クリミア半島を併合する際に「核兵器を使う準備をした」とするロシアのプーチン大統領の発言に、広島市の松井一実市長が抗議文を送ったところ、アファナシエフ駐日ロシア大使から4月9日付で「批判は完全に見当違い」と反論する返書が届いた。
松井市長は4月3日の抗議文の中で、プーチン大統領の発言に対して「被爆者の平和への思いを踏みにじるものであり、強い憤りを覚える」として、核軍縮に誠実に取り組むように求めた。
これに対して駐日ロシア大使の返書では、「日本がどこの国の『核の傘』に依存しているかはよく知られている」と、日本が安保条約によって、アメリカの核兵器に守られていることを示唆。その上で、「あなたの抗議文には、広島と長崎に核爆弾を投下した国について言及されてないが、この国こそ抗議すべきではないか」と、ロシアではなくアメリカに抗議すべきだと皮肉を込めて書いている。
抗議文と返書の詳しい内容は以下の通り。
■広島市の松井一実市長の抗議文
ロシア連邦 大統領
ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン 閣下
駐日ロシア連邦大使館 特命全権大使
エヴゲーニー・ウラジミロヴィッチ・アファナシエフ 閣下
抗議文
繰り返される貴国の言動は、いかなる事情があるにせよ、被爆者の「こんな思いを他の誰にもさせてはならない」との平和への思いを踏みにじるものであり、強い憤りを覚える。
また、折りしも今月27日から開催される核不拡散条約(NPT)再検討会議の成功に向け、平和首長会議を含め国際社会全体で真剣に取組を進めている中でのものであり、到底許し難い。
そもそも貴国にはNPT締約国として核軍縮に誠実に取り組む義務があるはずであり、NPT再検討会議を成功させるためにも、核兵器の非人道性に十分思いを致し、自らの責任を果たすよう強く要請する。
(広島市 - 核兵器の使用を巡るロシアの一連の言動を受けた抗議文 2014/04/03)
■アファナシエフ駐日ロシア大使の返書(広島市が発表した仮訳)
2015年4月9日
広島市長 松井一実様
2015年4月3日の貴台の書簡を入念に拝読いたしましたが、ウラジーミル・プーチン大統領の実際の発言を誤って解釈した、根拠のない貴台の「抗議」は容認できない旨、お伝えしなければなりません。貴台及び貴市職員には、ドキュメンタリー番組「クリミア―祖国への道」の台本を注意深くお読みいただきたいと思います。
また、ロシア連邦はNPTの寄託国の一つであり、それゆえNPT体制を強力に支持していることをお知りおきください。我が国の様々な取り組みは、核兵器をはじめとする軍備の削減だけではなく、核兵器のない世界を目的としていますが、そのためには、当然のことながら、必要となる国際的環境の整備が求められます。米国の一方的なミサイル防衛システムの開発や宇宙武装の脅威など、戦略的安定に悪影響を与える極めて破壊的な諸要素に対し、国際社会の注意を喚起しようとロシアが声を上げていることを、残念ながら貴台は見落としていらっしゃるようです。
また、日本がどこの国の「核の傘」に依存しているかはよく知られています。このことは、貴台が的確に表現されているように、「こんな思いを他の誰にもさせてはならない」という言葉で表された被爆者の平和への思いとまったく矛盾しています。当然、第2次世界大戦により70年前に3千万人が犠牲になったロシアや旧ソビエト連邦の国民は、どれほど平和が尊く貴重であるか熟知しています。
市長様、貴台の書簡には、70年前、どの国が実際に広島と長崎に核爆弾を投下したのかについては言及がありません。しかし、それは世界中で知られています。私が思いますに、この国こそ貴台の「抗議」の対象ではないでしょうか。
松井市長、残念ながら、貴台の批判は完全に見当違いです。
駐日ロシア大使 エヴゲーニー・アファナシエフ
(「批判は見当違い」ロシア大使、広島市の抗議に反論:朝日新聞デジタル 2015/04/10 23:23)
また、長崎市がプーチン大統領らに送った抗議文に対しても、4月10日付で同様の内容の返書が届いた。長崎原爆遺族会の正林克記会長は「ロシアに都合のいい論理のすり替えだ。ロシアがすべきことは、国際的な民意に沿って米国と核廃絶に向けたリーダーシップをとることだ」と話している。
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