成宮寛貴さん報じたメディアの罪、ゲイ当事者が指摘「同性愛"疑惑"が娯楽として消費された」

「ほーらね、白状させてやった」とゲラゲラ笑いやニヤニヤ笑いをしながら楽しむ娯楽になるだけです。(南和行弁護士)
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芸能界引退を12月9日に表明した俳優の成宮寛貴さん(34)は、直筆メッセージで、引退理由の1つに「絶対知られたくないセクシャリティ(性自認や性的指向など)の部分もクローズアップされてしまった」と自ら書いた。

薬物使用疑惑を報じた、週刊誌『FRIDAY(フライデー)』(12月2日発売)は、記事で「やたらとカラダをすり寄せてきた」とする男性の証言を掲載。そしてこの一報以降、成宮さんの「薬物疑惑」だけでなく、セクシュアリティを巡る記事は確かに、ネットなどで報じられた。

例えば日刊サイゾーは、12月6日の記事で「"オネエ"疑惑」などと報じ、スポニチ(東京本社11版)は、12月10日の一面記事に「ゲイ引退」と見出しをつけた。(間に「告白」と小さい文字が入っている)。なお、本人の直筆メッセージには「自分はゲイである」などと明示した表記はない。

同性愛の当事者は、一連の報道の渦をどのように受け止めたのか。ゲイを公表している南和行弁護士は、ハフィントンポストに寄稿し、「同性愛の噂話が娯楽として消費される」ことで同性愛者らへ与えた被害を以下のように指摘した。

    ◇

成宮さんの一件は、「コカインを使用している」という、真実であれば紛れもない犯罪についての報道が発端です。もしも犯罪が事実なら、直筆メッセージの「セクシャリティ」は「薬物報道から目を逸らさせるため」に書いたようにも見え、だからこそ、余計にセクシュアリティのことが「疑惑」として騒がれやすくなってしまいました。

しかし、セクシュアリティを噂話にされることは、暗闇から誰かわからない人影が現れて、ニヤニヤ笑いながら「やっぱりゲイなんだろ?」「違うなら堂々と違うと言えよ?」「本当はどっちなんだよ」と迫られる感覚です。

自分が悪いことをしているわけでもないのに、不安、恐怖、絶望、悲しみ、そうなった自分自身への否定感情を抱かせられます。「あの人、ゲイなんじゃないの?」と「まさかコッチ系?」という噂に曝された人なら誰でも同じような感情を抱いた経験があることでしょう。

成宮さんの直筆メッセージには、不安、恐怖、絶望感、悲しみ、そしてそんな状況になったことへの自己否定感情が切々と綴られていて、胸が千切れるような気持ちで読みました。

「女性のことが好き」であることで誰かから笑われたり、バカにされたり、からかわれたり、嫌悪されたりしたことがない男性にとって、「男性のことが好き」な男性はおかしい存在であり、「だってオカシイんだもん」と笑ってバカにしてもてもいい存在に見えるのでしょう。

「本当なのかどうか、言えばいいだけじゃん」というのは、性的なことについて、バカにされたり、否定されたり、嫌悪感を剥き出しにされたりしたことがない人の「強者の理論」です。

同性愛であることが「疑惑」として報道され、その結果、「ゲイであることの動かぬ証拠」が世間に明らかにされたり、あるいは本人が「私はゲイです」と言わなければ収拾がつかなくなったりする結末は、強い立場の人たちが「ほーらね、白状させてやった」とゲラゲラ笑いやニヤニヤ笑いをしながら楽しむ娯楽になるだけです。

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(スポニチ12月10日一面記事の見出し)

同性愛が、社会の多数の人の娯楽となる噂話として消費される現実を目の前に、多くの同性愛者が萎縮し、恐怖を覚え、「だから自分のことを話せない」「自分のことが知られたら生きていけない」と自分を否定する気持ちになると感じます。

私は同性愛であることを隠さずに暮らしています。私とパートナーが「弁護士夫夫」として書いている本は、私たち男同士のカップルの顔写真が表紙になって、裁判所の本屋でも平積みで売られていました。

そんな私でも、仕事で裁判所に行ったとき職員さんが「クスクス」と笑っていると、一瞬ですが「もしかして『ホモ弁護士』が来た!と笑われているのでは」などと疑心暗鬼になってしまいます。

「成宮うまく逃げたな」と意地悪く思う人もいるかもしれませんが、コカイン疑惑とは切り離して、成宮さんの直筆メッセージに綴られた不安、恐怖、絶望感ということのリアリティは感じてほしいです。

▼プロフィール

南和行(写真左)

みなみ・かずゆき。1976年生まれ。大阪弁護士会所属。京都大学大学院農学研究科修了。大阪市立大法科大学院を経て、2009年に弁護士登録。2013年、同性パートナーの吉田昌史さん(写真右)と「なんもり法律事務所」を開設。著作に「同性婚−−私たち弁護士夫夫です」(祥伝社新書)など。

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