった不動産投資の罠」です。昨年秋から社会を揺るがせている「かぼちゃの馬車」問題を始め、不動産投資の罠の全貌を明らかにしています。ただ、これほど大きな問題になってもなお、無理に引き上げた賃料と利回りを提示したり、駅から遠く築古にもかかわらず割高な物件を紹介したりと、およそ投資するに値しない物件を売りつける不動産業者は後を絶ちません。そこで今回、そんな悪徳業者の手口をつまびらかにした特集記事を、特別にオンラインで公開します。

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gyro via Getty Images

悪徳不動産業者は後を絶たない 

「自己資金なしにローンだけで買える物件を買って、キャッシュフローはなるべくためましょう」「でも最近は、自己資金を出さないとローンが出にくいんですけどね」

 「当社の場合、物件購入時の頭金や諸費用の約2000万円がゼロです」「でも最近は、お客さまに数百万円は用意してもらうようにしていますけどね」

 都内某所で開かれた一棟アパートへの投資を勧誘するセミナー。参加した会社員の男性(42歳)は、講師役の営業マンが資料について説明しながら、あらかじめ決められていたであろう強気の営業トークの後に、何度も「でも最近は」と留保を付けていたのが印象に残ったという。「かぼちゃの馬車の一件で、いろいろ問題が起きているようですからね」(男性)。

 スルガ銀行の融資をめぐる問題を受けて、投資用不動産市場は激変した。融資の審査を書類の改ざんでかいくぐるスキームが、以前ほど通用しなくなっているのだ。

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本記事は「ダイヤモンド・オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

 とはいえ、廃業しては雨後のたけのこのように生まれてくるのが、投資用不動産の開発・販売業者の世界。"懲りない面々"が今なお実際に販売している物件や営業手法について、つぶさに検証してみよう。

 「設定された賃料が相場より高過ぎますね」。主に富裕層や地主向けに不動産投資などを助言する青山財産ネットワークスの高田吉孝執行役員は開口一番、こう話す。

 ある不動産業者が東京都立川市で実際に販売している新築一棟アパートについて、高田氏に収支を試算してもらった。

 提案資料にある家賃は9万3000円。だが賃貸住宅の検索サイトを見れば、すぐ近くにある同様の新築物件の賃料が8万円台前半だと分かる。利回りをつり上げるため、高めに設定したのだろう。

 次に、サブリース。販売業者の管理部門に転貸して家賃を保証する「サブリース」方式を採用しているが、サブリース期間の終了とともに家賃の下落に苦しむケースが多い。そのため、家賃が下がるという前提に立って試算した。

 そして、業者の資料には記載さていない固定資産税やリフォーム費用、修繕積立金を支出の項目に追加した。

 その結果、オーナーの最終的な取り分である「年間留保金」は、11年目ではわずか8000円にまで減り、その後は赤字が続いていく試算となった。しかも不動産賃貸業は想定以上に出費がかさむことが多く、購入から10年で赤字に転落する可能性が濃厚だ。

 また、高田氏が測量図を調べたところ、土地面積が実際よりも60平方メートル以上も広く記載されていることが判明。土地価格だけ見ても、「相場より1000万円は高い」(高田氏)というひどさだ。

 なおこの業者は、さいたま市岩槻区や千葉県松戸市にある駅から徒歩10分超の築古一棟アパートも販売している。こちらも高田氏に調べてもらったところ、およそ築30年の6~8戸の土地付きアパートが5000万円超で販売されており、明らかに割高だという。

 「いずれ売ろうとしても、土地代金から入居者の立ち退き料、建物の解体費を差し引いた価格でしか売れないだろう」(高田氏)

損失で節税する?そんな話法にご用心

 下図は、立川市とさいたま市、松戸市の20~49歳の人口推移の予測を示したものだ。賃貸需要の高い現役世代が今後、減少していくのが見て取れる。立川市やさいたま市は中心部こそ再開発で人気を集めるものの、郊外の駅から遠い物件では厳しくなるだろう。

 では、この業者はどんな手法で物件を販売しているのか。営業マンと面談したある女性(38歳)は、「スルガ銀行とは異なる有名地方銀行の名前を挙げて、実際以上の価格を銀行に示してフルローンにする、自己資金が足りなければ、業者が一時的に貸して"見せ金"にして融資を受けるといった手法を持ち掛けられた」と明かす。

 スマートデイズ顔負けのスキームを今なお使い、割高な物件を売り付けようとしているのだ。

 もっとも、区分のワンルームマンション業者も似たり寄ったり。別の女性(35歳)は最近、「月々の収支が1万円超の赤字になる新築マンションを紹介された」と話す。もはや投資とはいえない代物だが、営業マンからは「赤字の1万円も、投資だと思えば」と言い放たれたという。

 そして、建築費の高騰に対して賃料が上がらず、都心の新築ワンルームマンションの利回りが下がり続けている中で、最近多い手口が「節税話法」だ。

 その手口とは「ワンルームマンションの損失で節税できます」というもの。支出が家賃収入を上回って損失が出れば、オーナーであるサラリーマンの本業の所得と損益通算できるため、所得税の課税額を減らせるというものだ。

 これぞまさに本末転倒。先の例のように、損失が大きく膨らんでしまったら目も当てられない。

 下表をご覧いただきたい。約2700万円で実際に販売された東京23区東部の新築ワンルームマンションについて、こちらも高田氏に試算してもらったものだ。所得税の課税額の決定に関わるのは、中段にある税引き前利益だ。

 例えば、10年目の税引き前利益は約13万円の赤字で、この赤字を本業の所得と損益通算できるというわけだが、実は全額を引けるわけではない。「節税額は赤字の一部で、年収1000万円だと数万円。最高税率(55%)の人でも7万円程度にしかならない」と高田氏は言う。

 しかも実際の収支を示す年間留保金の方は、約20万円の赤字となる。さらにこの先、賃料下落とともに赤字額は膨らみ、35年目までこの物件を保有したとすれば、累計で1100万円以上の赤字を積み上げることになる。途中で売却できればいいが、東京23区内にはこうしたワンルームマンションが急増しており、不便な場所で割高のこの物件が、将来残債を上回る高値で売れるとは考えにくい。

 他にも、ローンを組む際に団体信用生命保険に入るので「生命保険代わりになります。月1万円の赤字でも、2万~3万円払って死亡保険に入るよりいいですよ」といった勧誘も行われている。

 だが冷静に考えれば、死亡保険に入るために2000万円を超えるような借金を背負い、赤字が積み上がりそうなワンルームマンションを買う意味はない。死亡保険が欲しければ、月額数千円を支払えばいくらでも手に入るのだ。

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