観測史上最高気温となる41.1度を埼玉県で観測するなど、記録的な猛暑が続く今年の夏は、熱中症の被害も多発しています。消防庁によると、7月30日から8月5日の1週間だけで約1.4万人、前年同月比約3倍もの人が熱中症で搬送されました。熱中症で倒れるリスクは、決して他人ごとではありません。
熱中症は、軽症であれば比較的短期間で回復し、治療には公的保険がききますから、医療費の負担はそれほど重くありません。しかし症状によっては入院を要することもあります。そんなとき、民間の保険は使えるのでしょうか。
■生命保険・医療保険は対象になる
病気で入院をしたら給付金を受け取れる医療保険や、生命保険の医療特約では、熱中症による入院も給付の対象になります。何日か入院すればその日数分の入院給付金を受け取れます。
入院日数に関わらず入院をしたら一時金がおりるものや、日帰り入院を対象とした保険の場合は、病院で入院の手続きをして治療を受ければ給付対象になります。たとえば明け方に緊急入院をして、その日の午後に退院をしたときなどがあたります。
ただし、外来を受診しただけで回復、帰宅した場合には保障されないことがほとんどです。生命保険の特約や医療保険には、通院したときに給付金が支払われるものもありますが、入院が前提であるためです。
外来を受診した後に入院することになれば通院給付金の支払対象になりますが、そのまま帰宅すれば給付されません。かりに診察室のベッドで長時間休んだり点滴を受けたりしても、入院料を支払うなど病院の入院手続きをしていなければ、保険上も入院とはみなされないわけです。
実際に病院にかかったときの扱いが「外来」か「入院」かわからないときは、窓口で渡される領収証で確認できます。
■保険上の災害にはあたらないことがほとんど
生命保険には、交通事故や火事など不慮の事故によって死亡したり、高度障害状態になったりしたら、保険金が上乗せされる災害割増特約が付いているものもあります。災害入院給付金という特約で、これらが原因で入院したときを病気と区別して扱うものもあります。
今年7月、気象庁はこの猛暑を「命に危険を及ぼすレベルで、災害と認識している」と述べました。しかし保険上では、熱中症で亡くなったり入院したりしたときに災害として扱うかどうかは、保険会社や商品によってわかれます。
保険で災害とみなされるのは「急激かつ偶然な外来」の不慮の事故とされています。一部の保険ではここに熱中症が含まれるとしていますが、明記していないものに関しては対象外とされることが多いようです。
ただし、熱中症を発症する細かな条件は個々で異なります。過去には熱中症で亡くなった人の遺族が死因を不慮の事故と主張して、災害特約に基づく保険金の支払いを保険会社に求める裁判が複数起きています(保険金請求事件・東京地判平成23年5月13日ほか)。そのなかでは、高温な気象条件に加えて、発症した人がエアコンのない多湿な建物で仕事をしていたなど人為的な要因が重なっていた場合に、災害と認められる事例もあります。
■旅行保険は原則として対象外
夏のレジャーシーズンには、旅行中に熱中症にかかるおそれもあります。旅行に行くときには国内外の旅行傷害保険に契約することがありますが、「傷害保険」では熱中症に備えることはできません。旅行傷害保険の多くには入院保険金が支払われる補償が含まれていますが、これも「急激かつ偶然な外来」の事故による「けが」で入院をしたときが対象だからです。
基本的には「けが」のための保険なので、かりに旅先で熱中症にかかって入院しても保険金はおりない可能性が高いのです。
例外として、特約として病気を対象とした入院補償を合わせて契約していれば、その対象にはなります。
なお、クレジットカードに付帯している旅行傷害保険も、原則として同じです。ただし、カードの契約状況により病気入院がもともと含まれておらず補償されないこともあります。あるいは「利用付帯」といって、旅行代金をそのクレジットカードで支払うか、出発してから出国するまでに鉄道やバスなどの料金をカード払いするなど条件を満たしたときのみ、保険が有効になるものもあります。手持ちのカードの補償内容や条件を確認しておくと安心です。
■子どもの保険では対象になる
同じ「傷害保険」でも、保育園や幼稚園、学校で子どもが契約する傷害保険では、熱中症を補償の対象にしていることがあります。「こども総合保険」とも呼ばれる保険で、一般的には通学中や校内はもちろん、夏休み中など日常生活で見舞われたアクシデントも対象になります。ここでは「熱中症危険補償」という補償が付いており、日射や熱射で身体に障害を被ると保険金が支払われるのです。
詳細は商品によって異なりますが、基本的には熱中症で死亡した、後遺障害が残った、入院した、手術をした、通院をした場合に、それぞれ契約で定められた保険金が支払われます。生命保険とは異なり、入院をせず通院のみでも保険金がおりることもあります。これは、熱中症による体調悪化そのものを保険金支払いの事由とみなすためです。
子どもにかかる医療費はお住まいの自治体の助成によって負担が大幅に軽減されており、地域や年齢によってはゼロのこともあります。しかしそれとは関係なく、請求して支払事由と認められれば保険金を受け取れます。
こども総合保険の通院保険金は1回あたり2000~3000円程度が平均的で、熱中症では受け取る保険金額がそれほど高額にはならないかもしれませんが、もしもお子さんが熱中症になったときは、加入している保険会社に確認してみるとよいでしょう。
酷暑の勢いは和らぎつつあるものの、残暑はもうしばらく続く見込みです。熱中症の予防を意識するとともに、いざというときのお金の対処も知っておくと安心ですね。
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加藤梨里 ファイナンシャルプランナー
【プロフィール】
お金と健康の情報を提供するFP。食費の節約や生命保険から健康経営までコンサルティングや講演を行う。近著に「ガッツリ貯まる お金レシピ(主婦と生活社)」。慶應義塾大学スポーツ医学研究センター研究員。健康経営アドバイザー。