海外発売から約1年半、この夏ついに日本上陸を果たすアップルのスマートスピーカー HomePod のレビューをお届けします。
HomePodは高さ17センチほどの円筒形に4インチ径の高偏位ウーファー、360度をカバーする7つのツィーター、計7つのマイクを収め、Siriとの会話で操作する家庭用スピーカー。
天気やニュースを訊いたり、メッセージの送受信などを手伝ってくれたりするホームアシスタントであり、対応する家電を声で操作できるスマートホームのコントローラでもある点は、先行する他社のスマートスピーカーと同じです。
しかしAmazonやGoogleの主力スマートスピーカーが音声アシスタントの普及を主眼に、いわば方便として『スピーカー』の姿をとり、導入しやすい価格を優先しているのに対して、HomePodは音楽と深い関わりのあるアップルが、音楽を楽しむスピーカーとして開発した製品。
独自設計の小型大容量ウーファーや、反響音を6つのマイクで拾いA8プロセッサで分析する空間認識、360度スピーカーでありながらビームフォーミングと壁の反射を使い広く奥行きのある音場を再現するなど、アップルが持てるハードウェア・ソフトウェア技術を投入して作った新しい音楽スピーカーであり、SiriもApple Musicの膨大なライブラリを自在に探索するためのインターフェースとしての役割を持っています。
高まる点
・「こんにちは、Siriと申します!」
・iPhone や Apple Musicとの統合。アップルらしい「Just Works」の極地
・優れた音質。サイズに似合わぬ豊かな低音、解像感、全域にわたるバランスともに、「スマートスピーカーにしては」の前置きなしで秀逸。全方位なのに奥行きがあり、小音量でもリッチな聴き応え
・置く場所・聴く場所を選ばず、調整の手間なく、自動的に最適化
・「部屋のどこでも、手軽に本格的な音」と考えると安い
覚悟すべき点
・「こんにちは、Siriと申します!」
・実質的にApple MusicとAirPlay転送専用(※)。Bluetoothや外部入力端子などの汎用性は眼中にない
・iOSデバイスがないとセットアップすら不可。完全にアップルエコシステムの住民向け
・スマートホーム系の互換性は要確認、Siri経由で使えるサードパーティのサービスは(まだ)少ない
・「スマートスピーカー」枠で比べると高い
(※iTunes購入曲およびiCloudライブラリ、Podcastも再生可。今秋予定のTuneIn Radioなど、一部ネイティブ再生できるサービスも)
ハードウェアとして
HomePodの基本仕様と仕組みについてのおさらいと、日本語で実際に使ってみた印象をまとめます。まず、本体は高さ約17センチ x 直径 約14センチほどで丸みを帯びた円筒形。
高さはGoogle Home や Amazon Echo / Plus より2~3センチほど高いだけですが、幅は明らかに太く、体積が大きくなっています。HomePodの売りである4インチ径の高偏位ウーファーは、Echo / Echo Plusや Google Homeの本体には物理的に収まりません。
スピーカー構成の差が実感できるのは、大きさよりも重さ。Google Homeが500g弱、Echoが800g前後なのに対して、HomePodは約2.5kgもあります。見た目よりずっしり重く、片手で掴もうとすると落としかねません。
天地以外を覆うのはメッシュ状のファブリック素材。各社スマートスピーカーでもありがちですが、HomePodの外装は縫い目も継ぎ目も弛みもなく、かなり疎で透過性が良いのにテンションが掛かったクッションにもなっています。
この外装も、アップルが見た目と音響特性を重視して(わざわざ)独自開発した素材。目立つよりも溶け込むことを重視した製品ですが、近くで見ると二層の立体構造が角度によって表情を変えます。そうまじまじと見るものでもありませんが。
外観で特筆すべきは、直付けの電源ケーブルが出ている以外、端子類が一切ないこと。ひっくり返してもラバー素材で円形の脚があるだけです。(ケーブルは強い力で引っ張ると内部のコネクタが抜けて分離しますが、MagSafeのように軽く外れる安全措置ではなく、そもそも抜くことが想定されていません。ケーブルは編みが細かく柔軟な布被覆で、露出しても見苦しくない仕上がり)。
底のラバー素材は、ある種の木製家具などの表面仕上げと相性が悪く、跡を残した例が海外発売後に伝えられていました。音響的にはできるだけ踏ん張りたいところですが、跡が気になるようなら板でも挟みましょう。
天面は光沢のある樹脂タッチパネルと、Siriの状態を示すマルチカラーのライト。中央のSiriぐるぐるが再生・停止ボタンを兼ねており、ダブルタップで曲送り、トリプルで戻し。ホールドでSiri起動もできますが、結局は声に出して操作するので、わざわざ近くでタッチして待つよりHey Siri を発音したほうが楽です。
セットアップはiOS必須。だからこその手軽さ
電源につないで iPhone や iPad (iOS 12端末)を近づけるだけで、画面にHomePodが現れて設定を始められます。AirPodsと同じです。
初期設定では置く部屋や使う言語の選択、個人のメモやメッセージ等にアクセスする「パーソナルリクエスト」を使うか否か、iCloud情報のコピーや使用許諾への同意などを求められますが、特に迷うことなくすぐに使い始められます。
