質の高い保育を目指して 現場の「働き方改革」をどう進めるか(座談会)

世田谷区の保坂展人区長らと議論した。
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Taichiro Yoshino
(左から)森川敬子さん、小嶋泰輔さん、山田華栄さん、保坂展人さん、泉谷由梨子さん、井上竜太さん、井上正明さん=東京都世田谷区

質の向上を語るには保育現場からの視点が欠かせない。ICT(情報通信技術)の導入や処遇など働く環境の改善に加え、現場からも見直せることはないか。前回参加したメンバーに加え、現役の保育士や保育園施設長、さらに世田谷区の保坂展人区長を加え、再び議論した。

■参加者(写真左から)

森川敬子(51)保育士。都内で小規模保育所を運営。元朝日新聞記者

小嶋泰輔(42)保育園長さくらしんまち保育園(世田谷区)園長

山田華栄(36)保育士。ポピンズナーサリースクール世田谷中町施設長

保坂展人(62)世田谷区長

泉谷由梨子(35)ハフポスト日本版エディター。第1子を2月に出産

井上竜太(41)「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」副会長。3人の子どもの保活を経験

井上正明(58)ポピンズ副社長。全国で認可・認証保育所やベビーシッター派遣事業を展開

■現場の負担策、どうすれば?

――まず泉谷さん、ご出産おめでとうございます。

泉谷:ありがとうございます。2月末に女の子が産まれました。今日は育休中の夫に任せて来ました。

――現在も保活中ですね。どんなことを感じていますか。

泉谷:今、4月で慣らし保育中に、0歳児のクラスを見学に行くと、保育士さんが前と後ろ両方におんぶと抱っこをして、両方ギャン泣き。髪の毛も振り乱して、大丈夫なのかと率直に思ってしまいました。ところによってはクラス担当以外の保育士さんを置いてサポートに入っている園もあれば、少ない保育士さんで回しているところもあって、園によって違いが大きいと感じました。

――実際問題、日々お子さんに向き合っておられる方々は、保育士の負荷の問題をどう受け止めていらっしゃるのか。

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小嶋泰輔さん

小嶋:確かに慣らし保育は大変じゃないと言ったら嘘になります。

ただ私たちの仕事の中で、ずっと泣いていた子がちょっと頭をもたれかけてくれて、あ、今少し信頼してくれたんだと感じる瞬間はやりがいでもありますし、頑張りどころだと思っています。

保坂:この3年くらい、国の方から、待機児童が多い自治体は、0歳児の1人当たり面積が5平方メートルと、国の基準(3.3平方メートル)をはるかに上回っている。だから3.3平方メートルにするべきだ。1人当たりの保育士さんが見る子供の数も国基準より減らしているから増やすべきだと、国から指摘されていました。最近になってまたそういう話が浮上してきています。現場ではどうなんですか。

山田:世田谷区は比較的、人を手厚く配置してくれる制度にはなっておりますが、やはり皆が皆泣いていると、1人で3人見るという国基準でも大変ですよね。

森川:保育って瞬間的に大変なんですよ。ちょっとオムツを変えなきゃいけなくて1人が離れると、他の子たちを見る人がいなくなる。

井上正:弊社は今年度、全25カ所の保育所を開園します。新卒および中途の保育士を年間数百人単位で採用することになり、4月は慣らし保育と新人保育士のOJTも同時にやらなきゃいけない。そういう中で、散歩とか食事のときには、場合によっては国基準の保育士配置でも厳しいときもあるかもしれません。

一方で、前回の座談会でも申し上げましたが、保育士の仕事の中には、保育士でないとできない仕事、保育士でなくてもできる仕事、ICTにより置き換えられる仕事があります。

保育士の配置基準については、そういうことをきちんと整理したうえで議論できないでしょうか。

例えばお掃除をしてもらったり、製作物を作っていただいたりなど、保育士の資格がなくてもできる仕事もある。それから今、経産省と実験をしていますが、ICTを使ってセンサーカメラで体温や脈拍を測って突然死症候群を防げれば、人を配置するよりも安全性が高まるかもしれない。

