アムステルダムでは、普段はホスト家族が住んでいる人の気配満載の一軒家で“完全民泊”デビュー

地上7階まで続く地獄の階段と「我が家感」溢れるアムステルダム宿。 欧州民泊漂流記③
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パレルモのフラットからの絶景!

2017年の夏休み後半戦の行き先はイタリア・シチリア島。空港でレンタカーを借りて、パレルモ(シチリアの州都)から東海岸のビーチリゾート、タオルミーナまで回る、豪華で、ちょっと無謀な計画でした。なにが無謀って、私は左ハンドル・右側通行の運転経験がゼロ(イギリスは日本と同じ左側通行)だったのです。空港でレンタカーを借りた直後、軽く死にかける逆走事件を起こしたのですが、民泊と無関係なので割愛いたします。

 

さすがマフィアの本場

ギリシャ・ローマ時代から栄えた歴史を持つパレルモは、旧市街を歩けばタイムスリップした気分が味わえ、海岸に出れば静かな地中海が広がる素晴らしい観光地です。若干、治安が悪いのが難点ですが。

今回も利用したのは民泊サイト「Airbnb(エアビーアンドビー、通称エアビー)」。レンタカーでの移動は最小限にしたかったので、旧市街のど真ん中の宿を探し、最上階7階全フロアを占める広々とした部屋を選びました。ピカピカではないけれど雰囲気のある良いフラットで、何より素晴らしい眺望が決め手でした。

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地獄の階段。まさかエレベーターがないとは…

3泊で270ポンド、1泊当たり1万3000円ほどと宿泊費もリーズナブルだったのですが、このときの部屋選びでは手痛い失敗をしました。なんと、エレベーターがなかったのです。「7階建てでエレベーターがないなんてことはないだろう」と確認を怠ったのが運の尽き。長旅の装備を詰め込んだ重いスーツケースを引っ張り上げ、石造りの階段をせっせと上りました。

熱波到来でかなり気温が高かったのに部屋にエアコンがないのも家族に不評でした。もっとも、「あの階段はきつかった!」「夜、むっちゃ暑かった!」というのは、思い出話の定番になってますので、これも「面白さ」と言えなくもないのですが……。

もう1つの失敗は駐車場。

Googleマップで周囲にパーキングがあると確認していたものの、来てみると、どこも満車。仕方なくチェックイン前に短時間、路上駐車をすることに。これがトラブルの始まりでした。

パレルモ中央駅近くに路駐場所を見つけたら、お爺さんが寄ってきてレッカー車のイラストの標識を指さして「ここはダメだよ!」と教えてくれました。反対側には路駐OKの標識。危ないところだったとお爺さんに礼を言って車を移し、部屋に向かいました。

荷物を降ろし、1人で車に戻ると、縦列の前後だけでなく、私の車にかぶせるようにライトバンが二重駐車してありました。「あ、やられた」と気づいても後の祭り。案の定、さきほどのお爺さんがニヤニヤしながら寄ってきて、車を出したかったら金を寄こせ、と。ここで網を張るのがお爺さんの商売なんでしょう。

しかしそこは駅前で、目と鼻の先の駅に交番があるのです。よくこんな場所でカツアゲを……。さすがマフィアの本場。私がポケットから3ユーロ取り出して渡すと、ジェスチャーとイタリア語で「札だ、札!」と食い下がる。私は「何が何だか分からん!」とすっとぼけて交番に歩きだしたら、お爺さんは慌てて携帯電話でお仲間を呼びだしました。このお仲間も指をこすりあわせる「お札」のポーズ。再び交番に向かう私。ほとんどコントみたいなやり取りの末、3ユーロだけ渡し、お爺さん2人に罵られながら脱出しました。

この後、狭い路地と地元勢の荒い運転に疲弊しながら市街を小一時間さまよい、ようやく見つけた駐車場は2日で100ユーロ近くとなかなかのぼったくり料金。「爺さんの方が安かったな……」と、どっと疲れました。