自社の端末とアカウントを必須にしているだけあって、セットアップは実に楽。一般的なスマホ連携スマートなんとか製品のように、まずアプリを落として追加を選び、ボタンを長押しして点滅を始めたら~云々は不要です。iPhoneの設定を転送できるため、HomePodの使うWiFi設定なども意識する必要がありません。
サイズ感を裏切る豊かな音
Apple Music で聞き慣れた曲をジャンルごとに鳴らしてみると、印象に残ったのはこの価格帯の360度スピーカーとは思えない解像感と低音の豊かさ、そして高~低全域のバランスの良さ。
「この曲にこんな音が入ってるなんて知らなかった!」は決まり文句ですが、これまで安価なヘッドホンや低音の乏しい小型スピーカー、あるいは特にオーディオ志向ではない「スマートスピーカー」を主に使っていたなら、同じ楽曲でも確実に印象が変わるはずです。
音量にかかわらず、楽曲を構成する要素がぼやけた塊にならず輪郭を保ち、聞き慣れた曲も新鮮に、これまで特に心動かされなかった曲も音の快楽で改めて魅力に気づきます。
空間認識と音場の広がり
面白いのは、HomePodの位置と曲を変えつついろいろと聴いていると、一台なのに何故かセンターボーカルが前に出つつ、バックグラウンドは周囲に広がりをもって聞こえるような感覚があったこと。
常にはっきりと分かるわけではなく、またオンオフで差を確認もできないものの、これはおそらく空間認識Spatial Awareness機能と、ツィーターの指向性を利用した処理による効果。楽曲を左右チャンネルの差などから分析して、メインボーカルや楽器は部屋の中央(開けた側)に、アンビエントな音やバックコーラス等は壁に反射させることで、一台のHomePodでも広がりと奥行きを感じさせるとアップルは説明しています。
この空間認識はビームフォーミングと反射を使った効果だけでなく、どんな環境に置いても最適な音質に自動調整するための信号処理の基盤。特にセットアップの必要はなく、最初の楽曲再生時に自動で空間認識が走るとされています。本体に加速度計を内蔵しており、設置場所を変えたことも認識して再調整される仕組みです。
ステレオペアでさらに広く立体的な音場も
HomePodはWiFiベースの音声伝送規格AirPlay 2に対応しており、複数のスピーカーを同期させたり、部屋単位で流す曲を指定したりすることが可能。同じ部屋の二台をステレオペアに設定して、本物のステレオスピーカーとして使うこともできます。
ステレオペアを実機で試したところ、いかにも陳腐な表現で恐縮ですが、中央の何もない空間から透明な楽器が音を出しているかのような定位感覚。つい笑ってしまうほどでした。
このステレオペアも単に左右チャンネルを鳴らすのではなく、二台がお互いの音をマイクで聴いて相対的な配置を認識した上で、ツィーターのビームフォーミングを使い左右それぞれがダイレクトとアンビエントのチャンネルを分けて鳴らしたり、お互いのバス調整マイクを使いウーファー同士が相互補完したりすることで低音もさらに正確に豊かになります。
7ツィーターの全方位スピーカーであることも手伝って、ステレオペアにしてもスポートスポットがかなり広く、二等辺三角形の位置から外れてもちゃんと立体的に聞こえるのも魅力です。頭を動かさず正座して聴く必要はなく、どこに置いても広い範囲で楽しめます。
大音量でも歪みが少なく、小音量でも存在感ある低音
もうひとつ、HomePodで予想外に良かった点は、小さな音量でもバランスが崩れず、ボーカルも低音もスカスカの残り滓にならないこと。
一般的な小型スピーカーでは、大音響では歪みまくり割れまくったり、音を下げてゆくと特定の帯域が欠けたり、ボソボソした塊に溶けてしまったりと聴くに堪えないことも多いなか、HomePodは大音量からかなり小さな音量まで、破綻せず情報量を保ちます。
HomePodのウーファーは4インチ径。直径は小さく抑えつつ、振動板のストロークを20mmと異様に大きくとることで、コンパクトな本体でより多くの空気を動かす設計です。スピーカー径はともかくダイアフラムの振動幅はあまり仕様表で見かける数字ではありませんが、アップル的にはHomePodの設計における最推しポイントのひとつとして、低音調整用マイクと並べてアピールしています。
Apple Music x HomePod x Siriの魔力
Apple Musicに限らず、聴き放題サービスの売りのひとつは膨大な楽曲から新しい音と出会えること。しかしおすすめがよほどの当たりだったり、今日はなんでも聴いて開拓するぞと腰を据えていないかぎり、ピンとこない曲が続くと飽きてしまい、結局いつもの曲ばかり聴いてしまうのはよくある話です。
HomePodのジャンルを問わない高い再現力と、ほぼ部屋全体がスイートスポットになる「ながら聴き」適性、飛ばしたり評価したりが声だけでできるSiriは、この新しいお気に入り発見セッションに最適。
iPhoneやiPadで気ままにApple Music や各音楽サービスをブラウズしながら、あるいは他のことをしながら声だけでApple Musicを探索して、気に入った曲を収穫してゆくのは何とも言えない楽しさです。
(Apple Music以外のサービスはAirPlay再生になり、Siriで評価したりライブラリ追加ができないため、送信元の機器を触る必要があります)
音楽関連のSiri会話例
Hey Siri, 何か音楽をかけて
Hey Siri, わすれられないの を再生して
➡ Hey Siri, これはいつの曲?