■おむつの持ち帰り

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井上竜太さん

井上竜:うちの子が通う園、おむつは持ち帰りなんですよ。自分でオムツに名前を書いて。お迎えの後に夕食の食材を買いに行ったりしながら、あれを持ち歩くのは、衛生面でも、気持ちの面でもよくない。豊島区が使用済みの紙おむつをすべて園で廃棄することにしたというニュースがあり、すごくいい取り組みだなと思ったので、保育士さんの手間や行政の対応としてはどうなんでしょうか。

小嶋:処分は、私たちもこっちでやらせてもらった方が楽です。

たまに取り違いで違う子のオムツを持って帰ったりするんですよ。そうなるとご家庭にお電話しなきゃいけなかったりします。こちらで始末させてもらった方がいいと思います。

山田:そうですね。

小嶋:世田谷区の中には0歳はもちろん、1歳児以上も保育園で処分する園が増えてきている様です。行政の後押しもあります。

保坂:昔、布オムツだったからね。

泉谷:その名残なんですか。

保坂:名残というか、その時代からですね。「布の方がいい」と言う声もあったんですよ。

小嶋:ウチも4.5年前までは0歳児クラスは布オムツでした。

井上竜:高崎順子さんが中心となって行ったネットでのアンケートでは、持ち帰りの園と廃棄の園が半々くらいでした。

森川:私たちの園は、最初から園の処分です。間違えたら大変、他の子のウンチを持ち帰っちゃうんですね。オムツに名前は書いてあるんですけど、仕分けるのも大変。なので、全部捨てる方がこちらも楽。ただ費用がかかるのでそこは何とかして欲しいです。

井上竜:豊島区のおむつ廃棄とか、いろいろな好事例を横に展開して、23区にとどまらず全国でやって欲しいですよね。

■「保育士こそ働き方改革が必要」

井上正:保育の現場できつい、長い、安いのイメージが定着している。安いは国と区の待機児童対策でかなり改善しています。ところがまだ、長い、きついのところが、改善の余地がある。

小嶋:現場の3つの課題を紹介しますと、一つは会議改革です。保育士さんの昼間の会議は、子どものことをいろいろ話していたらすごく長い時間がかかりるものですから、子どもをどう見て、どうアプローチするかを効率的に話し合っていかなくてはなりません。保育士の休憩時間も同じ時間帯に消化しなくてはなりませんからやりくりは大変です。

もう一つは書類改革です。監査もパスしなきゃいけないので、たくさんの保育書類、運営書類に囲まれている中でいかに省力化し、より保育に活かせる書類に変えていくことが課題です。

最後の一つは行事改革です。やはり保護者は少しでもいい行事を見たい。私たちも見せたいので頑張っちゃう。ちょっと子どもにストレスをかけて教え込んだり、練習がちの生活になったり。でも子どもは本当におままごとがしたかったり、お砂場で遊びたかったりする訳です。そんな生活が続けばそのうち登園を渋ったりします。そうなるとお父さん、あ母さんも大変です。実は誰も幸せになっていなかったりします。もっと保護者も巻き込んで生活と遊びに近い行事に変えていかなくちゃいけない。

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保坂展人さん

保坂:待機児童の問題は女性の社会参加を促していくという側面がある。しかし今の日本の現状はまだ長時間労働ですよね。朝早くから夜遅くまで預かる保育をずっと続けていくと、第二子、第三子は産まれていかない。

ヨーロッパでは「6時に皆ご飯を一緒に食べられるのは当たり前でしょ」と言われるんですね。日本は逆ですよね。企業も子育て中の社員には当たり前に配慮する。残業をさせない。介護もそうかもしれない。そういうことが求められる気がするんですが。

井上正:おっしゃる通りです。日本でも働き方改革の議論が盛んになっていますが、社会的インフラとして子育てと仕事の両立を支える保育士こそ働き方改革が必要だと思います。

実際、保育士の産休・育休取得者が年々増えており、保育士自身の仕事と子育ての両立が問題となっています。世田谷区では、保育士が復帰しやすいように優先入園を認めていただいていますが、全国的にもっと認めていただきたいと思います。

また、育休復帰者の増加に伴い時短勤務者も増えており、早番遅番の勤務ができないため、国から認められた、朝夕等の児童が少数となる時間帯における保育士配置一人体制を、世田谷区でも認めていただけないでしょうか。

