平野啓一郎氏「文学賞の選考委員は兼任しないほうがいい」 三島賞で文壇に苦言

ある賞でポテンシャルを見出されなかった、あるいは作品の良さが理解されなかった作品が、別の賞では可能性を見出されて評価されることは、文壇にとっては健全なこと。
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AFP時事

「第30回三島由紀夫賞」(新潮文芸振興会)の選考会が5月16日に開かれたが、受賞発表会で代表選評を発表した選考委員の平野啓一郎氏が、各文学賞の選考委員を兼任する文壇の傾向について苦言を呈す場面があった。

三島賞には宮内悠介さんの『カブールの園』が選ばれた。同作はサンフランシスコで暮らす日系3世の女性レイが、旅の途中に日系アメリカ人の元収容所を訪れた様子を描いた作品。2016年10月号の「文學界」に掲載され、「第156回芥川龍之介賞」の候補作に挙げられていた。

■「選考委員は被らないほうが健全だと思っています」

代表選評後の質疑応答では、報道陣から平野氏に対して「『カブールの園』は単行本と雑誌掲載作では違う。雑誌掲載作は、芥川賞に落ちている。賞によって評価が分かれることをどう見るか」と質問があった。

これについて平野氏は、雑誌掲載作と単行本での違いについて「全く議論されなかった」とした上で、「作品としては(単行本に同時収録された)『半地下』のほうが評価が高くて、(町屋良平さんの)『青が破れる』がくっついている二作のために評価を落としたのを逆に、『カブールの園』は『半地下』が収まっているからこそ、全体としての評価が高まったところがある」と述べ、単行本としての『カブールの園』を評価した旨を説明した。

また、賞によって受賞作の評価が分かれることは「当然」とした上で、以下のように語った。

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ある賞でポテンシャルを見出されなかった、あるいは作品の良さが理解されなかった作品が、別の賞では可能性を見出されて評価されることは、文壇にとっては健全なこと。そういう意味では、それぞれの賞があんまり選考委員は被らないほうが僕は健全だと思っています。

そういう理由で僕は三島賞の選考委員をやっている以上、野間文芸新人賞とか芥川賞の選考委員は、頼まれてもいないのに言うのはなんですが『やらない』と決めています。

僕が三島賞の選考委員をやっている上で全く評価できなかった作品が、他の文学賞で評価されて賞を取ることは非常に良いことだと思いますし、逆にどの賞でも評価されないという状況は、僕は正しくないと思います。

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現在、三島賞の選考委員は川上弘美、高村薫、辻原登、平野啓一郎、町田康の各氏が務める。

また、今回で三島賞が30回目を迎えたことについては、「(選考では)誰も言及しませんでした。特に選考委員も何も思っていなかったようです。僕も何とも思っていませんでした」と述べた。

三島賞の選考姿勢については、「自分が選考に携わっている間は良いと持っているものを推して、それぞれの選考委員が議論をして、結果としてその年に選考委員の間で一番良いと思うものが受賞作に決めれれているだけ」とした上で、「他の賞でとったからこの作品はやめておこうというバランスの取り方は、少なくとも審査の過程では僕の任期中はほとんど無かったと思う」と、あくまで作品自体そのものを評価対象としている姿勢を語った。

その上で、平野氏が「三島由紀夫賞は芥川賞に対抗してつくられた賞だと思いますので、それぐらい話題になったらいいなと個人的には思っていますけど。というわけで、みなさん一つよろしくお願いします」と冗談交じりに語ると、会場からは笑いが起こった。

■『カブールの園』評価の理由は?

平野氏は代表選評で「『カブールの園』は、僕は一選考委員として以上に一読者として感銘を受けました」とした上で、「物語の中心は母親との関係を描き、差別の問題自体というのは否認され続けている。だけど、やっぱり探っていくと個人的な問題を超えた背景に、自分が経験してきた差別の問題に突き当たらざるをえない」と感想を述べた。

また、「社会とどう折り合いを自分がつけるかという中で、一種の実感とアイデンティティの分裂とかという問題がVRを使ったり、音楽のミキシングのアプリとかガジェットを使いながら、フェイクと現実、二次創作的な世界とオリジナルという仕掛けを使ったりとか、非常に巧みに描かれていた。作者のポテンシャルと作品の完成度がいいバランスで調和していた」「日本語と英語という、2つの言語の間で生きている登場人物の実感と苦悩というものが巧みに描かれていた」と評した。

平野氏は、受賞作以外の全候補作についても、自身の感想を交えつつ、賛否を織り交ぜながら丁寧に講評した。

受賞発表会の模様はニコニコ生放送で生中継された。

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