細川護煕氏、原発事故のドキュメンタリー映画を構想 「世界中の人に理解してもらう」

細川護煕元首相は5月23日、原発事故の現実を追うドキュメンタリー映画制作の構想を明らかにし、世界各地での上映を視野に入れ賛同者を広く募ると述べた。
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The Huffington Post

■ 細川氏「政府も経産省も、東電も隠している」安倍政権の政策を批判

原発ゼロに向け自然エネルギーの普及活動を行う一般社団法人「自然エネルギー推進会議」の代表理事を務める細川護煕元首相は5月23日、原発事故の現実を追うドキュメンタリー映画制作の構想を明らかにし、世界各地での上映を視野に入れ賛同者を広く募ると述べた。

ドキュメンタリー映画の構想は、東京都内で行われた慈善活動団体「グローバルビジレッジチャンピオンズ財団」創設者ヤンク・バリー氏との対談で明らかにした。

「原発の再稼働は簡単ではないが、政府はこれを進めていくと思う。この問題はトップが変わらない限りブレーキが掛けられない」。2014年の都知事選で小泉純一郎元首相とともに原発ゼロを掲げて出馬した細川氏は、原発再稼働へ軸足を置く安倍政権を批判した。

ヤンク・バリー氏は、元ボクシング世界チャンピオンのモハメド・アリ氏らをパートナーに、元NBAのスター選手マイケル・ジョーダン氏や歌手のセリーヌ・ディオンらも賛同人として参加している「グローバルビジレッジチャンピオンズ財団」の活動を通じて9億食以上の食料を世界に供給する慈善事業家として知られる。

来日中のヤンク氏は、2011年3月東日本大震災、そして福島原発事故以降も日本をたびたび訪れ、食品を配布するなどの活動を行ってきた。ヤンク氏は、震災時の日本人の行動、誇り、気高さに敬意を表しながらも、震災以降の活動では、たびたび歯がゆさを感じた体験を率直に述べた。日本にできることがあればと手を差し伸べたつもりが、その意図に反してさまざまな壁を感じる瞬間に直面したという。

また、ヤンク氏は日本国内で“原発事故の影響は少ない”とする主張があることに対し、「日本人への評価とは別に、日本の原発問題への認識や対応は一体何なのだと周辺諸国から厳しい視線が注がれ、それが日本の評価を落としている」と述べた。

細川氏も「政府も経産省も、東電も、原発についてはいろいろなことを隠している」と批判した。都知事選を通じ、脱原発を訴えるようになってから脅迫も受けるなど身辺の危険も感じるようになり、首相在任時代よりも家のセキュリティを強化せざるを得なくなったという。

細川氏はまた、自らの首相経験を踏まえ「謝るべきは謝る。原発事故の復旧には最大限の努力をする。私が首相だった頃は中国とも韓国とも友好的だった。隣の国と話も出来ない状況は異常」と安倍政権の政策を批判し、特に若い世代に対し「おかしいことには怒り、もっと声をあげるべき」と促した。

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細川護煕元首相(写真左)と中塚一宏・自然エネルギー推進会議理事兼事務局長(同右)

■ ヤンク氏、細川氏の映画構想に協力「世界に発信していくための才能を集める」

ヤンク氏が細川氏に「太平洋を挟んで向き合う国として、今、何かお手伝いできることは?」と尋ねると、細川氏は「講演やさまざまなミーティング、そして自然エネルギーを推進したり、再稼働する場所で反対の声をあげたりしても、実際、集まる人も少なくなっている今、世界中の人に理解してもらうためには映画が一番早い」と、チェルノブイリ事故を起点に、福島原発事故へとつながる原発の実態に迫るドキュメンタリー映画の構想を明らかにした。

これまでも事故後の福島をテーマにした映画はあるが、影響力を持ちえたものは少ないと考えている細川氏は、「それなりの予算を投じて世界各地での上映を実現させ、原発問題に対する世界からのサポートにつなげる起点にしたい」と述べた。ヤンク氏もアル・ゴア元アメリカ副大統領が制作した「不都合な真実」のような、世界に問題提起する映画の制作に賛同した。ヤンク氏は社会問題を映像化する世界的なドキュメンタリー監督の名前を挙げ、「彼もこういう映画はやりたいはず。すでに監督をはじめ、制作陣は固まっていると思うが、より効果的に世界に発信していくための才能を集めることはできる。チェルノブイリでの取材となると制作費もかさむかもしれないが、その点も含め協力させてほしい」と、細川氏の映画構想に期待を寄せた。

また、ヤンク氏は「外国人の助けはいらない」と拒絶されることもある一方で、「来日の度に福島のために、日本のためにできることを探っている」と述べ、日本の社会活動を行う多くのグループと連携したい意向を表明した。

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「グローバルビレッジチャンピオン財団」創設者のヤンク・バリー氏(写真右)と、財団のサポーターとして参加した社会起業家の加藤秀視氏(同左)

今回の来日では、日本人として初めてグローバルビレッジチャンピオンズ財団に参加した社会起業家の加藤秀視(かとう・しゅうし)氏と共に講演などを行う。自らの人生経験をもとに、少年の更生や啓発活動を行う加藤氏も対談にオブザーバーで同席し、「自分のネットワークで若い連中、怒りを持って闘おうという仲間を増やすことができる。お金より大義で動く仲間も多いですから」と述べた。

歌手、作曲家、プロデューサーとして音楽業界で30年以上にわたって活躍した実績を持つヤンク氏は、陶芸家でもある細川氏の芸術家としての側面にも共感し、細川氏が開催する個展のカタログを興味深く眺めていた。異色の対談から生まれた、世界的な規模のドキュメンタリー映画構想の行方が注目される。

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