ホンダS660がいよいよデビューした。一昨年の東京モーターショーでコンセプトモデルが登場し、ファンの熱い注目を集めていたが、着実に完成に向けて作り込まれ、ようやくデビューを迎えた。
S660開発のきっかけは、ホンダ技術研究所の創立記念で「新商品提案企画」を募り最優秀賞に選ばれたこと。開発責任者もこの企画を提案した本田技術研究所4輪R&Dセンターの椋本陵氏が担当することになった。まだ20代という異例の若さだが、このあたりもホンダらしい。
だから、というわけではないのだろうが、クルマの造り込みも相当に異例であると思う。ボディは当然専用新設計で、フロントサスペンション取り付け部の剛性確保、フロント/リヤのねじり剛性確保、リヤサスペンション取り付け部の剛性確保を行った結果、静的剛性はS2000を超えているという。
また痛快ハンドリングシャシーと銘打って作り込まれたサスペンションは、フロント・マクファーソンストラット式、リヤ・デュアルリンク式ストラットとし、リヤには軽初のアルミサブフレームを採用する。
ステアリングはボディとリジッド締結とし、WPSギヤボックスを前引き配置にしている。
ブレーキは前後とも260mmφのディスクブレーキを採用。
タイヤはヨコハマタイヤのハイパフォーマンスタイヤ=アドバン・ネオバを車重に合わせて新設計している。タイヤサイズは、フロント165/55R15、リヤ195/45R16。
また、ハンドルを切りだすと内輪に軽くブレーキをかけるアジャイルハンドリングアシストを搭載。これによって狙った通りのスムーズなライントレースができるようになっている。
エンジンは64ps/6000rpmを発揮。最大トルクは現時点では発表されていないが、10.5kgm前後を2000回転台で発生するようだ。
またサウンドチューニングにも注意が払われており、マフラーの発するスポーツサウンドのほか、アクセルを戻した時に発するブローオフバルブ音をあえて消さずに聞かせるなどの演出も行っている。
組み合わされるミッションは6速MTとCVTが用意されている。
6速MTは、シフトフィーリングにこだわり、ストロークやスッと吸い込まれる操作感に力を入れたという。また2速にWコーンシンクロ、3速にカーボンシンクロを採用する。
CVTは専用セッティングの7速パドルシフト付きで、デフォルトモード(≒ノーマルモード)では燃費に配慮した一般走行向け、スポーツモードはMTライクなパドルシフトによる変速感が得られるようになっている。
ボディ形状はタルガトップといえるような形で、ロールオーバー時の安全性を確保した高剛性のリヤフレームとフロントウインドウトップにキャンバス時のルーフを渡す形。
ルーフは折りたたんでボンネット内の収納できる。オープンエアの楽しさを広げる装備としてパワーリヤウインドウを装備。ウインドウを開けるとエンジンサウンドがダイレクトに聞こえてくる。
操作系にもこだわっており、シートはホールド性の良い形状とし、ステアリングはホンダ最少径の350φステアリングを採用。ペダル配置もヒール&トーがやりやすいようにペダルレイアウトとなっている。
このほか、メーターにスポーツスイッチを設定。オンにするとインパネ中央部がレブインジケーターとなりレブリミットが近づくと赤く点滅するとともにメーター左側に配置された瞬間燃費計がブースト計に変化、さらにダッシュボードのセンターディスプレイがGメーターが表示される。
でも所詮軽自動車だろうと思って走り出したら、立派なコンパクト・スポーツカーだった。軽自動車的な安っぽさ、華奢さが一切ない。ホンダは軽自動車のサイズで本格的なスポーツカーを作ったのだった。
説明では「痛快ハンドリングマシーン」などといったキャッチコピーが使われていたので、まあ、ギュインギュインとよく曲がるのだろうくらいに思っていたのだが、全然違った。
ブレーキングでフロントに軽く荷重をかけたところからハンドルを切りだすと、アウト側のサスがスーッとストロークして沈み込むのだ。アジャイルアシストが効いているので、荷重移動をほとんどしなくてもノーズがインを向いていくれるのだが、セオリー通りにきちんとブレーキングし前輪に荷重をかけた状態からハンドルを切りだしてやるととても滑らかかつスムーズにクルマが向きを変えてくれる。キョトキョトした動きは一切ない。
旋回中はちゃんとアウト側前後のサスが沈み込み、適度なロールを見せながらピタリと姿勢を安定させ、コーナー立ち上がりでは195/55R16という軽自動車としては規格外のサイズのネオバが、ガッチリと路面をとらえ、踏力なトラクションを発揮してくれる。
驚かされるのは、100km/hオーバーの速域で割と大胆にハンドルを切りだすようなスラロームしても、安定性が易々とは損なわれないことだ。...というか、そういう走り方を試してみたが、フットワークも軽くスイスイと走り抜けてしまった。
乱暴にハンドルを切りだすとVSA(横滑り防止装置)が効くが、これも介入の仕方は強すぎずおせっかいでないのが良い。
エンジンも良い。低回転域からしっかりトルクが出ており、ビックリするくらいスムーズにそして力強く吹き上がっていく。ターボラグも極めて少ない。
6速MTは、シフトストロークが短すぎずちゃんとシンクロが効き、ギヤが噛み込む感触が手元に届く。ギヤ比も適切で、トルクバンドを巧みに使えるうえ、ちゃんと高回転域の伸び感も感じられる。ストレスのないミッションだ。
CVTはイージードライブ用。スポーツドライブもできるが、MTほどではないが、マニュアルモードの設定が巧みでスポーツフィーリングは損なわれていない。
S660はボディサイズと排気量こそ軽自動車規格だが、クルマの造りは完全に枠を超えたスポーツカーのそれだった。そのことに衝撃を受けたのだ。相当期待してハードルを上げて乗っても期待は裏切られないに違いない。
一つだけ注文を付けるとすると、VSAのOFFボタンをつけてほしいということだ。
素晴らしく出来のいいエントリースポーツカーだからこそ、望めば、クルマが破たんをきたすところまで体験でき、またコントロールする訓練ができることも、エントリースポーツカーの役割ではないかと思うからだ。
■ホンダ 公式サイト
(2015年3月26日Autoblog日本版「【試乗記】ホンダ、「S660」クルマの造りは完全に枠を超えたスポーツカー:斉藤聡」より転載)
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