保育園の“使用済みオムツ” フランスは持ち帰らないのが当たり前。なのに日本は…

トイレの環境から、「保育の質」を考えてみた
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pecaphoto77 via Getty Images
(写真はイメージ)

今年も自治体から各家庭に認可保育施設の選考結果が届き始めた。Twitterでは、#保育園落ちた親たちの悲痛なツイートが溢れている。

しかし、たとえ保育園に入れたからといって油断はできない。

使用済みオムツの持ち帰りなど、保育園の運用をめぐる課題はまだまだ多い。「保育の質」をめぐるフランスと日本の違いについて、ライターの髙崎順子さんがレポートする。

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筆者は少子化克服国フランスの子育て事情を取材している。日仏の環境や制度の違いはとても興味深いが、その中で特に気になるのが、使用済みオムツの取り扱いと、それに伴うトイレの環境だ。

フランスの保育園では、ほぼ全園で紙オムツ使用・園内廃棄されている。保護者がオムツを持参したり、持ち帰ったりすることはない。

またオムツ換えスペースやトイレの作りも、私が見学した限りではあるが、ほぼ同じ様式で統一されている。

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Junko Takasaki
パリ市内保育所のおむつ換えコーナー。どこの保育所もほぼこのフォーマットで統一されている。

一方、日本の保育園では、保護者がオムツを持参する園も多い。園によって使用済みオムツの持ち帰りの有無は異なり、それによってトイレの作りも変わってくる。

持ち帰りのある園によっては、トイレの壁一面にビニール袋を下げ、使用済みオムツを児童別に保管するところもある。保管場所周辺の匂いは強烈だという。

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Tomaz Levstek
(写真はイメージ)

フランスも日本も、保育園の運用ルールには国や自治体の指針があるはずだ。それなのにどうして、このような違いが発生するのだろう? 特に「排泄物の処理」という、公衆衛生の基本であるべき部分で。

保育園の衛生管理のルールは、誰がどう定めているのか。

使用済みオムツの処理を調べてみたら、日仏で「保育の質」に対する考えかたの違いが見えてきた。

保育園のあり方の基本は、日本もフランスも大差ない。

まず法律が「保育園とはこうあるべき場所」という理念を定め、管轄省庁や自治体がその理念に沿った基準を「指針」や「条例」に決める。その基準に従うか否かで、認可が決まる。大きな違いは、その「認可」のあり方だ。

フランスで保育園を認可するのは、「母子保護センター」という、各地方自治体に置かれた医療機関だ。妊娠出産期の母親と6歳までの児童の健康維持を監督する機関で、保育所の設備指針もここが決める。

指針には園を運営する上での「最低限の目安」が書かれており、備品のサイズや個数など、具体例を示す場合が多い。

トイレを例に取れば、オムツ替えマットのサイズやゴミ箱の形(足ペダル式の蓋つきなど)を載せて、それぞれ最低何個、と記載する。

強制力はないが、認可元が「最低限こうすれば良い」と示しているので、それに反して独自のやり方をする園はほとんどない。

家庭内小規模保育(保育ママ)にも同様で、パリ市の指針を見ると、記載はオムツ換えマットの消毒方法やリネンの洗濯温度にまで及ぶ。

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Guideaveyron
アヴェイロン県の保育所設置ガイドのトイレ・オムツ周りの記載ページ。長文で、かなり具体的な指示がある。
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Guideparis
パリ市の家庭内小規模保育ガイドの、トイレ・オムツ周りの記載ページ。

一方の日本では、自治体の子ども家庭課(名称は自治体によって異なる)が保育園の設置基準を定め、認可する。しかしその基準は、フランスのように細かく示されていない。

トイレであれば「児童何人につき何個の便器」までといった記述のみで、最低限の衛生的なトイレはどんな場所で、何が必要なのか、などの客観的な目安がないのだ。

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千葉県認可指針/神奈川県認可の手引き
神奈川県保育所認可の手引き、および千葉県保育所認可指針の一部。オムツ換えに関する記載はなく、トイレ周りの指針も数行だ。

目安がない中で、「どんなトイレが衛生的なのか」を考えるのは、各保育所の責任者になる。

公立園なら園長、私立園なら社会福祉法人の理事長や株式会社の社長だ。それぞれが法律や指針、ガイドラインを読み、独自に判断する。

自治体に具体的な目安がないので、「これはアウト」といえるラインが明確に存在しない。衛生的か否かの判断は、事業者や自治体の監督官の主観頼り。だから園ごとに、前述のようなトイレのあり方の違いが出てきてしまうのだ。

オムツに関してはもっと曖昧で、私が知る限り、自治体の指針で触れているところはない。

国の法令には、厚労省の「保育所における感染症対策ガイドライン」に以下のように記されているだけだ。

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■おむつ交換

・ 糞便処理の手順の徹底

・ 交換場所の特定(手洗い場がある場所を設定し、食事の場等との交差を避ける)

