新井浩文被告に実刑判決。執行猶予なし、判決理由は? 「犯行は卑劣で悪質」と厳しく非難【判決詳報】

無罪を訴えていた新井被告は、判決を不服として即日控訴しました。
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新井浩文被告人(2012年撮影)
時事通信社

派遣型マッサージ店の女性従業員に性的暴行を加えたとして、新井浩文被告が強制性交等の罪に問われた事件。12月2日、東京地裁の瀧岡俊文裁判長は「犯行は被害者の性的自由を侵害する卑劣で悪質なもの」として、被告に対し懲役5年の実刑判決を言い渡した

執行猶予はつかず、検察側の求刑通りの判決となった。無罪を訴えていた新井被告は、判決を不服として即日控訴した。

裁判の争点は、①強制性交等罪が成立する要件である「暴行」があったか、②性交に合意があると被告人が「誤信」することはなかったか、という点だ。

東京地裁はこの2つの争点について、「暴行を用いて性交したことは間違いなく認められ、性交について合意があると誤信したとの疑いを入れる余地もない」と認定。女性側の主張を全面的に認め、強制性交等罪が成立するとした。

東京地裁は、それぞれの争点についてどんな判断を下したのか。

女性の証言「信用性は高い」と判断

起訴状によると、新井被告は2018年7月1日午前3時25分ごろ、マッサージのため東京都内の自宅マンションに呼んだ女性に性的暴行を加えたとして起訴された。

判決では、まず双方の証言の事実関係と、その信用性について述べられた。

裁判所は、新井被告がマッサージ店を初めて利用する際に「性的サービスの要求をしない」という同意書に署名していたこと、セラピストの女性とは初対面で、女性側から積極的に性交などを求める言動は一切なかったこと、性交後に「悪いことしちゃったね。これ、おわび」などと言って女性に現金を手渡そうとしたことを「事実」と認定。

また、女性が送迎運転手やマッサージ店の経営者に被害を打ち明け、事件から3時間以内に警察署で相談したこと、被害内容に関するメモを作成していたことも「事実」として挙げた。

女性と被告の証言は食い違う部分もあったが、裁判所は、女性の証言は「信用性は高い」と判断。その理由について、女性がセラピストとして施術する目的で被告宅を訪れており、その後の現金の受領を拒んでいたことから、「一連の暴行に際しても抵抗したという趣旨の証言内容は合理性を備えている」とした。

一方、新井被告の証言については、「拒絶に気付かない事態がおよそ想定できないなど、こうした事実関係と整合し難いから、信用に値しない」と指摘した。

 

争点① 「暴行」はあったかどうか?

現行の刑法177条では、「暴行または脅迫」がなければ強制性交等罪は成立しない。

過去の判例上、この「暴行脅迫」の程度は、「被害者の反抗を著しく困難にする程度のものであること」が必要とされる。裁判ではこの点が争点の一つとなっていた。

■双方の主張 検察側は暴行あったと主張、弁護側は否定

女性は公判中、新井被告に頭を掴まれて陰茎に押し付けられ、意に反して性交されたと証言。その間は、複数回にわたり「やめてください」などと言葉で拒絶したり、膝を閉じたりして抵抗したという。 

検察側は、女性と新井被告には身長20cmほどの体格差があること、時間が深夜だったこと、部屋が真っ暗であったことを挙げ、女性は「物理的および心理的に抵抗することが困難であった」と指摘。新井被告の行為は「(女性の)反抗を著しく困難ならしめるものであった」として、暴行要件を満たしていると主張していた。

一方、弁護側は、新井被告の行為は同罪の「暴行」には当たらないと訴えていた。

その理由は、体格差は「一般的な男女の差」で、性交後に女性が新井被告とのやりとりに応じていることから、「直前に反抗を著しく困難にすると思われるような暴行を受けたと評価することはできない」などというものだ。

さらに新井被告は、女性の頭を両手で押さえつけて陰茎に押し付けようとした行為や、女性が性交の際に抵抗したとする証言について、「やっていません」と否定していた。

 ■東京地裁の判断は

判決では、女性の手を掴んで陰茎に押し付けるなどの一連の暴行や、性交したことについて、「深夜の時間帯に灯りも消されたマッサージの施術を受けるという機会に乗じ、そうした(女性)の置かれた状況に付け込んで敢行されている」と指摘。

両者の体格差を踏まえると、女性は「物理的、心理的に抵抗することが困難な状況であった」と推認し、「刑法177条所定の暴行を加えたと認められる」とした。

 

争点②「合意があった」と誤信していたかどうか

2つ目の争点である、「性交の合意があったと被告人が誤信していたかどうか」。

■双方の主張は

この点について検察側は、女性が数回にわたり言動で拒否していたことや、新井被告が行為後に「同意していないのではないか」と考えて金銭を渡そうとしたことなどを挙げ、新井被告が「(女性側の)合意がなかったと認識していたのは明らか」だと指摘していた。

一方、弁護側は、女性の抵抗が強くなかったため、「性行為に同意していたと誤信していた」と主張。新井被告は「ちょっとした力で引かれた気はしましたが、通常の状態に戻りました」「大丈夫というか、受け入れられているのかと思いました」などと証言していた。

また、金銭を渡そうとしたことについて弁護側は、「ちょっとした不安があり、口止めしたかった。これだけで同意があったと誤信していたことを否定することはできない」と訴えていた。

■東京地裁の判断は? 「誤信するとは到底考え難い」

東京地裁は「合意の誤信」について、どう判断したのか。

判決では、マッサージ店のサービス内容に対する新井被告の認識や、女性と被告の関係性を照らせば、「そもそも女性が性交に同意するとは考えにくいと分かっていたはずといえる」と指摘。

「一連の本件暴行に対し、女性が拒絶感を示し抵抗していたことも前記のとおりであるから、被告人が合意があったと誤信するとは到底考え難い」とした。

また、性交直後に現金を渡そうとしたことについては、「被告人が当該性交に当たり(女性の)意思に反するとの認識を備えていたことを指し示しているというべきである」と評価。弁護側の言い分を退けた。

 

懲役5年、量刑の理由は 「被害者を傷つけた責任は取らなければならない」

強制性交等罪は、2017年の性犯罪に関する刑法改正で罰則が厳しくなり、最も短い刑の期間が3年から5年に引き上がった。

検察側は新井被告に対して、刑の下限である懲役5年を求刑し、裁判所は求刑通りの判決を言い渡した。

瀧岡裁判長は量刑の理由について、「被告人は自己の性的な要求を優先して犯行に及んだのであり、その経緯・動機に酌むべき点はなく、厳しい非難に値する」と説明。

さらに、新井被告の供述が「不合理な弁解に終始している」とし、前科前歴がないことなど酌むべき事情を考慮しても、情状酌量の余地はないと断じた。

判決を言い渡したあと、瀧岡裁判長は「被害者を傷つけた責任は取らなければなりません」と新井被告に語りかけた。

「社会人としての信頼を失い、その信頼を取り戻すのは現実には難しいことですが、あなたの人生が終わったわけではありません。罪と向き合い償うことで、信頼を取り戻す努力を続けてほしい」