ダウン症のお兄ちゃん、妹が描いたら...? クスっと笑える家族の日常をイラストにした深い理由

「ダウン症の家族との生活ってどういうもの?」
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「ダウン症の家族との生活ってどういうもの?」

そんな疑問に答えてくれるイラストエッセイが出版された。ダウン症の兄、ヒロさんの日常を妹の佐藤美紗代さんが描いた『ヒロのちつじょ』(太郎次郎社エディタス)だ。

ちょっと日常をのぞいてみよう。

「おはよ」

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(『ヒロのちつじょ』P12より)

「おはよ、おはよ」というあいさつは、返事がきちんと帰ってくるまでつづく。

「気前のよさは人一倍」

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(『ヒロのちつじょ』P27より)

ヒロさんは、どんなものでも「それ、ひと口ちょうだい?」と聞くと、「いいよ」と分けてくれるという。たとえ大好きなコーヒーやハンバーグでも。

あ・うんの呼吸

(『ヒロのちつじょ』P72より)

スーパーで買い物かごを持ったヒロさんは、前をいく母が食材を手にとったとたん、すかさずカゴをさしだす。30年以上のつきあいの母とヒロさんだからこそできること。

......

本作は、佐藤美紗代さんが大学の卒業制作で描いた作品で、ヒロこと兄の佐藤洸慧(ひろえ)さんの行動が、「あさ」「ひる」「よる」の章ごとにイラストと文章で紹介されている。

他にも、ヒロさんがソファでゆらゆらとくつろぐのが好きな様子や、乾いた洗濯物をパサっと伸ばすのが好きなことなどが描かれる。毎日、食後に一杯の水を「いいよ?」と言って、飲んでいいか確認する。そんなヒロさんの日常は、本人のちょっとしたこだわりに満ちていて、こちらも思わずクスっと笑ってしまう。

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一回で間違えずに服を持ってくるときもあれば、何回も間違えることもある。30年以上、365日くり返してきた「着替え」(『ヒロのちつじょ』P72より)

「津久井やまゆり園」の事件から1年。障害のある家族とともに暮らすとはどういうことなのか。障害者とともに暮らす家族はどんなことを感じているだろうか。

現在カナダでソーシャルワーカーの勉強をしている佐藤さんに、メールで聞いてみた。そこには、お互いの価値観を尊重し、「距離をつめない愛」を模索する家族の姿があった。

——ヒロさんの本を描いた理由は?

「ダウン症の家族との生活ってどういうもの?」という質問がこの本を書き始めたきっかけなので、この本を通してダウン症とはどういうものなのか知ってもらいたいというのが第一です。障害をもった人と接した機会のない人はどう接したら良いかわからないという声をよく聞きます。

ヒロに限らず発達障害を持った人はこだわりが強かったり、少し変わった癖をもっていたりと、初めはとっつきにくいかもしれませんが、見ていて飽きないくらいとてもユニークな人が多いです。その一人として兄がいます。彼のもつユニークさ、独特な愛らしさを伝えられたらと思います。

「障害をもった家族の本」と聞くと暗く思われがちですが、この本はコミカルに描きました。

——障害のあるヒロさんと暮らす日々を通じて、佐藤さんが気づいたことは?

兄のこだわる部分はとことんこだわり、気にしない部分はあるがままを受け入れる身のこなし方を見ていて、「兄が兄であるように私は私のままで良いんだ」と自分を受け入れられたきっかけになりました。

こだわりや癖は障害のあるなしに限らず誰にでもあり、それは自分自身の個性の一部です。他人や自分のこだわりを大切にしてもらいたいという気持ちを込めました。

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(『ヒロのちつじょ』P63より)

——ヒロさんとは長年一緒に暮らしてこられたと思いますが、実際に絵に描いてみて、何か新しい発見はありましたか?

たくさんありました。またつい最近もいくつか発見したものがあり、見ているようで気づかなかったのだと改めて感じました。

以下箇条書きですが、

・体を前後や左右にゆらしているとき、前後にゆれている時は左右のゆれよりも嬉しい時。さらにこれはハッピー度のバロメーターでもあり、ハッピー度が高ければ高いほど、ゆれも大きい。

・ゆらゆらいつもゆれているせいか、お腹はメタボなのに、ふくらはぎの筋肉はけっこうしっかりしている。

・本の中のヒロのイラストを見せた時、「さとうひろえ」と自分の名前を繰り返しており、アイデンティティーが思っていた以上にしっかりある。

・お風呂が大好きで、短いお風呂の歌(フレーズ?)を自分で作り歌うくらい好き。

・靴下が嫌いですぐ脱ぎたがる。

・毛布のようなフワフワした生地が肌に直接触れるのは好きではない。

・ズボンの前後は間違えないのに、下着の前後はよく間違えている。

・家事の手伝いなど想像していたよりも色々なことができる。

——新たに気づいたことがたくさんあると伝わってきます。本の帯にもあった家族の"距離をつめない愛"とは、どういうものだと思いますか?

家族だからといって全てを分かりあえるわけではなく、良かれと思ってしたことが裏目に出てしまうことがあるように、ヒロと私の距離感もそうだと思っています。

ヒロにとっての幸せとは何だろうと考えたとき、私の価値観を押し付けてはヒロの幸せには繋がらないと思うのです。

——具体的にはどんなことがありますか?

例えば、日常のなかでのこと、朝私と母が朝食の準備や、学園や仕事に行く身支度をバタバタとしているとき、ヒロは我関せずマイペースで全く急ぐ気配はありません。

それはヒロにとって急ぐ理由がないからであって、ヒロの立場から見ればなぜ私たちはそんなにも忙しくしているのだろうと思っているかもしれません。私自身ヒロのそんな様子を見ていて、急いでいる自分がばからしく感じることがあります。

他の例でいうとヒロは、時折いきなり笑い出したり、機嫌が悪くなったりします。その理由が私にはわからないことが多いのですが、こんなふうにわからないことだらけの中で母や私のようなサポートする側が自分たちの価値観、決まり、感覚を押し付けていてはヒロも私たちも疲れてしまいます。ヒロはヒロで私のことを妹として見ており、妹にああだこうだ言われたくないという兄としてのプライドもあると思うのです。

——それぞれの価値観を尊重しながら、ともに暮らしていく。

私が思春期の時つらく当たってしまったことについて、寛容な兄が怒ったことは一度もありません。しかし時々もしかしたらそのことをまだ許してくれてはないかもと思うことがあります。私にとっても全て過去のことだと吹っ切れるわけではありません。

そういう過去のこと、兄妹ならではの距離感も含め、兄のもつ価値観や感覚の違いを認めているからこそ、なかなか距離をつかめないのだと思います。そういう中で、家族としてヒロにとっての幸せ、私たち家族内の心地良い距離感を模索しています。

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