さらに、シニアの潜在保育士や子育て経験者が保育士や子育てサポーターとして、早番遅番や、週2、3回でも勤務してもらえれば現場は大変助かります。ぜひシニアの保育人材を大募集する世田谷モデルをつくれないでしょうか。

専業主婦は全国に640万人とも言われており、社会保険適用拡大や配偶者控除見直しなどの動きの中、子育て経験をキャリアとして認め、保育所の働き手として活用できると大変助かります。

――みなさん認可保育園を運営しておられますが、延長保育の問題は現場に負担をかけることはありますか。

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山田華栄さん

山田:ポピンズの保育園では延長の定員は10人ですが、利用者は思ったより少ないという印象があります。午後8時15分まで開園しているのですが、7時半くらいにはお迎えにいらっしゃる方が多くて、地域性もあると思います。都心から近いところですと、職場までの通勤時間がそんなにかからなければお迎えも早く来られますよね。以前、西東京市の保育園で働いたことがあるのですが、やはり通勤に時間がかかると、その分延長を利用される方も多いようです。

森川:私たちの園は0歳児は延長をやってないのと、実は結構、お母さんが時短を取ったりしていて、利用者は1~2人。お医者さんなど、そもそも仕事が長時間の人が多いですね。

私自身も午後6時にご飯を食べられないような仕事だったので、延長保育は当然と思っていました。土曜保育も、前日の金曜日に頼んだりしていました。ところが逆の立場になると、子どもにとっても長時間保育って大変だなということがみえてきて、利用者だったときの私って何もわかってなかったなとつくづく思うんですね。

山田:お母様方がお迎えに来たとき、お子様が最後の1人だと、お母様はすごく罪悪感を持たれるんですよね。「ごめんね、1人にして」って。でもお子様が寂しくないように、楽しく過ごせるようにというのが保育士の仕事なので、お子様が「まだ帰りたくない」と言われると「えー」と言いながらも、ちょっと嬉しい。

森川:寂しくはないんですよ。だってたっぷり遊べるし、おもちゃも保育士も独占できるので、実は1人、2人の方が伸び伸びしてる。

井上竜:あのポツンという後姿を見ると、寂しそうに見えますけどね。

小嶋:スーツ姿のお父さんがバタバタと迎えに来られる、大変そうだけど嬉しそう。何だか頑張ってお迎えに来たことが誇らしげにさえ見えます。「お父さん、来たぞ!」っていう。

井上竜:1日でいちばん嬉しい瞬間です。

小嶋:最近はお父さんが朝送ってくることがとても多いです。

山田:朝は多いですよね。

小嶋:やっぱり格好いいし、輝いていることを伝えていかないといけないですよね。

■ICT化はどの程度有効か

――前回の座談会の時に、ICT化が遅れているのではないかという指摘がありました。例えば手書きのノートにこだわる必要があるのかと。現場はどうなっているのでしょう。

井上竜:手書きのノートってお昼寝中に書くじゃないですか。ということは夕方まで預けているのに午前中の様子しか書かれていない。先生も慣れるのは大変だと思うんですけれど、もうスマホでできないか。

小嶋:大手はICTでも先進的な取り組みをされておられるのではないかと思いますが。

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井上正明さん

井上正:ポピンズは全て電子化しています。保育士が書く週案や月案とかはもちろん、登園管理もスマホにバーコードをかざすと、お子さんを何時に預けて何時にお帰りになったと記録される。保育士もタイムカードではなくてバーコードをかざすことで勤怠管理できる。

連絡帳も保護者様の方でダウンロードできるので、印刷もできるし、成長の記録をデータベースとして持つことができるのでお客様には喜ばれています。今後そういった記録に写真を入れていくことで、卒園アルバムにもなる。お客様のニーズの合うように使っていきたい。

小嶋:うん。強みですね。私達も見習っていかなきゃいけないところですね。

泉谷:私は見に行った保育園で、登園と退園の管理のタブレットが置いてあって、「延長分の支払いが電子マネーでできます」と説明を受けました。ICT化は進んだらいいなと思います。

森川: ICTはいろいろ調べて導入しています。保育計画を、年間、月間、週間、そして日ごとに立てて実施の報告を書いていかなきゃいけないんですね。計画や日誌は全部パソコンで打てるようにしました。が、ベテランさんは打てないんでちょっとネックになってます。

