住宅セーフティネット法改正案は「住まいの貧困」解決の切り札となるのか?

住宅セーフティネット機能を強化すると言うのであれば、低家賃の住宅がふんだんに供給されるようにならなければ、「看板倒れ」と言われても仕方ないでしょう。
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住宅セーフティネット法改正案が閣議決定

今年2月3日、政府は住宅セーフティネット法の改正案を閣議決定しました。

2007年に制定された住宅セーフティネット法は、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」という長い正式名称を持ちますが、条文は12条しかない短い法律です。

しかし、改正案は5倍以上の64条まで膨らみ、ほとんどの条文が新設されることになりました。

改正案では、高齢者、障害者、子育て世帯、被災者、低額所得者などを「住宅の確保に特に配慮を要する者」(以下、「要配慮者」とする)と定義し、これらの人たちが民間の賃貸住宅市場で住宅を借りにくくなっている状況を踏まえ、空き家を活用した要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度を創設するとしています。

具体的には、都道府県が一定の基準を満たした空き家を登録する制度を作り、登録住宅の情報開示と賃貸人の監督をおこなうこと、登録住宅の改修費を住宅金融支援機構の融資対象に追加すること、都道府県が指定した「居住支援法人」が入居相談や家賃債務保証等をおこなうこと、生活保護世帯が登録住宅に入居する際の家賃の代理納付をおこなうこと等が改正案に盛り込まれています。

法案から抜け落ちた「家賃低廉化」

増え続ける空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度の創設は、私自身も提言してきたことであり、国が本腰をあげたことは大いに歓迎したいと思います。

しかし、国土交通省がこれまでプレスリリースしてきた新事業の案と今回の改正法案を比較すると、一部の項目が抜け落ちてしまっていることに気付きます。

最も問題なのは、家賃低廉化に関する条文がどこにも見当たらないことです。家賃低廉化とは、登録住宅の家賃を下げるために、国と地方自治体が月2万ずつ、合計4万円を家主に補助する仕組みで、当初、国土交通省は公的な補助をおこなうことで低家賃の住宅を供給するという点を強調していました。

ですが、出来上がった法案の中には家賃低廉化に関する条文が抜け落ち、家賃低廉化は予算措置によって実施するとしています。

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昨年12月22日の国土交通省資料では、低額所得者への支援が強調されていた(赤線は引用者)

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改正法案の資料では、家賃低廉化は目立たないように記載(赤線は引用者)

同様に、家賃債務保証料の補助や改修費の補助についても、来年度予算案には盛り込まれているものの、法案の中には書き込まれていません。

法律に明記されず、予算措置にとどまるということは、家賃低廉化等の補助は「いつでもやめられる」ということを意味します。

おそらく、予算が膨らむことを恐れた財務省サイドの意向もあり、法案には書き込まないということになったのでしょう。

このことは、新たな住宅セーフティネット事業の将来に暗雲をもたらしかねないと私は懸念しています。

家賃が安くなるのは全体の1割だけ?

政府は要配慮者向けの空き家登録制度は公営住宅を補完するものだと説明しています。

そして、2017年度の下半期から事業をスタートさせ、毎年5万戸のペースで新規に住宅を登録し、2020年度末までに17・5万戸まで登録戸数を増やすとしています。

登録住宅の供給目標をきちんと掲げたことは評価すべきことですが、他方で、登録住宅のうち、家賃低廉化の補助が実施される住宅の戸数目標は出ていません。

2017年度予算で家賃低廉化のために概算要求されている予算は約3億円ですから、これを単純に割ると、最初の半年間(2017年10月~2018年3月)で家賃低廉化がなされるのは約2500戸ということになります。

年間ベースで5000戸ですから、登録住宅全体の1割しか家賃は安くならないという設計です。

この程度の規模では、「住宅セーフティネット」という名前にふさわしいとは言えないでしょう。

一部の地方自治体では、「空き家バンク」等の名称で空き家の登録制度をすでに設けているところもあります。

しかし、実際に各地の「空き家バンク」のホームページを見ると、低家賃帯の住宅は少なく、低所得者のニーズに応えられる物件はほとんどない場合が多いと私は感じています。

「住宅確保要配慮者」の定義は非常に広く、低所得ではない高齢者や子育て世帯等も「要配慮者」として位置づけられています。

昨今の賃貸住宅市場ではこれらの人たちも住宅を借りにくくなっているので、その点では効果のある事業になるのかもしれません。

しかし、住宅セーフティネット機能を強化すると言うのであれば、低家賃の住宅がふんだんに供給されるようにならなければ、「看板倒れ」と言われても仕方ないでしょう。

法案の修正を求めて、集会を開催します!

この改正案の国会での審議は4月頃に始めると言われていますが、私が世話人を務める「住まいの貧困に取り組むネットワーク」では、家賃低廉化補助の明記など、法案の修正を求めて各政党に働きかけることにしました。

3月21日(火)には集会も開催いたしますので、ぜひご注目ください。

◎住宅セーフティネット法改正案を考える院内集会

日時:2017年3月21日(火)12時30分~15時30分

場所:参議院議員会館地下1階B107会議室    

内容:国会議員各氏のあいさつ、基調報告、講演、当事者・各界からの報告・発言など

主催:住まいの貧困に取り組むネットワークなど

(2017年3月10日「稲葉剛公式サイト」より転載)