ニューヨークの国連本部(筆者撮影)
今月4日、国連開発計画(United Nations Development Program)総裁で前ニュージーランド首相のヘレン・クラーク(Helen Clark)氏(66)がニューヨークで記者会見を開き、次期国連事務総長選挙に立候補し、国連初の女性事務総長を目指す意向を表した。現事務総長を務める潘基文(パンギムン/Ban Ki-moon)氏の任期は今年末で切れる。
クラーク氏以外には、ブルガリア出身のイリナ・ボコバ(Irina Bokova)国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)事務局長、ポルトガル出身のアントニオ・グテレス(Antonio Guterres)前国連難民高等弁務官など、既に7名が立候補しており、4人が男性、3人が女性となっている。設立から70年が経った国連だが、歴代の事務総長8人は全員男性ということもあり、少なくとも国連加盟国の53か国が女性の事務総長誕生を望んでいるとされている。
確かなリーダーシップと豊富な経験値
クラーク氏は1981年のニュージーランド総選挙で労働党から出馬し初当選。1999~2008年の3期に渡ってニュージーランド首相を務めた彼女は、7年前から国連開発計画の総裁を務めている。ニュージーランド、また国連で約30年間培ってきたリーダーとしての豊富な経験を、今回の選挙で前面に出していくつもりだ。
ニュージーランドのジョン・キー(John Key)首相も5日(月)、首都ウェリントンで記者会見を開き、政府として正式にクラーク氏を次期国連事務総長に推薦すると発表。「ニュージーランド首相としての9年間、国連における最高職のうちの一つとして7年間務めたことによって、ヘレン・クラーク氏は事務総長に相応しいスキルと経験を備えている。」と発言した。
安全保障理事会を始めとした国連に対する改革意識
安全保障理事会議場(筆者撮影)
クラーク氏は英BBCのインタビューで、安全保障理事会の常任理事国にドイツ、日本、インド、ブラジルを加えたい意向を示している。同様に、アフリカから2か国を常任理事国に加える可能性にも言及している。
また、「国連が直面している最も大きな脅威は、平和と安全保障に関する問題がその性質を変えている事だ。」と発言し、平和や安全保障に対する今日の新たな脅威に立ち向かうためにも、国連の改革を進めていきたい意向だ。シリア内戦などにおいてその機能を十分に果たすことが出来ていない安全保障理事会に対する懸念が伺える。
潘基文(パンギムン)現事務総長に対する評価と批判
国連本部に掲げられた前国連事務総長のコフィ・アナン氏と現事務総長の潘基文氏の肖像画(筆者撮影)
現国連事務総長である韓国出身の潘基文氏は、2007年に第8代国連事務総長に就任。2011年6月に再選され2期目続投となったが、その業績に関しては評価と批判両方の側面がある。
2015年9月25日にニューヨークで開催された「持続可能な開発サミット」で、国連加盟国は「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択。その中には、2015年に期限切れとなったミレニアム開発目標(Millennium Development Goals/MDGs)に代わり、2015年から2030年までの世界の貧困削減目標を定めた『持続可能な開発目標』(Sustainable Development Goals/SDGs)が含まれている。潘事務総長がこの採択に対してリーダーシップを発揮したことは、一部の専門家達から大きく評価されている(関連記事:国際女性デー(3月8日)―ジェンダー平等推進に向けた世界の歩み)。
他にも、虐殺などの人権侵害や国際人道法違反の行為に対して、国連が即座に対応できるようにすることを目的とした『the Human Rights Up Front(人権を最優先に)』の採択に関してもそのリーダーシップを発揮しており、特に開発と人権の分野において同氏は大きな役割を果たした(関連記事:「フェミサイド」を国際法に、フランス大臣が提言。-奴隷にされる女性たち)。
その一方で、潘基文氏に対しては批判も根強い。同氏が就任当初から国連の主要ポストに韓国人ばかりを起用したことを受け、一部からは「縁故主義」として批判されている。2015年には、中国で開催された「抗日戦争勝利70周年記念」の軍事パレードに、(本来中立を保つべき人間である)国連のトップとして出席。批判が続出した。
またリビアやシリアにおける内戦に対する国連の不十分な対応は、アメリカやロシアを始めとする安全保障理事会・常任理事国に責任があるという見方がある一方で、国連事務総長としてのリーダーシップの欠如も指摘されている。
予定では、来週行われる国連総会において、国連設立以来初めて各候補者の公聴会が開かれる。次期事務総長は7月に国連安全保障理事会が実施する投票で決定、その後の国連総会で承認を受け、来年1月1日に就任する。
初の女性による国連事務総長の誕生に期待がかかる一方で、事務総長職は世界各地域の持ち回りが慣例ともなっており、国連加盟国の間では次の事務総長はこれまで一度も選出されたことのない東欧との認識もまた強い。
上述したが、今年で6年目を迎えるシリア内戦では既に25万人以上が亡くなり、多くの一般市民が人道危機に瀕している。そして、その多くが本来国民を保護するべき役割を担うはずのアサド政権によるものであるにも関わらず、安全保障理事会は、拒否権という国連を成立させるための米ソ妥協の産物により、その正義を果たせていない。
誰が次期国連事務総長に就くかは未だ分からないものの、平和を脅かす21世紀の新たな脅威に対して国際社会が一丸となって立ち向かうためにも、国連がその「改革」を進めていく事に期待したい。
記事執筆者:原貫太
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(2016年4月5日 Platnews「クラーク前NZ首相が国連事務総長選へ出馬。-国連の改革は進むか?」より転載)