観光自体は見どころ満載で、特にアラブ・ノルマン・ビザンティンの様式がミックスされたノルマンニ宮殿と、『ゴッドファーザー PART3』のクライマックスシーンでも有名なマッシモ劇場は圧巻。パレルモ大聖堂近くで、乙武洋匡さんとすれ違うというサプライズもありました。食事も三女が事前調査で目を付けていたレストランが、2晩続けて通うほどの大当たり。夕食後の帰りに地元スーパーで朝ごはんとビールを仕入れて宿で楽しむという民泊スタイルを満喫できたのが、せめてもの救いでした。

パレルモの旗とロシア国旗

パレルモで3日過ごした後、東部のタオルミーナに。ワイルドな山なみと地中海の絶景を楽しみながらのドライブでしたが、トンネルの照明はところどころ切れているし、地元勢は煽りまくってくるしで、運転は冷や汗ものでした。

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エアビーのサイトより
タオルミーナのアパートメント

 タオルミーナのお目当ては海水浴。ビーチのすぐ横のアパートメントを借りました。出迎えてくれたホストは英語が流暢な女性で、シンプルで綺麗な内装の部屋は手入れが行き届き、冷房も完備。1泊3万円ほどと高井家の民泊ツアーとしては大盤振る舞いでしたが、申し分ないコスパでした。

非英語圏への旅行では、英語でコミュニケーションできるホストの存在は大きいです。

タオルミーナは有名なビーチリゾートですが、お店やタクシー運転手などはほとんど英語が通じません。ビーチハウスでパラソルとテーブルのスペースを借りようと受付のオジサンに話しかけた際には、慌てて「おい、誰か英語話せるヤツいないか!」となり、裏から出てきたオジサンもロクに英語が話せないという「おいおい日本かよ!」という状態。ビーチに出てみると、イタリア、EU(欧州連合)、パレルモの旗と並んでロシア国旗が翻り、「英語はダメでロシア語は通じる」という事前情報に納得しました。

このときのホストはレスポンスも早く、買い物に便利な場所を聞いたり、タクシーを予約してもらったり、何かとお世話になりました。タクシーは価格交渉までしてくれて、ぼったくりを回避できました。

海水浴だけでなく、ギリシャ時代の劇場跡を中心とした旧市街の観光や、海鮮料理がおいしいレストランなどリゾート気分を満喫できて、家族にも大好評。お父さんの熱望していたゴッドファーザーのロケ地ツアーというオプションは、女性陣の意向を忖度して見送りました……。

リビングの中央にグランドピアノ 

場数を重ね、調子に乗った高井家は「どうせ泊まるなら変わった部屋に」と、先鋭化路線を邁進。2017年秋のブリュッセル(ベルギー)1泊、アムステルダム(オランダ)2泊の弾丸旅行では「これぞ民泊」というユニークな部屋を渡り歩きました。

ロンドンからブリュッセル、そこからアムステルダムまで鉄道を利用したので、移動の便を考えるとブリュッセルの宿はターミナルである南駅の近くが良いのですが、あの辺りは治安がやや不安です。駅近は避け、観光地が集まる中央駅寄りの部屋を物色してエアビーのサイトを回遊していたとき、「これは!」という変な部屋を発見してしまいました。

異様に広そうなリビングの中央に鎮座するグランドピアノ。古風なストーブ。ロフトにつながる室内階段。1泊だと諸経費が高くつくので3万円強と値は張りましたが、家族に見せたら「面白そう!」と乗り気でした。ロンドンの自宅にはピアノがなかったので、女性陣には久しぶりに演奏を楽しめるという期待感もありました。 

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ブリュッセルの異様に広いリビングに興奮して躍る娘たち

実際についてみると、そこは「これはフツーの人間が泊まるところじゃない!」と笑ってしまうような部屋でした。アトリエ風の160平米の広大な空間はバスルーム以外は仕切りもない巨大なワンルーム。期待していたグランドピアノは調律されておらず、ホラーな不協和音を響かせるただのインテリアでした。正直、「何だこりゃ」という変な部屋だったのですが、三姉妹には「秘密基地みたい!」と妙にウケがよく、ベッドも人数分ありましたし、1泊ぐらいならと笑ってすみましたが、あまり奇をてらったチョイスは考えものと反省しました。