連絡帳だけはわざわざ手書きにしました。出欠も全部スマホで送れるし、体温も自宅で測ったのを送れるし、電話の必要も言葉にする必要もなくすことができるんですけど、それをやると保護者とコミュニケーションが取れなくなってしまう。保育士も「連絡帳は手書きでいい」という意見でした。

連絡帳はお昼寝の時間に書くので、お子さんの様子は午前中のことしか書けないものなんですけれど、午後の様子などはお迎えのときに「こうでした」「ああでしたよ」と、保育士の会話で補うこともできます。

保坂:これから時代も変わりますので、ICTを取り入れるなど、いろんな改革は是なんですけれども、ただ効率を良くするとか、もっと数をこなす方向に転じてしまうと、子供にとってはあんまりよくないだろう。しっかり議論をしていきたいと考えています。

■激しさを増す保育士の確保

保坂:保育士さんの確保が、自治体としても園としても大変だと思うんです。

あらゆる手段を駆使して待機児童問題の解消に総力をあげた結果、保育園が増えたんですけれども、世田谷区だと約3000億円ですね。そのうち保育園の整備と維持運営のために480億円。ここ数年でも3、4年前は200億円台。ズンズンと上がってきている。それがどこまでできるだろうという問題に、多分この先は自治体が直面してくると思います。

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森川敬子さん

森川:10年くらい前は介護の人手不足と言われた時期がありました。今は保育に追い風でいっぱい補助金がついて、すごく嬉しいことではあるんですが、厚労省の財布は1つなので、そのうち今の様々な補助も削られてしまうのではないかという不安があります。

――保育士集めはすごく過熱していると聞きます。

森川:そうですね。新参で弱小の園は苦しいです。もう本当にツテ頼み。新規オープンというのはちょっと掴みになるみたいで、奇跡的に昨年の9月は応募があったんですけれど、今年の4月募集は全く反応なし。区の方針で小規模保育園では新卒は全保育士数のうち一定割合を超えてはならないので、採用できない。なので、本当にベテランばかりです。

でも、誰でもいいというのでもないんですよね。

小嶋:たしかにそうですね。

森川:やっぱりチームワーク。大きい保育園や、複数園経営していて異動先があるところなら「ちょっと合わないな、この人」となったら、クラス変えもできると思うんですけれど、私たちの園は本当に小さいので、慎重にやらないといけない。

井上竜:先生が毎年、すごく変わるんですよ。

小嶋:どうお感じになりますか?

井上竜:持ち上がる時に全員変わっちゃうことがある。1人でも子どものことを分かってくれている人が持ち上がればいいんですけど、誰もいないと「大丈夫なのか」と。

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泉谷由梨子さん

泉谷:そんなにいなくなるんですか? 先生って。

井上竜:別の区に行くと、補助金が付く、手当が付くとなると、保育士さんは行ってしまう。それは全然責められないんだけど、かといって全員いなくなってしまうのも困る。自治体間の奪い合いが影響しているのかも。

小嶋:保護者の動揺を招く。つらいですよね。流動性が高まっていて、簡単に入るし、簡単にやめてしまう。施設の責任もあるんですけど、やっぱり回転が早くなってしまっています。

森川:熱心でいい保育士ほど、年度途中には絶対にやめないんですよ。担当している子どもをちゃんと卒園させたり進級させたりするために。力量のある保育士は、動きが効率的で、全体を目配りができる。やっぱり最後は人、保育士だと思う。処遇が質に結びついていると、つくづく思いますね。

――かといって自治体間の待遇競争に参入しないことには、きっと流出も防げない。

井上竜:都道府県とか国レベルでベースを上げないと、結局、いい手当てのところに人は流れます。

後藤英一・世田谷区保育課長:奪い合いは本当に意味がない。世田谷区も処遇改善で保育士さんと看護師さんに月1万円の補助を出しているんですけれど、もともと保育士という資格に対する日本の評価があまりにも低すぎるという趣旨だった。もっと根本的な処遇改善は絶対に必要だと思っています。

