ヴァンフォーレ甲府を退任する城福浩監督を支えた、家族との絆

3季連続でJ1残留を決めたヴァンフォーレ甲府。チームを指揮した城福浩監督は今季限りでの退任を発表している。そんな城福監督をいつも陰ながら支えてくれていたのは家族だ。
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3季連続でJ1残留を決めたヴァンフォーレ甲府。チームを指揮した城福浩監督は今季限りでの退任を発表している。そんな城福監督をいつも陰ながら支えてくれていたのは家族だ。

『プロフットボーラーの家族の肖像』(カンゼン刊)~父の背中が語るもの~より、一部抜粋

◆遠距離家族

ヴァンフォーレ甲府の監督には、2012年に就任した。単身赴任である。部屋はどんなかと聞くと、「住めればいいくらいで、特にインテリアに気を使うでもなく、でも、結構ちゃんとしたマンションです」と返ってきた。掃除はまめにしているらしい。

自炊はしない。食事はクラブの寮で食べることにしている。外食だと気を使うし、第一、何を食べようかを考えるのも面倒。それなら、寮で出されたものを食べた方が、気が楽だ。 

ただし、選手たちと一緒に食べることになるので、彼らがくつろいでいる時間帯は、極力さけるようにしている。みんながいなくなったころを見計らって、食堂に入るという。

出てきたご飯は、早めに食べる。遅くなり過ぎて、食堂のおばさんに迷惑がかかるのも悪いからだ。なんだか、外よりも気を使っているような、気がしないでもない。

甲府には、たまに妻が来てくれる。自分も二週間にいっぺんは、東京に帰っている。道が混んでいる週末を除けば、車で自宅まで二時間もあれば帰れる。東京と甲府は、思いのほか近い。

離れていることで、逆に感情を出せることもある。こんなことがあった。甲府で、ちょうど試合をしているときに、自宅の犬が突然死んでしまったのだ。試合が終わり携帯電話に出ると、受話器の向こうの家族が、全員号泣していた。

その時、ふと思った。「家族が、こうやって感情を表せるのは、悪いことじゃない」子供たちも成長し、親の前で泣いたりすることも、ほとんどなくなった。でも、今こうして自分の前で嗚咽し、悲しみを表している。城福は、遠く離れた地で、家族の悲しみを受け止めた。

「でもね、その時はっきりと言われたんですよ。『パパが死んでも、ぜったいに泣かない』って(笑)」

自慢の家族である。

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◆息子との対話

城福には、息子に対して負い目があったに違いない。「自分のせいで、いちばんの青春期に〝サッカー嫌い〟にさせてしまった」そう思っているところがある。高校の三年間は、常に「帰宅部」だった。息子は大学入学とともに、サッカー同好会に入った。とても楽しそうで、父は、ようやく罪悪感から解放されたのかもしれない。

大学では、映像関係の学科に進んだ。その授業の課題で、『親に対する「感謝の意」を映像化する』というものがあった。城福は、よくわからないまま、撮影に駆り出された。

それは、地面に置かれたカメラのそばで、ひたすらサッカーボールを蹴り合う、というものだった。自分と息子が向かい合い、ひとつのボールを、蹴っては止めて、蹴っては止めて、の繰り返しである。最後に息子とボールを蹴り合ったのは、いつだっただろうか?そんなことを思った。長いことボールの音が響いていた。

数週間後、出来上がった作品を、家族みんなで見ることになった。そこで、はじめて全容が明らかになった。

映像にはセリフも音楽もない。ボールを蹴る音と、止める音、そして、息づかいのみ。ローアングルから見えるのは、足元だけ。そこを繰り返し、繰り返し、ボールが行き来する。そして、いく度目かのボールを止めた瞬間に、暗転。画面に白抜きで、メッセージが一行入る。

―――親父ありがとう。

二分足らずの映像だ。もちろん、宿題であるのはわかっていた。でも、どれだけ嬉しかったことか。「息子は、題材にサッカーを選んでくれたんです」それだけで、胸がいっぱいになったという。この作品は、城福の一生の宝物である。

◆親がなくとも

思えば、城福はいつも家を空けていた。夫がどこにいるのかわからず、「今、あなたどこなの?」と、妻が電話で聞いてきたこともあった。サラリーマン時代にも迷惑をかけていた。その頃は、仕事が忙しくて、もっと帰らなかった。

逆に、監督解任後の一年間は、家に居続けた。慣れない執筆活動と期限に追われ、部屋で唸っていることが多かった。「やっぱり、自分は芝の上で声を張り上げているのが、向いているんだろうな...」と、思った。

一日中家にいる父親に、子供たちもどこか煙たがっていた風で、現場復帰には、家族みんなが喜んでくれた。そして、再び家を空けることとなった。

「子育てをする上で、ですが...」城福は、言葉を選びながら話した。「父親が家にいる時がうまくいって、いない時に問題が多いのか? というと、そうでもないような気がします」むしろ、いた方がマイナスになる場合もある、と言うのだ。

「いなさすぎも、もちろんよくはないのでしょうが、子どもへの影響は、そういう問題じゃないだろうなと、僕は感覚的に思っています。いや、反省も含めてですよ。〝生き方〟であったり、何かあったときに〝父親としてどうアプローチするか〟。そういうことだと思うんです。『自分の背中をどう見せるか』、なのかなと」

長男は、今年晴れて社会人になった。長女は、目下、受験勉強中である。お子さんたちの未来に望むことを聞くと、「社会に貢献できる存在になって欲しい」と、シンプルに返ってきた。そして、こう続けた。「やっぱり対等に酒を飲んで話せる、そういう関係でいたいですね」

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『プロフットボーラーの家族の肖像』(いとうやまね著・株式会社カンゼンより一部転載)

http://www.footballchannel.jp/2014/11/27/post58163/

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http://books.rakuten.co.jp/rb/12345689/

メディアでは報じられることのない、サッカー人、7家族のエピソード、貴重な家族写真を収録。EL GOLAZOの人気連載企画の書籍化。【収録】久保竜彦(廿日市サッカークラブ)、城福浩(ヴァンフォーレ甲府監督)、宮澤ミシェル(サッカー解説者)、水沼貴史(サッカー解説者)、福西崇史(サッカー解説者)、石川直宏(FC東京)、原博実(日本サッカー協会専務理事兼技術委員長)

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(HUFF POST記事)

◆生と死を強く考えさせられたFC東京・石川直宏選手の『2011』~松田直樹との別れ

https://www.huffingtonpost.jp/yamane-ito/naoki-matsuda_b_5646514.html

https://www.huffingtonpost.jp/yamane-ito/123w_b_5583369.html

https://www.huffingtonpost.jp/yamane-ito/post_7929_b_5542555.html

https://www.huffingtonpost.jp/yamane-ito/story_b_5640429.html

https://www.huffingtonpost.jp/yamane-ito/yuzuru-hanyu_b_5608539.html

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いとうやまね

ライターユニット(いとうみほ+山根誠司)。著書には、『フットボールde国歌大合唱!』『サッカー誰かに話したいちょっといい話』(東邦出版)、『プロフットボーラーの家族の肖像』(カンゼン)、『蹴りたい言葉~サッカーファンに捧げる101人の名言』(電波実験社)、他がある。サッカー専門誌、フィギュアスケート専門誌のコラムニストとして、またサッカー専門TV 番組、海外サッカー実況中継のリサーチャーとしても活動。スポーツ以外の執筆も多数。