雄同士の求愛は遺伝と社会環境が関与

ハエの雄同士の求愛では、遺伝的要因と社会環境が協調して脳の働きを制御していることを、東北大学大学院生命科学研究科の山元大輔教授と古波津創研究員が実証した。
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Mina De La O via Getty Images

ショウジョウバエの雄同士の求愛では、遺伝的要因と社会環境が協調して脳の働きを制御していることを、東北大学大学院生命科学研究科の山元大輔(やまもと だいすけ)教授と古波津創(こはつ そう)研究員が実証した。恋愛指向は「氏と育ち」の両方が関与していることを明確に示した実験結果で、複雑なヒトの求愛行動の研究にも刺激を与えそうだ。3月6日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。

ショウジョウバエの変異体のsatori(さとり)では、fruitless(フルートレス)という遺伝子1個が働かなくなるだけで、雄が雌に求愛しなくなり、雄に求愛するようになる。これは、同性愛形質が遺伝的に決まる証拠として、山元大輔教授が1991年に発表した。しかし、今回の実験でsatori 変異体のショウジョウバエの雄を羽化直後に隔離して単独で育てると、同性への求愛が抑制されることを見いだし、その理解がもう一段深まった。

背中をワイヤに固定して、トレッドミルのように発泡スチロールの玉の上を自由に歩かせるハエに視覚映像を見せ、それに求愛させる独自のバーチャルリアリティー実験を工夫した。この実験で、野生型の雄バエは、あらかじめ雌の体を触ってフェロモンを感じるか、脳中枢を興奮しやすくなるよう操作されると、ディスプレー上の動く光点に対して求愛した。しかし、野生型の雄ハエは集団生活をさせても、雌のフェロモンなどの刺激のスイッチが入らなければ、動く光点に求愛しなかった。

一方、集団生活をしたsatori の雄は、フェロモンもなく、脳の刺激もない状態で、動く光点に求愛し、同性愛に似た行動を示した。実際、集団生活をしたfruitless変異体(satori)の脳の特定の細胞は、野生型や単独生活のsatoriの脳細胞と違い、動く光点に興奮反応を示す。つまり、fruitless遺伝子が働かない状態では、脳の特定の細胞が集団生活で視覚刺激に過敏になり、相手かまわず求愛するようになることを確かめた。satoriに対する集団生活か単独生活の影響は、サナギから成虫に羽化した直後の数日間に限られた。

一連の実験から「satoriの雄では、集団生活の経験によって神経細胞が視覚的に過剰に反応するようになり、動く標的が雄でも求愛する。野生型ではこの過剰な反応を抑え込む仕組みが働いている。satoriの同性愛行動は、遺伝的要因と社会経験の環境要因が相互に作用し合い、特定の神経細胞の性質を変化させて、引き起こされる」と結論づけた。

山元大輔教授は「羽化直後の経験に依存してsatoriの同性愛行動が変わることに、『自分の目がこれまで節穴だったか』と思うほど驚いた。ショウジョウバエでも、同性愛行動に『氏と育ち』が絡んでいたのだ。われわれの求愛実験はユニークで、遺伝子操作がしやすく、行動も観察しやすいショウジョウバエで進めているが、ハエで起きていることはヒトにも共通することが多い。羽化直後の初期体験が長続きするのはなぜか、などの疑問を今後解明したい。この研究は、ヒトを含めた動物の社会性発達の研究にも貢献するだろう」と話している。

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・東北大学 プレスリリース