Hey Siri, ONE OK ROCKの一番新しい曲を流して
Hey Siri, エド・シーランをかけて
Hey Siri, 今週の注目トラックを再生して
Hey Siri, 私の好きな曲をかけて
Hey Siri, K-POPをかけて
Hey Siri, この曲はなに?
Hey Siri, ボーカロイドベストのプレイリストを再生して
Hey Siri, エルトン・ジョンのRocket Hourをかけて
Hey Siri, ゆずのデビューアルバムを流して
Hey Siri, パープル・レインを聴かせて
➡ Hey Siri, 曲じゃなくてアルバム
Hey Siri, 80年代のダンスミュージックを流して
Hey Siri, ワークアウトにあうポップスをかけて
Hey Siri, ドライブに最適な曲を流して
Hey Siri, リラックスできる音楽を聴かせて
Hey Siri, SIRUP(シラップ)の新しいアルバムをかけて
Hey Siri, 愛を止めないでを再生して
➡ Hey Siri, これじゃない方
Siriが認識できる話し方の例。
ありがちな曲名の場合には「人気の~を何曲か流しますね」「Hey, Siri これじゃない」「では[別のアーティスト名]の~を流しますね」など、直前のやり取りの文脈によって対応できます。
実質専用機にして得たもの、制約
サイズに見合わぬ迫力とジャンルを問わない再現力があり、置く場所・聴く場所も問わず手軽に良い音が楽しめる優れたスピーカーですが、製品の狙いはあくまで「アップルの考える」新しい音楽体験を提供すること。
このため、そもそも製品の趣旨からして対応しない機能、アップル的に優先度が低く導入していない仕様などもあります。もっとも重要なのは、本当にアップル製品のユーザー、アップルのサービスのための製品であること。
音声でネイティブに再生できるのはApple Musicのライブラリと、iTunesで購入した楽曲、Podcast、Beats 1ラジオ、あるいはiCloud Music Library(※)の曲のみ。前述のように、そもそもiOSデバイスがないと設定すらできず使えません。(※Apple MusicかiTunes Match加入が必要 )
iPhoneユーザーだけれど音楽サービスはGoogle Play Music がメインだったり、YouTube Music や Spotify や Amazon Prime Music 等々を使っていたりする場合、まずスマホ等で再生してから、HomePodに AirPlay 伝送して鳴らす必要があります。
AirPlayでもSiriで再生停止や曲送り程度はできるものの、声で曲を指定したり探したり、ライブラリに加えたり、アーティストの情報を調べたりすることは不可。気分にあった曲の自動再生も、Apple Musicの機能なのでもちろん使えません。
システム要件に「すべての音楽機能を利用するにはApple Musicの登録が必要」と書いてあるように、Apple MusicなしでAirPlayスピーカーとしてだけ使うのはかなりもったいないことになります。
外部入力端子がなく、汎用のBluetoothスピーカーとしても使えないのも、やはり同じ「SiriでApple Musicを使う専用機なので」。
せっかくスピーカーを買うなら家中のいろいろなソースで使いたい、いろいろなサービスの曲を鳴らしたい、ゲーム機の音もテレビの音も、あわよくばホームシアターに組み込みも......という汎用機の需要は確実にありますが、HomePodは汎用性の対極。実質的にiOS専用、Apple Music専用にすることで、 Just Works なシンプルさと手軽さを実現した製品です。
おうちSiriデバイスとして
iPodの会社でありiTunesの会社であるアップルの音楽DNAが結実した製品、スピーカーとしてのハードウェア設計や信号処理こそ魅力の製品ですが、だからといってSiriはオマケというわけではありません。アップルの考える音楽の楽しみ方には、Apple Musicの膨大なカタログをSiriに直接話しかけて探すこと、声だけで快適に音楽を操ることも欠かせない要素として含まれています。
さらにいえば、Siri は現在のスマートスピーカー市場ができる前から、アップルにとって重要な新世代のユーザーインターフェースのかたちです (Alexaは2014年、Siriは2011年リリース)。
