新型コロナウイルスの感染対策のため、イベント開催の自粛が広がっていることに対し、劇作家・演出家の野田秀樹さんが一石を投じた。「一演劇人として劇場公演の継続を望む意見表明をいたします」とする声明を公式ホームページで発表し、「劇場閉鎖の悪しき前例をつくってはなりません」と訴えた。
政府は2月26日、大人数が集まるスポーツや文化イベントなどについて、「今後2週間は、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請する」と発表した。しかし、中止となれば経済的な損失は大きい。さらに、イベントを通して伝えようとしていたメッセージを参加者に届けられなくなる心配もある。そのため、イベント主催者や演者側から懸念も寄せられている。
野田さんは3月1日、「意見書 公演中止で本当に良いのか」と題した声明を公式サイトに掲載。「感染症の専門家と協議して考えられる対策を十全に施し、観客の理解を得ることを前提とした上で、予定される公演は実施されるべきと考えます」と訴えた。
「感染症が撲滅されるべきであることには何の異議申し立てするつもりはありません」としながら、劇場を閉鎖した場合は再開が困難になる恐れがあり、「『演劇の死』を意味しかねません」と表明。
また、「この困難な状況でも懸命に上演を目指している演劇人に対して、『身勝手な芸術家たち』という風評が出回ることを危惧します」とも主張した。
演劇界からは「連帯」表明も
野田さんの声明を受け、Twitter上では賛否両論さまざまな声が広がっている。
演劇界からも反響が寄せられ、演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチさんや平田オリザさん、谷賢一さんらは、Twitter上で「連帯」を表明した。
一方で、「もし感染が広がったらどうする?」など、感染者が発覚した場合などのリスクを懸念する声も上がっている。
野田秀樹さんの声明全文
コロナウィルス感染症対策による公演自粛の要請を受け、一演劇人として劇場公演の継続を望む意見表明をいたします。感染症の専門家と協議して考えられる対策を十全に施し、観客の理解を得ることを前提とした上で、予定される公演は実施されるべきと考えます。演劇は観客がいて初めて成り立つ芸術です。スポーツイベントのように無観客で成り立つわけではありません。ひとたび劇場を閉鎖した場合、再開が困難になるおそれがあり、それは「演劇の死」を意味しかねません。もちろん、感染症が撲滅されるべきであることには何の異議申し立てするつもりはありません。けれども劇場閉鎖の悪しき前例をつくってはなりません。現在、この困難な状況でも懸命に上演を目指している演劇人に対して、「身勝手な芸術家たち」という風評が出回ることを危惧します。公演収入で生計をたてる多くの舞台関係者にも思いをいたしてください。劇場公演の中止は、考えうる限りの手を尽くした上での、最後の最後の苦渋の決断であるべきです。「いかなる困難な時期であっても、劇場は継続されねばなりません。」使い古された言葉ではありますが、ゆえに、劇場の真髄(しんずい)をついた言葉かと思います。