ただ、それを上回る何かというと、そこはお金ではなく、働きがいをどう見出していくか。働いている方々と自治体が一緒に、いろいろな取り組みをやって、「こういう自治体なら働いてみたい」ということにつなげていかないといけない。

■入園時期の多様性

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泉谷:うちは早生まれなので1歳になった4月になると入所の倍率が高くなってしまいます。そこで、年度途中の入所を目指しているんですけど、一体何月に入れればいいのか迷います。いちばん早く応募できるのが6月1日ですが、まだ子供が生後3か月。やっと母乳が出るようになったぐらいでまた預けるとなると、乳腺炎などのリスクもあり母体への負担も大きいと感じ始めています。

産まれる前は知識として、ポイントを稼ぐために認可外にまず預けようとも思っていたんですけど、実際に認可外と認可、様々な園を比べてみて、自分のおなかから出てきた子を見ると、やっぱり質が高い保育園でないとという思いが強くなりました。ポイント稼ぎのためだけに多少不安があっても入りやすい園に早く入れるのは、果たしていいことなのか。机上の空論で考えていたことがよく分かりました。

井上竜:うちは8歳、6歳、2歳の子がいて、下の2人が保育園に今も通っています。以前から疑問に思っているのは、事実上4月にしか入れないという現状。預ける側からすれば、4月というのは選ぶことができない入園時期なんですよね。でも園の側から見ると4月に全員どんと入って来るというのはどうなんでしょうか。秋からも入れるようにすれば、現場の負担も分散されるのでしょうか。

山田:長年保育士をやっていますが、4月に新入園児がどっと入るのは、そういうものだと思っていたので、ずれたら楽なのになと考えたことがなくて。チームワークを駆使して4月を乗り切ったら、お子様もだんだん慣れてくる。でも、バラバラに来てもらった方がゆっくり慣らし保育ができると考える保育士もいるかもしれないですね。

小嶋:僕も経験したことはありませんが、どちらかといえば分散した方がいいのかなと思います。赤ちゃんが園に慣れていくのって、他の赤ちゃんが朗らかにしているとか、先生が朗らかにしているとか、年上の子供たちが楽しくしているという様子を見て馴染んでいくことがあります。赤ちゃんって集団の影響を敏感に受けるんですよね。

それより泉谷さんの様な、預けたいときが4月じゃないという方が問題ですよね。

――大きい園や、たくさん経営されていると事情は違うんですか。

井上正:保育の質という観点では、途中からでも、年度初めでも、どちらでも問題なく対応できます。3月に卒園して小学校の集団教育に入っていくわけですから、集団保育に慣れていくという意味でも新年度である4月から入るというのもありですし、逆にそれが叶わなくて期中から事業所内保育所でお預かりしている方も、保育の質では差が生じないようにしています。

井上竜:ポピンズさんの規模があって、保育士さんをたくさん抱えている中で運用できることですよね。

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森川:事業者の立場からすると、補助金は子供1人当たりに支給されるので、例えば9月に空きがある状態にしておくということは、その分欠員になってしまう。小規模の園であれば、欠員の分の収入が減ると経営が苦しくなる。月単位、半年単位くらいで1カ月に1人ずつ入れ替わるのは有りかもしれないですけど、経営面がどうなるかな。

保坂:朝から夜までフルスペックの保育以外にも、もう少し短時間とか、週に何回かとか、いろんな事情の方がいて、いろんな保育ニーズがある。そこに応えきれていない。働くお母さん、お父さんが保育スペースに預けた子供の近くで働くことができる環境をつくろうと、一種の社会実証実験的な意味合いもあるんですけれど、今年度から世田谷区で始めるんです。多様な働き方にきちっと対応できるよう努力していかなければいけないと思っています。

■保育の質を高めるために

――保育の質を高めるために、それぞれの立場でどんなことができるでしょうか。

小嶋:うちには20人の保育士がいるんですけど、保育の質を問われた時にみんな漠然とした不安に襲われたんですね。自信が揺らいだというか。その理由は保護者が求める保育の質、子どもが求める保育の質、働く私たちが理想とする保育の質、もっと言うと社会が求めるこれからの時代の人材育成という観点での質、それぞれの思いがあって、それを全て満たすことってとても難しいじゃないですか。

