HIVに感染したからって結婚も妊娠もあきらめたくない。むしろ恋愛に積極的になれた女性の物語

HIVに感染した女性はやがてある男性を好きになった。交際から2週間、いよいよという時を迎え、女性は感染の事実を伝えた。男性の反応に女性はぼろぼろと涙をこぼした。
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HIV感染について自ら書いた手記を読む女性=東京
Kazuhiro Sekine

かつて「死の病」と言われたエイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)は、医学の進歩で発症を封じ込むことができる時代になった。

治療薬によって原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の活動を抑え込み、長生きもできれば他の人に感染することもない。セックスや妊娠、出産も可能だ。

にもかかわらず、社会ではいまだにHIV陽性者(感染した人)への差別や偏見が絶えない。

ハフポストはHIV陽性者たちのリアルな姿を紹介する。彼らに対する社会の眼差しが変わることを願って。

■関東に住む30代女性

HIVに感染していることがわかったのは今から9年前のことです。当時、半同棲状態だった交際相手の男性がエイズを発症したので私も検査したところ、判明しました。

後から考えれば初期症状はあったんです。高熱が出て病院を受診したのですが原因はわからず、解熱剤や抗生物質を服用していました。熱が下がると今度は咳が止まらなくなって。それもそのうち治まって。その時はHIVなんて想像もしませんでした。

彼は肺炎で2週間ほど入院しました。私も発覚から5カ月たって投薬治療が始まりました。

彼に怒るような気持ちはありませんでした。彼自身、感染していたことを知らず、わざと移したわけでもないので。

何より、感染したことを誰にも言えず、頼れる人がお互いだけ。彼はむしろ心強い存在でした。

それでも結局、彼とは別れてしまいました。

感染で結婚も出産もあきらめたくない

感染が発覚した当初は私も落ち込み、しばらくは1人でもいいと思ったこともありました。

でもそのうち、「感染したからといって、なんで全てをあきらめなくちゃいけないの。結婚したいし、子どもだって欲しい」という思いが強まり、むしろ恋愛に積極的になりました。

そして6年ほど前。仕事の関係で知り合った男性と付き合うことになりました。それが今の夫です。

交際から2週間後、いよいよという時を迎えました。

私はあえて病名を出さず、感染していることを伝えました。HIVのことだと気づいた彼はびっくりしていました。でも「今まで通り付き合いたい」と言ってくれたんです。私はぼろぼろと涙をこぼしました。

とはいえ、すぐにはセックスできませんでした。どこまでできるのか、どうしたらいいのか、おっかなびっくりの状態が1カ月ほど続きました。彼にとっても受け入れる気持ちの準備が必要でした。

3カ月ほどすると彼も気にしなくなり、普通にセックスもするようになりました。交際から1年半後、私たちは結婚しました。  

妊活にも挑んだが...

夫とは「子ども欲しいね」と話すようになり、妊活を始めました。まずは自宅でできるシリンジ法を試しました。精液を注射器で吸い上げて自分で膣の中に入れる方法です。

その後、病院で人工授精にも挑みました。それでも成果が出ず、別の病院で体外受精にステップアップしました。この病院は自宅から片道1時間半かかり、毎回2時間ほど待ちます。 

おまけに採卵前の2、3週間は2日に1回のペースで通う必要がありました。もっと近ければよかったんですが、HIVに感染している人を受け入れてくれる病院はここしかないと最初の病院で言われて。

試しにHIV感染者も受診しているという別の病院に問い合わせたら、担当の先生がお亡くなりになったとかで断られて。

HIV感染者にとって妊活のハードルはとても高いということを実感しました。

結局、体力的にも金銭的にも限界で。今年に入って積極的な妊活は終えることにして、今は自宅でできるシリンジ法に戻しています。

お互いやり切ったよねと納得したはずなんですが、夫の方は子どもが欲しいという願望が強いようです。

私はそこまで頑張らなくてもいいやと考えています。子どもがいたらできないこともあるわけだから、夫婦2人で老後まで楽しく暮らせばいいと思っています。

私の親にも、夫の親にも感染のことは絶対言えません。そんな中、私を受け入れてくれた夫には感謝しかありません。そして、私を励ましてくれたもう1つの存在は、同じ境遇の人たちのコミュニティーです。

感染当初はネットがあれば情報は入手できると思っていましたが、移された彼と別れた後、自分は孤独なんだと気づきました。

それから感染者の支援団体「ぷれいす東京」に通うようになり、ほかの感染者の皆さんと実際に会って話すことでずいぶんと元気をもらいました。

正直、今は私生活で困ることはないです。薬さえ飲んでいれば発症を抑えることができるわけですから。

妊娠・出産もできる

治療薬や医療技術の進歩により、生まれてくる子供やパートナーへの感染リスクを抑えて、妊娠・出産することができるようになった。男性がHIVに感染している場合は、薬で血液中のHIVの量を減らし、精子からウイルスを取り除いた上で体外受精することで感染リスクを抑えられる。女性がHIVに感染している場合も、薬で血液中のHIVの量を減らした上で、帝王切開で血液への接触をなくし、粉ミルクで育てることによって、生まれてくる赤ちゃんへの感染リスクを下げられる。HIVや不妊治療、人工授精を専門にする医師へ相談することで、より安心して出産に備えられる。

「HIV/エイズについて知っておきたい9のこと」はこちら

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