こうしたことから、HomePodは部屋のどこでも、何も持たず、身に付けずにSiriと会話できる初のデバイス、ある意味で家自体をSiriにするデバイスでもあります。
HomePodのSiriは、単体で天気予報やニュース、計算や翻訳、基本的な調べ物、タイマーやアラームのセット等々が可能。料理などに便利な名前付きタイマーの複数セットもできます。「パーソナルリクエスト」を許可すれば、メッセージの送受信やカレンダーと予定、メモ等の機能も利用可能です。
一方、いわゆるスマートスピーカーとしては後発であるため、スマートホームのコントローラや、会話インターフェースで使うサードパーティのサービス対応という点では、今のところSiri がキャッチアップする段階であることは確か。Alexaでいうスキルや、Googleアシスタントを経由して使えるサービスの多さには及びません。
しかしアップルはスマートホーム向けAPIのHomeKitを2014年から開発者に提供しており、多数の対応製品が iOS / macOS の「ホーム」アプリですでに利用可能です。HomePodもこのホームアプリの中にスピーカーとして加わります。
また、iOS 12から加わったショートカットアプリは、サードパーティを含むアプリのさまざまな動作を組み合わせた「ショートカット」を作成して、Siriから声で実行できる機能。このSiriショートカットのおかげで、対応アプリでショートカット化できるアクションならば登録して読みをつけて、HomePodから実行できます。
サードパーティアプリ側のショートカット対応は、複数アクションの連携やスクリプティングも含めるとまだまだで、iPhoneが目の前にないと意味がないショートカットも多いものの、HomePodの活用法を受け身で待つだけでなく、ユーザーの需要や工夫で改善する道筋はすでにできているともいえます。
微妙な点
そのほか雑多な、試用した時点で謎だった点、単に不便な点など
・タッチ操作は微妙。
ボリュームはスライドやGoogle Home流の回転ではなく、光る+/-を押す形式。まず小さなターゲットを狙って押す時点で負荷だし、現在のシステム音量もわかりづらく、微調整も難しい。Siriをメインに使うことになるが、Hey Siri はどこまで精度が上がっても確実ではない。
・Siriのステータスアイコンは横や下から見えない。設置は自由といいつつ、見下ろす場所でないとSiriが反応したかどうかも分からない。低い場所に設置しても自分が寝転んでいたら見えない。
・AirPlayでアプリから接続する場合、ネットワーク環境により遅延したりずれたりする。ステレオペアにしていても、一度ずれるとなかなか治らない。
・Siri は声で個人を識別できない。「パーソナルリクエスト」機能をオンにした場合、誰でもHomePodに話しかけてユーザーのメッセージ着信を読んだり送ったり、予定を知ったりできてしまう。
「同一WiFiネットワークにiPhoneがある場合のみ」の条件があり、iPhoneで認証を要求することもできるが、声でリクエストしてiPhoneで認証するのでは本末転倒。
・イコライザーや音関連の調整メニューはまったくない。よほど自動チューニングに自信があるらしく、実際にジャンルを変えてもほぼほぼ過不足なく鳴らしてくれるものの、好みにあわせてここは過剰なくらい強調したい、といった融通は利かない。あくまで「アップルの考える最善な」で、ユーザーは曲と音量くらいしか介入できない。
・ボーカルは基本しっかり持ち上がるけれど、中~高音域はもうすこーしキレがあるといいかな?(お好み)
HomePodはこんな人向け
・iPhoneユーザーでApple Music加入者なら。
・なかでも特に、「そろそろちょっと良いスピーカー欲しいな、でもどれを買えばいいのか分からないし、置き場所どうしよう」なら即買い。お家で音楽に浸る時間が楽しくて仕方なくなるはず。
・Siriと話すことに抵抗がなく、むしろ依存気味で、新AirPodsもイヤホンというよりハンズフリーのウェアラブルコンピュータだと思って買った人。新時代のアップル製「ホームコンピュータ」を最前列で見届けましょう。
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