「タンポンで処女膜は破れない?」10代の疑問に正面から回答。NHKのハートネットTVが性を等身大で発信する理由。

「ネットに性の情報が氾濫している中で、言葉を隠したりごまかしたりすればすぐ分かる。性のことについて大人がちゃんとやってほしい」という声に応えました
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10代の切実な性の悩みに答える番組「教えて!性の神様」
NHK Eテレ「ハートネットTV」公式サイトより

 2018年12月、お茶の間に衝撃が走った。

午後8時、NHKのEテレで流れ始めた「教えて!性の神様」。ティーン世代の性に関する等身大の悩みに答えていく内容だ。

赤裸々な内容に、ネット上では「NHK攻めてる」といった意見や、番組出演者が性に対する誤解について言及したことに「声を大にして怒ってくれていて凄く嬉しかった」といったコメントが続いた。

3月4日には、番組を振り返る総集編が放送される

「アニメに性欲が湧くのは変?」「“潮ふき”の“潮”って何?」10代の疑問が続々

番組の中では、性について突っ込んだ内容が流れた。

「タンポンで処女膜って破れない?」

「ゲイの人を何と呼べばいい?彼?彼女?」

「2次元アニメに性欲がわくのは変?」

こうした質問に対し、タレントのぺえさんやゆきぽよさん、そして石田純一さんらしき声の“性の神様・じゅんいち”が答えていく。神様はアドリブで話すため、間違えることもある。

すぐさま正しい情報の解説が入り、現実によくある誤解も洗い出される仕組みになっていた。

ネット上に性の情報があふれるいま、どうしたら正しい知識を伝えられるのか。

「教えて!性の神様」は、福祉ドキュメンタリーを扱う「ハートネットTV」が1年かけて取り組んできた「もうひとつの“性”教育プロジェクト」の集大成。

高校生でつくるプロジェクトメンバーが寄せられた質問を厳選し、専門家のアドバイスを受けて性の疑問に答える動画が収録された。

 「世の中は女性の品格を求めすぎ!」とゆきぽよさん

 ある10代の女子からは「女子がマスターベーションするのは良くないことですか?」という質問が寄せられた。

ゆきぽよさんとぺえさんは即座に「全然いいと思います!」と即答。

「男子はマスターベーションって言っても引かれることはないけど、女子は話が変わってくるっていう温度感や空気感があるよね」とペえさんが言うと、“性の神様”が「恥ずかしいことじゃ全然ないし、リラックスするというのはすごく分かる」と話した。

そこから話題はさらに発展。

なぜ、男子はしてもおかしくないのに、女性はどうなの?という空気になるのか言及していった。

ゆきぽよさんは「やっぱり世の中が女性の品格を求めすぎているんですよ。『女の子なんだから』みたいな」と見解を述べた。

解説では、マスターベーションをしたことのある女性の割合とともに「したら変、ではありません」とまとめている。

このほかにも、避妊についての話題では「ピル飲んでるから生でしてもいいんじゃない?って男性にどういう風に対応すればいいんだろうね」とコンドームをつけようとしない男性がいることについてぺえさんが話をふると、間髪入れずにゆきぽよさんは「ゆきだったら、ぶっとばしますよ」と回答。

ぺえさんもその回答に「好き!」と答えた後、「本当に、そのくらいの問題だと思う」と話した。

神様は「男って、生のほうがいいってそういう話ばっかりしている」と持論を述べ、話題は「コンドームと生って違うの?」などとかなり突っ込んだ話に展開していった。

ただ神様は、そうしたコンドームがあったほうがいいか無いほうがいいかなどというのは「生がどうのこうのっていうのは男の論理だけで、ちゃんとコンドーム付けたほうがいいよね」と促した。

ディレクター「周りには言えないこと、等身大で発信出来ればと思った」

“お堅い”というイメージがついてまわるNHK。深夜ではなくゴールデンタイムに、性について正面から向き合ったのはなぜか。

1年間「もうひとつの“性”教育プロジェクト」に取り組んだNHK文化・福祉番組部の荒井拓ディレクターと、真野修一チーフ・プロデューサーに話を聞いた。

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番組制作を担当した荒井拓ディレクター
Huffpost Japan/Shino Tanaka

荒井ディレクターは、性教育に取り組もうとしたきっかけについて「今回のプロジェクトに取り組む前から、放送してきた内容について当事者の方から声が寄せられていた」という。

だが「性の問題はプライベートなことでなかなか周りには話しにくい。でもネットで聞いたり話したりしたら叩かれるかもしれない。『受け止めてもらえるかもしれない』と、番組ポータルサイトに声が届いていました」と語る。

