北欧の夏の夜は短い。
午後10時を過ぎても辺りは明るく、戸外でスポーツを楽しむ人が大勢いる。白夜となり完全に日が沈まない場所もある。暗くなっても直ぐにまた夜が明け、睡眠不足に陥らないのだろうか。
一方、冬の夜は長い。
午後3時には薄暗くなり、遅い夜明けまで長い夜が続く。その間、多くの人は家の中で時間を過ごす。それ故に北欧では優れたインテリアデザインが誕生したという。温もりのあるシンプルな家具や照明器具、美しい食器や雑貨などが住空間を豊かに彩る。
今日、日本ではマンションのような共同住宅が住宅全体の4割以上を占めているが、マンションは画一的な間取りと内装で、残念ながら豊かで個性的な住空間とは言い難いものが多い。
一つの要因は、ライティング(照明)がまずいことだ。日本では天井にシーリングライトやダウンライトを取り付け、オフィスのように部屋全体を均一に明るくする照明が多い。
欧米の住宅では天井だけに照明器具をつけることはあまりなく、複数の壁付器具やスタンド照明を併用することが多い。
照明は明るさが必要だが、同時に暗さも重要であり、単純に一定の照度を確保することが住宅照明ではない。光と影を組み合わせ、室内にある様々な素材の表情(テクスチャー)を美しく魅せることが照明デザインの重要な役割だ。
どの部屋でも、壁面のブラケットや絵などを照らすピクチャーライト、フロアスタンドやテーブルスタンド、ペンダント型照明など複数の器具を組み合わせ、生活シーンに応じた照明のパターンを演出することで、豊かで個性的な住空間が創られる。
「照明」は光を見せることではなく光が当たった対象を見せることだ。光の色、明るさ、方向により被写体の見え方はまるで違う。最近ではLED照明が進歩して、一つの照明器具で光源の色、明るさ、照射範囲を変えることができる。
光源の位置や高さを変更すると、より面白い住空間が演出される。仕事をする時は部屋全体を明るくし、読書をする時は天井照明を落としてテーブルスタンドで手元を照らすなど、光源を切り替えれば同じ部屋でも雰囲気を大きく変えることができる。
近年では建物の内部だけでなく外観のライトアップも盛んに行われ、復元されたJR東京駅や東京スカイツリー、隅田川に架かる多くの橋などが夜間の美しい表情を映している。
マンションのような単調な空間も、室内の様々なモノを美しく照らし出すことで居心地のよい住空間に変貌するだろう。
日本にマンションが登場して約半世紀が経過し、成熟したマンションライフが定着してきた。それに相応しいあなただけの豊かな住空間を演出する「住まいのライティング」に挑んでみてはいかがだろう。
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(2016年3月22「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員