・ 交換後の手洗いの徹底

・ 使用後のおむつの衛生管理(蓋つきの容器に保管)及び保管場所の消毒

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ここにも、「使用後のオムツの衛生管理」に関する客観的・具体的な記載はない。結局、保育園の責任者の主観に一任されているのだ。

このように客観的・具体的な目安を示さない行政の姿勢に疑問に感じる事業者もいる。オムツを園内廃棄する関東地方のある私立認可園の園長は、以下のように話す。

「『ガイドライン出したから、各園で勉強してマニュアル作ってね』という姿勢そのものが、責任逃れをする国の体質の現れのように思えます」

「使用済みオムツに関しても、自治体の回収頻度では保管に困り、処理を民間業者に依頼すれば園の出費になる。そこでオムツの持ち帰りをルールにするところが多いのだと思いますが、衛生上はありえません。個人的には、その園の衛生管理を信用できないレベルです」

一方のフランスでも、オムツの処理に明確な法令や指針があるわけではないが、紙オムツは園内廃棄がスタンダードだ。

その背景には、園内廃棄を選ばざるを得ない保育行政の大前提がある。国の社会福祉・家族法112条3項で定められた「予防原則」だ。

フランスにある限り、保育所にも保育所を認可する医療機関にも、この「予防原則」に従った判断・行動が求められるのである。そこには、児童の保護のために国は「子どもとその親の益となる予防活動を行わねばならない」と明記されている。

フランスで保健行政のトップにある「連帯・保健省」の担当者は、こう説明する。

保育所は"安全・衛生面が保証され、児童の健全な発達に考慮した環境"を整えるべき場所ですが、その前提として"予防原則"が定められています。

これは保育所内の安全・衛生管理に限らず、虐待や違法行為にも及びます。保育所運営のあらゆる環境整備やルールは、"予防"の点で適切か否か、で判断されることになっているのです。

使用済みオムツは「一般ゴミ」と規定され、自治体は他のゴミと同様、回収しなければならない。「感染症予防」の観点で正しく廃棄されるよう、指針でゴミ箱の種類やトイレの備品を定めている、というわけだ。

2017年12月の記事で紹介したように、フランスの保育園は「保育士の働きやすさ」を重視し、業務を合理化している。そこに予防原則を合わせて、設備面での細かい目安を示すことで、トイレ・オムツ周りの環境や運用の統一を図っているのだ。

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Junko TAKASAKI
(写真はイメージ)パリ市の保育園の2-3歳クラス

安全・衛生面に、客観的な目安はないの?

日本では、行政が運用ルールを事細かに定めることは、時に「規制」と受け取られ、好まれないこともある。とはいえ、保育の現場の負担軽減のために、フランスのように「目安」を示し、事業者の合理的な判断を促すやり方もあるのではないだろうか。

この日本とフランスの違いに関して、日本の保育関係者の意見を聞いてみた。

保育所の労務管理に携わる社会保険労務士・糠谷栄子さん(社会保険労務士法人ワーク・イノベーション)は、第三者として保育所を見ながらこうコメントする。

「トイレ対応は各園で安全・衛生のルール統一がなされていないのですが、『保育』の教育や、自治体主体の研修等である程度『常識』ができているため、ふつうの園で『危険だ・不衛生だ』と感じることはありません。この点で行政がマニュアルを与えることは却って保育士や現場に負担が増えるように思います。 ただ、『オムツは園で廃棄。回収費用はすべて国の負担』など、事業所と保護者の負担が共に減るルールなら歓迎です」 

ある私立小規模保育園園長はこう答えた。

「保育所のルールをガイドラインなどから拾って適用していくことは、医療や公衆衛生等の専門家ではない私たち事業者には、少なくない負担です。行政はガイドラインや指針等を今一度見直し、チェックリスト化したり客観的に数値化できるものはしていくべきではないでしょうか」

政府は2020年までに、待機児童対策で32万人分の保育枠の増加を約束している。

新たに保育事業に参入する事業者が増えるだろうが、それが皆「意識の高い事業者」である保証はない。保育の質を守るには、安全・衛生管理がまず第一の基盤だ。

どんな事業者が手がけても、最低限「これさえ守っていれば」と客観的に判断できるような目安を、国や自治体が示す時にきているのではないだろうか。少なくとも、トイレやオムツ交換といった衛生に関するところでは。

待機児童、保育士不足の問題は深刻化している。保育現場には、配慮とマンパワーを要する点が複雑多岐に渡る。行政の基準が曖昧なままでは、安全・衛生の管理に、保育士の貴重な配慮とマンパワーが持っていかれることになる。

行政がもう一歩踏み込んで、安全・衛生管理の目安を示すことは、保育士の仕事を合理化し、事業者の意識を底上げにつながる。それは現場の「保育の質」を高めることにつながるのではないだろうか。

(文:髙崎順子 編集:笹川かおり)