手を合わすだけでは回収できない想いがある。
だから、言葉にしなくても、声にならなくても、伝えられるように−−。
東日本大震災から7年を迎えた3月11日、震災遺構として残されている仙台市立荒浜小学校で、花の種を入れた風船に想いを込めて飛ばすイベント「HOPE FOR project」が開催された。
東日本大震災が起きた14時46分。慰霊祭に参列した人々は黙祷を捧げたあと、「HOPE FOR」とメッセージが刻まれた風船をリリースした。
午後15時15分。訪れた人々が、花の種を入れた風船を一斉に空へと放った。
用意された風船は1000個。環境に配慮し、全てエコバルーンが使われた。太陽光で自然分解され、落下したら土に還ることから、「たとえ天まで届かなくても、地に花を咲かせてほしい」という願いが込められている。
色とりどりの風船が、宙を舞う。中には名前を叫んだり、時折涙して空を見つめる人々も見受けられた。しかし一番目立ったのは、「笑顔」だった。
この企画は、荒浜地区周辺で生まれ育った卒業生らを中心に立ち上がった。2012年3月11日に始まり、今年で7回目を迎える。仙台市と協力し、費用の一部はFacebookページで募集をかけた。
仙台市中心部から東に約10キロに位置する荒浜は、津波によって多くの住宅が流され、数多くの方が命を落とした地域。河北新報によると、荒浜地区では、校舎の屋上に避難した児童や地域住民ら約320人は救助されたものの、逃げ遅れるなどした約180人が犠牲になったという。
荒浜小学校もあの日、津波で4階建て校舎の2階部分までが浸水するなど、大きな被害が出た。開催場所となった荒浜小学校は、震災の影響で校舎が損傷し、2016年3月をもって閉校。現在は遺構として開かれている。
その校舎は、7年前と変わらぬ姿で「あの日」に何があったのかを伝えている。
荒浜地区では、今後の土地活用も問題となっている。
今ではあたり一面の更地に鬱蒼と草木が生い茂るが、もともとは仙台市唯一の海水浴場があった場所だ。夏になれば多くの人が訪れ、賑わいを見せていた。しかし現在は地区のほとんどが災害指定区域に指定されたため、人や企業が姿を消し、無機質な更地と化した。
夜になると、かつてあった灯は消え、あたりは完全な暗闇に包まれる。
「だからこそ、ここに笑顔という明かりを灯したい」。このプロジェクトの主宰・髙山智行さん(35)はそう話す。
"風船を飛ばすことがこのイベントのすべてではないと思っています。一年に一度でも、ここに帰ってくる人が想いを馳せる場所をつくりたかったんです"