保護者が求める保育の質は、延長保育、土曜保育、立地、清潔安全、いろいろありますよね。どれも大事なことだと思います。そこで気づいたのは、子どもにとっていい保育というのが、私達にとっても保護者にとっても社会にとってもいい保育という考え方はきっとぶれない。

お給料も、働く時間も、それが大事なことはもう前提だと思います。その上でまだ保育業界も私達自身で改善していけることがある。私たちも頑張るので、行政にも頑張っていただいて。皆で議論していって、よくしていかなきゃいけないと感じるところです。

森川:保育現場の発信って少ないんですよね。皆さん時間もないし、日々いろんなことが起きる現場なので。保育のここが素晴らしいというところ、たとえば最初の方で小嶋さんが言われたように抱っこした時にあたまをもたれかけてくれる、信頼してくれたんだと感じたその瞬間とか、そういうのがもっと出てくるといいと思いました。

山田:保育士に保育のやりがいを聞くと、やはりお子様の成長を感じたときが一番うれしいという声がすごく多いんですよね。今日歩けなかったけれど、明日歩けるようになったとか。「先生」って呼んでくれたりとか。

井上竜:親と一緒なんだ。

山田:今までは、もしかしたら保護者の方が見られない時間をただ預かるだけの保育士だったのが、時代とともに変わって、たとえば教育的要素も求められるようになってきました。今は待機児童の問題がありますけれど、多分もうそろそろ、選ばれる保育園という時代に入ってくると思っています。実際に幼児は定員割れしている保育園も何園か出てきている。

そうなると、選ばれる保育園は、いかに質の高い保育士が揃っているか。保育士がやりがいを感じて、保育の仕事を楽しいと思える環境がいちばん大事。それがもしかしたら処遇の面かもしれないし、お子様の成長をじっくり見られるというところかもしれない。仕事の質や、事務作業の軽減を考えていくところが質につながっていくと思います。

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井上正:保育の質というのは愛情から始まると思うんです。親から愛されることだけではなく、保育士ひとりひとりがお子様にどれだけたくさんの愛情を注ぐかが大切だと考え、保育の質はここに収れんし、そこから進化していくべきものと信じています。

さらに、私が大切だと思うのが、保育の現場の多様性。たとえばいろんな人生経験をしてきているシルバー人材はものすごい財産です。それから、ポピンズには200人くらい男性の保育士がいます。保育の現場はほとんど女性というイメージがありますけれど、実は男性保育士は女性にできないいろんな活躍ができる。最後に、たとえば外国で乳幼児教育を受けた人材に働いてもらって、性別、年齢、国籍、文化、いろんなダイバーシティに触れることで、お子様が成長していく。そういうことをやっていく中で、将来グローバルに活躍していけるような育ちを支援していけると思っています。

井上竜:待機児童の問題はまだまだ量的に足りない。現場のお話を聞いて、自治体や国で、保育士が子どもを見る本来の仕事に時間なり体を割けるための支援は、まだやりようがあるんだと感じました。待機児童対策のお金が、たとえば今後減ってくるとしても、そういうところに転換していってほしい。

何億円というお金をかけずにできることが、まだ残っている。たとえば世田谷区はアプリで保育園の所在地や定員数を地図上で見られる。保護者の負担も減る。保育園を整備するお金に比べたら、アプリの開発なんてポンとできるはずなのに、全然やろうとしていない自治体が他にもある。見本となるいい施策は自治体間で横に展開してほしい。

泉谷:親の立場からすると、ICT化や行事の改革は、結局、それが子供に返ってくる問題。保育士さんの処遇改善もですね。各自治体や各園の努力だけでできない部分もあると思うので、制度を作って、全体の底上げをしてほしい。保育の質は上げてほしいけれど、実際は待機児童問題も全く解決しておらず、行きたい園を選べる状況ではない、一律に質が底上げできるような政策を国や自治体に求めたいです。

保坂:この間、親たちが保育についていろいろ声を上げ続けた。保育園足りないということから始まって、保育の内容や入園のあり方、時期の問題とかいろいろ出てきている。これは本当に素晴らしいことだなと思っています。今までは利用者が言うことではないという、突き放した関係がもしかしたらあったのかもしれないけれど、今後は一緒に作るということができるといいですね。