将棋のタイトル戦「竜王戦」の挑戦者になった三浦弘行九段(42)が、過去の対局中にスマートフォンなどに搭載の将棋ソフトを使って不正をした疑いがあるとされた問題で、日本将棋連盟が設置した第三者調査委員会(委員長:但木敬一弁護士)は12月26日、「不正行為に及んでいたと認めるに足りる証拠はないと判断した」と発表した。これを受けて三浦九段は27日に記者会見し、「家族が本当に参ってまして…なんでこんな仕打ちを受けなければいけないのか」と胸中を語った。
質問に答える三浦弘行九段=27日
■不正疑惑、久保利明九段・渡辺明竜王ら複数棋士が指摘していた
渡辺明竜王(32)も、三浦九段が勝った20局のうち4局で定跡手順を外れて以降「ソフトとの一致率が90%を超える」として、その不自然さを連盟幹部に訴えていたと、朝日新聞デジタルが報じていた。
こうした経緯から、三浦九段は以下の4つの対局で不正疑惑がもたれ、10月12日に年内の公式戦出場停止措置となっていた。
疑惑については、10月20日発売の週刊文春が「将棋『スマホ不正』問題を渡辺明竜王が独占告白」と報じた。こうしたことから、日本将棋連盟は第三者調査委員会を設置。第三者委員会は2カ月近くにわたる調査の結果、「不正行為に及んでいたと認めるに足りる証拠はないと判断した」と発表した。不正の証拠がないと判断した根拠は以下の通り。
また第三者委員会では、三浦棋士からスマートフォンやパソコンなど家族のものを含む電子機器を外部業者に解析を依頼したが、不正行為をうかがわせる痕跡は確認されなかったと結論付けた。
第三者委員会は、久保九段、佐藤天彦名人、羽生善治三冠、渡辺竜王ら複数の連盟所属棋士にも分析やヒアリングを依頼したことを明かした。その上で、多くの連盟所属棋士が「三浦棋士が将棋ソフトの助けを借りずに自力で指した指し手としても不自然ではない。離席の長さやタイミングが不正の直接の根拠とはならない」としたという。
一方で、連盟側が三浦九段に出場停止措置を下したことや、丸山忠久九段(46)を竜王戦の挑戦者として繰り上げた一連の対応について、第三者委員会は「処分当時、疑惑が強く存在し、三浦棋士がそのまま竜王戦七番勝負に出場していた場合、大きな混乱が生じていたことは必至」であり、「やむを得なかった」と判断した。
その上で「三浦棋士を正当に遇し、その実力をいかんなく発揮できるよう諸環境を整え、一刻も早く将棋界を正常化されるように」と提言した。
■三浦九段「なんでこんな仕打ちを受けなければ...」
質問に答える三浦弘行九段=27日
連盟の第三者委員会の調査結果の発表を受けて、三浦九段は27日に記者会見した。三浦九段は会見の冒頭、「そもそも疑惑はなかった。また理事が監視していたにも関わらず、不審な点がなかった。それなら竜王戦七番勝負に出場させれば良いのでは。出場できなかったのは本当に残念」と、連盟の一連の対応を批判した。
今後の処遇については、「無理なんでしょうけど、元の状態に戻してほしい。叶わないでしょうが、竜王戦を…難しいんでしょうけど、元の状態にもどしてほしい」と悔しさをにじませつつ訴えた。
三浦九段とソフトの一致率が高いと主張した渡辺竜王については、「そもそも渡辺さんとは何局も対局している。週刊誌かなんかで最初は疑っていなかったと…それが普通だと追うので…。疑われたというのは、そんな風に思われていたのかと残念です」とした。
対局をめぐる不正疑惑が出たことについては、「金属探知器だとか、厳しい環境で棋士が指していくのが棋士を守るという意味でも一番いいと思う」と提言した。
疑惑が報じられてからの直近2カ月半については「私個人のことだけでしたら、なんとか耐え切れたのかなと思うんですけれど。家族が参ってまして…本当に、なんでこんな仕打ちを受けなければいけないのかなと。ちょっと家族がひどい目にあったのは思うところがあって。詳しくは言えないが、家族にすごい迷惑をかけていたのが申し訳ない」と語った。
三浦九段の会見に同席した横張清威弁護士は、第三者委の結論について「事実として評価できる」とした一方、出場停止にした連盟側の判断を「やむを得なかった」と認めたことについて、「依頼者の将棋連盟に寄り添ったもので、極めて不当」と批判した。その上で、「疑惑は根拠薄弱な状況証拠に基づいていた。単なる一部棋士の邪推に過ぎない」と主張した。
■連盟側、30分の離席を確認できず「痛恨の極み」
記者会見で謝罪する日本将棋連盟の谷川浩司会長=27日
日本将棋連盟会長の谷川浩司九段ら連盟幹部も、27日に記者会見をした。出場停止処分になった三浦九段に対して謝罪し、来期のA級在籍を保証することなど、救済策について説明した。
谷川会長は「2カ月半の間、三浦九段の対局の機会を奪ってしまったことは重く受け止めている」とした上で、「最高棋戦である竜王戦七番勝負を務めていただくことを考えた」と答えた。
常務理事の島朗九段は「今回、久保さん(利明九段)の(指摘にあった)30分の離席がなかったと確認できなかったことが痛恨の極み。(棋士が集まる)月例会とかで話が出たことで今回のことにつながった。そうした方たちへの処分というのは、まだそこまで考える余裕といいますか」と述べた。
島朗理事
また島理事は、10月7日に渡辺竜王から不正疑惑の事情説明を受けた際のことに触れ、「責任は重大だと認識している。逃れるつもりはない」と自身の責任について言及した。
専務理事の青野照市九段は「久保九段の(指摘した)31分という話はあった。それは勘違いとしても、合計すると2時間40分という離席は普通の対局では考えられないこと」とした上で、「対局者として違和感があるのは、(三浦九段が)自分の手番で離席していたので、久保さんはイライラしていたのだろうと推測される。時間的なことは錯覚があったかもしれないけど、疑惑を持ったのではないか」と述べた。
離席時間の長さについては、谷川会長も指摘。「三浦九段についても、8月8日に連盟が長時間の離席を控える旨の通知書を送った後は、かなり控えておられますが、7月の対久保戦についての、トータルの離席時間は長かったと報告書に記載されております」とした上で、「何れにせよ、プロ同士の対局は対戦相手への敬意があって成り立つものだと思います」とした。
三浦九段の不正疑惑を指摘した渡辺竜王は11月1日、自身のブログで「10月上旬の時点で放っておいても三浦九段に対する報道が出る可能性が高いことを知りました」「報道が出ることを知っていながら放置して最悪の状況を迎えるリスクを取るか、事前に三浦九段に話を聞くかのどちらかしかないわけで、後者を選ぶまでは止むを得なかった思います」とした上で、「常務会が竜王戦の開幕前に三浦九段に話を聞く、までが自分の行動意図です」と不正疑惑指摘に関する一連の行動について説明した。
また11月2日のブログには、「週刊文春に掲載された記事内容は、個人的にはおおむね間違っていないように思いますが、矛盾の印象を与えそうな言葉や、本意では伝わらない恐れがある表現は、誤解を解くような努力をしなくてはいけなかったと反省しています」としている。
渡辺明竜王
渡辺竜王は11月6日に「今回の件で将棋ファンの皆さまにご迷惑をお掛けしたことをお詫びします。当面、ブログは休みます」と投稿して以来、ブログを更新していない。