ロケーションは計算通りで、世界一美しい広場(自称、があちこちにありますが)のグランプラスや、マグリット美術館など中央駅周辺の観光地に徒歩でアクセスできて、「世界三大がっかり」の小便小僧を含めて駆け足ながらブリュッセル観光は無事クリアしました。

「完全民泊」デビュー

翌日には高速鉄道でアムステルダムに。タクシーで駅から20分ほどで宿に到着しました。実はこれが我が家の「完全民泊」のデビューとなりました。そこは普段、ホストの家族が住んでいる3階建ての一軒家だったのです。ゲストがきたら家族は親類なり友人なりの家(あるいは別荘?)に一時避難する、というスタイルのようです。

横に子供用の自転車が並ぶ玄関を開けると、ダイニング兼リビングで待っていた若い女性からカギを渡されました。その後、家族みんなで上から下まで「よそ様の家」を見学して回りました。現地の人の生活空間にここまでガッツリ入り込む機会はそうそうありません。

どうもホスト夫妻はデザイン系の仕事が本職のようで、関連書籍が本棚にずらり。家具も内装も何もかもがオシャレで、小さな三姉妹の子供部屋は「Lovely!」としか言いようがない可愛らしさでした。おもちゃも出しっぱなしで、「昨日までここで遊んでたんだろうなあ」という状態。

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アムステルダムの「Lovely!」な子供部屋

「普段誰かが寝ているベッドなんて……」という潔癖症な方なら抵抗があるかもしれませんが、「宿」の居心地は抜群でした。大小さまざまな家族の写真が家中に掛けられ、家中に幸せオーラが充満しています。私たち夫婦にとっては、ウチの三姉妹より小さいアムステルダムの三姉妹の写真がまるで思い出のアルバムのようで、何とも言えない親近感を覚えました。

冷蔵庫も食材でいっぱいで、「住んでます」感満点。ホストからは「食材やタオル類も、適当に使って」と、何とも大らかなメッセージを頂戴しましたが、我が家は「旅行中は原則外食」という方針なのでエスプレッソマシンのカプセルやハーブティーのティーバッグを少々消費しただけでした。

この部屋は、高井家が泊まった民泊物件で最も高額で、1泊5万円ほどかかりましたが、旧市街の南端という好立地で、アムステルダム国立美術館の前にある定番撮影スポット「I amsterdam」(現在は残念ながら解体されています)のオブジェやゴッホ美術館があるミュージアム広場までは10分ほど。買い物スポットやクオリティの高いレストランも、徒歩圏内にいくつもありました。短期滞在の場合、観光地へのアクセスの良さは「時間を買う」という面でコスパが良いのではないでしょうか。

実際、アムステルダム観光は旧市街の散策に運河クルーズ、3つのミュージアムの見学と濃密なものでしたが、アクセスと居心地の良い「我が家」のおかげで、疲れ知らずの快適な旅になりました。これでもかという大量の作品が並ぶゴッホ美術館と国立美術館のレンブラント・ファン・レインの《夜警》、クルーズでの美しい夕焼けが収穫でした。

いわゆる「民泊」といっても、実際は宿泊客用に用意された物件がほとんどなので、このアムステルダム旅行は家族からも「またああいう感じの部屋に泊まってみたい」という声が出るほど、貴重な経験になりました。

次回は大当たりを引いたギリシャ旅行編と、意外な地で最大の地雷を踏んでしまった失敗談をお送りします。

お楽しみに!(高井浩章)

高井浩章  1972年生まれ。経済記者・デスクとして20年超の経験があり、金融市場や国際ニュースなどお堅い分野が専門だが、実は自宅の本棚14本の約半分をマンガが占める。インプレス・ミシマ社の共同レーベル「しごとのわ」から出した経済青春小説『おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密』がヒット中。noteの連載はこちら→https://note.mu/hirotakai ツイッターアカウントはこちら→https://twitter.com/hiro_takai

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(2019年3月7日フォーサイトより転載)