年末年始のお休みも今日が最終日。明日は仕事始めになります。
全国各地で行われてきた越年の活動(年末年始の野宿者支援)も今日が最終日になりました。
年末年始は役所が閉庁し、福祉行政の機能が停止するため、各地で路上に取り残された人々を支援する活動が行われています。
今回は東京の渋谷区が炊き出しを妨害するために区内の3公園を封鎖するという暴挙に出たこともあり、大きな注目を浴びました。
ただ、今回の公園封鎖をきっかけに野宿者問題に関心を持った人の中には、「年末年始だけ活動をしている」、「炊き出しだけをしている」といった誤解をしている人もいるようです。
そこで、野宿者支援活動の広がりについて、改めてご説明したいと思います。
その前に、「野宿者問題についての基礎知識を知りたい」という方は、以下のページがよくまとまっているので、ご参考にしてください。
民間による野宿者支援活動は、バブル経済崩壊の影響で全国的に野宿者が増え始めた1990年代半ばから盛んになりました。
各地で越年の活動を担った団体は、どこも通年で炊き出しや夜回り(パトロール)、福祉事務所への同行といった支援を行なっています。
初期の野宿者支援は路上での直接的な支援が中心でしたが、徐々に活動の領域は広がってきました。
今ではさまざまな分野で支援活動は展開され、さまざまな業種の人が参加しています。以下に分野別に見ていきましょう。
【福祉・医療】
ホームレス状態で生活している人の中には、食事も満足にとれない人や持病を抱えている人もたくさんいます。
特に冬の時期には、冷たい路上で寝ているために体温を奪われ、凍死してしまう人も出ています。
そのため、各地の支援団体はボランティアの医師や看護師など医療従事者の協力を得ながら、無料医療相談会の開催など健康面での支援を行なっています。
その中でも東京・池袋で活動をしているNPO法人てのはしは、国際NGO「世界の医療団」などと協力をして、知的障がいや精神疾患を抱えた野宿者に特化した支援プロジェクトを行なっています。
野宿をしている人の中に、知的障がいや精神疾患を抱える人が非常に多いという事実は、このプロジェクトの中心を担っている精神科医の森川すいめいさんらの調査によって明らかになりました。
【法的支援】
医療従事者だけではなく、弁護士や司法書士といった法律家も専門知識を活かした野宿者への支援活動を行なっています。
東京を中心に活動するホームレス総合相談ネットワークは、生活保護の申請や多重債務問題など、ホームレス状態にある人のニーズにあった法的支援を行なっています。
生活に困った人が生活保護を申請するのは当たり前の権利ですが、住まいのない人たちには長年、生活保護の窓口で差別的な運用が行われてきました。
今でも野宿者に対する福祉事務所の水際作戦(窓口での追い返し行為)はなくなったわけではありませんが、こうした法律家のグループの活動により、以前よりは野宿の人たちが生活保護を利用しやすくなっています。
2008年には東京・新宿区で50代の野宿の男性の生活保護が三度にわたって却下されるという事態が起こりました。
この男性が法律家のサポートを得て裁判を起こしたところ、最終的に新宿区が敗訴し、その判決が確定しています。
【仕事づくり】
ホームレス状態になって困ることの1つに「履歴書に書く住所がなくなる」という問題があります。
野宿者と直接、話をしたことのある方なら、「仕事をしたくても住所や住民票がないために門前払いされる」という話を聞いたことがあるでしょう。
こうした状況を打開するため、野宿状態でもできる仕事を民間の手で作っていこうという活動もあります。
よく知られているビッグイシューは、「ホームレスの人だけが販売することのできる雑誌」であり、販売者は一冊(350円)売るごとに180円の収入を手にすることができます。
大阪で大学生たちが立ち上げたNPO法人Homedoorでは、「野宿のおじさんに自転車修理が得意な人が多い」という点に着目し、HUBchariというシェアサイクルの仕組みで仕事を作り出しています。
また、東京の山谷地域で支援活動をしてきた人たちが中心となって立ち上げた企業組合あうんは、リサイクルと便利屋事業で雇用を創出しています。
【住宅】
住宅支援の分野は手前味噌になりますが、私が代表理事を務める一般社団法人つくろい東京ファンドでは、住まいのない人のための個室シェルターを運営すると同時に、アパートの空き室を使った住宅支援を展開しています。
また、「アパートを借りたくても、契約に必要な保証人がいない」という人もたくさんいます。
私が理事を務める認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいでは、広い意味でのホームレス状態にある人がアパートに入居する際に団体が保証をするという事業を行なっており、2001年の設立以来、約2300世帯の保証を行なっています。
【教育】
野宿者が直面する深刻な問題の1つに、若者たちによる襲撃があります。
昨年、都内の支援団体が合同で行なったアンケート調査では、実に野宿者の4割が襲撃された経験があることがわかりました。しかも、加害者のうち38%は子どもや若者でした。
こうした襲撃事件をなくすために活動をしているのが、一般社団法人ホームレス問題の授業づくり全国ネットです。
このネットワークには、全国の支援団体関係者、報道関係者、教員などが参加し、各地の学校で「ホームレス問題の授業」を実施しています。
また、野宿者問題を子どもに伝えるための独自教材(DVDや書籍)も作って、その普及活動をおこなっています。
以上あげたものは、ほんの一部です。ここにあげた団体以外にも、さまざまな団体が各地域や各分野で活動を展開しており、相互に連携をしながら動いています。
年末年始に野宿者問題に関心を抱いた方は、ぜひ引き続き、野宿者支援の活動にご注目とご支援をお願いいたします。
最後に宣伝を。私の新著『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』は、過去20年間の野宿者支援活動の報告をまとめたものです。
90年代半ばからの支援活動の経緯や排除・襲撃問題についてもわかりやすく解説しているので、ぜひこちらもご参考にしてください。
(2015年1月4日「稲葉剛公式サイト」より転載)