NHKの中でも、弱者の視点や現実に起きているバリアを丁寧に拾い上げてきた文化・福祉番組部。

ハートネットTVでは、先駆的にLGBTというワードを取り上げ、セクシュアル・マイノリティが抱える問題や、#metooなどの性暴力、虐待問題などに関する内容を掘り下げて放送している。

こうした番組制作を進めていくうち、自身も性に絡む様々な問題点を感じていたという。

「誰かに相談もできず、正しい情報がどれかも分からず、抱えてしまう前に正面から扱う必要があると考えていました」と荒井ディレクターは言う。

 視聴者から寄せられた声や、自身の問題意識を出発点に「もうひとつの“性”教育プロジェクト」の構想を練り始めたのは2017年の秋ごろだった。

ただ、教育としてお堅く教えるだけで届くのか。どんなことをやっていけばいいのか。

そもそも、NHKだけでなく民放番組でも性の話を言葉などの規制なく等身大で扱う番組はとても少なかった。

荒井ディレクターは「性を『下ネタ』として笑いにされるか、ものすごく堅苦しく『性教育』として扱うか。二極化しているように思いました。でも、そうじゃないけど多くの人がもうちょっと考えたいなと思っている気がした。そんな等身大で発信できればと。でも正面から扱うことで、どんな反響が来るか分からなかった」と話す。

言葉は出来る限り規制しない。下ネタとして扱わない。視聴者を不快にさせることなく、ダイレクトに伝わる内容にしたい。

保健体育や学校の性教育では扱わない内容でも、どのみちネットには性に関する言葉が溢れている。

真野プロデューサーは「5回、6回議論を重ね、当事者の声を拾いながら当事者の要望に応え、僕らなりの伝え方をする。若い世代への必要な性教育をちゃんとしようという趣旨の中で、出演者にはオープンにして自主規制で変に隠すことなく、大事なことに向き合ってもらった」と振り返った。

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番組について振り返る真野プロデューサー
Huffpost Japan/Shino Tanaka

 10~20代の当事者から質問を集め、番組に使う内容を高校生が選んだ。

番組では、先進的に性教育を扱ってきた吉祥女子高校の生徒や、男子校である浦和高校の生徒らと協議を重ねてきた。

10代の人たちに話を聞いていくうちに「ネットに性の情報が氾濫している中で、言葉を隠したりごまかしたりすれば自分たちはすぐわかる。性のことについて大人がちゃんとやってほしい。ちゃんと言ってちゃんと伝えて」と言われたという。

番組を作りながら、1年の間で内容をアップデートしていくように進めていった。

プロジェクトを進めていくうちに、10代だけでなく、大人もさまざまな疑問を抱えていることが見えた。

多くの反響があり「思った以上にニーズがありました」という真野プロデューサー。

動画という形式にしてネットで公開したことで、性の話題を「恥ずかしい」と思う気持ちを尊重しつつ、ネットで調べたときに正しい情報を選択的に見てもらえるようにした。

当初からこのプロジェクトに関わった番組レギュラーの風間俊介さんについても、荒井ディレクターは「性の話題ということで、ジャニーズ事務所からなにか言われてしまうかな、と勝手に心配していた。むしろ、深いことを話してくれて、引っ張っていってくれた。そこで『こちらが逆に変な自主規制をしていたんだ』と気が付いた」という。

実は2人とも、学校では性教育を受けた記憶は「そんなことあったよなあ」程度だった。

荒井ディレクターは、この番組を見た自分の親から「自分は全然、自分の子どもに何も伝えていなかったんだなと思った」と言われたという。

父親は「恥ずかしいよな、でも必要だよな」とポツリ。

5歳と2歳の子どもを育てる身として「どこから教えていけばいいのかな」と考えているという。

「日本で、どういう年代からどう性を教えればいいかは人によって意見は違うかもしれない。現場の先生のなかでも、学習指導要領といった決められた範囲の中で教えるために創意工夫している方が想像以上に多かった。でも限界はある。性について知りたい、知らないことが多い。ただ、プロジェクトを始めた1年半前とは、性についての語られ方も前向きに変わってきていると感じています」と話していた。

3月4日にプロジェクトを振り返る総集編 

2018年4月9日に放送が始まった「もうひとつの“性”教育プロジェクト」。

3月4日の午後8時からは、2018年12月3日に放送された「教えて!性の神様」を含む1年間を振り返る総集編が放送される。

放送時間:3月4日 午後8時00分〜午後8時30分

     (再放送)3月11日 午後1時5分 〜 午後1時35分

放送局:NHK Eテレ

出演者ほか:【出演】性の神様…じゅんいち、牧村朝子、渡辺篤、宗矢樹頼

      【司会】風間俊介

      【語り】Chiko