全身の筋肉が萎縮する難病に苦しむ30歳のロシア人男性が、世界初となる頭部の移植手術を計画している。
男性の名前はワレリー・スピリドノフ氏。手術ではスピリドノフ氏の頭部を体から切り離し、脳死状態にあるドナーの健康な体に接合する。危険で倫理的な問題をはらむ手術だが、スピリドノフ氏は彼の病状は絶望的であり、イタリア人の神経外科医セルジオ・カナベーロ博士に手術を依頼したいと述べる。
ワレリー・スピリドノフ氏
スピリドノフが患っているのは、遺伝性の難病ウェルドニッヒ=ホフマン病。筋力が低下して筋萎縮が進み、自分の骨格を支えることができなくなる病気だ。スピリドノフ氏は「Daily Mail」紙のオンライン版に対し「手術が怖くないかと聞かれればもちろん怖いです。でもこれはただの恐ろしい手術ではなく、とても興味深い手術でもあると思います」と語っている。
「わたしには他にほとんど選択肢がないということを分かって下さい。私の病状は年々悪くなっていて、この手術に賭けなければ悲しい結果が待っています」
セルジオ・カナベーロ医師は、2年以内にこの手術を実施したい考えだ。
カナベーロ博士は2013年に学会誌「Surgical Neurology International」に発表した論文で、人間の頭部移植は可能であると主張。2015年2月にも、同様の論文を発表している。
カナベーロ博士の計画では、なるべく脊髄にダメージを与えないような方法で頭部を体から切り離した後、脳死状態のドナーの体に移植する。そして、主要な神経と動脈を接合し終えたら、細胞膜内の脂肪の結合を促す効果があるポリエチレン・グリコールを脊髄に注射する。
その後、患者は数週間にわたって人為的に昏睡状態に置かれ、脊髄に電気刺激を与えて頭部と体の神経がつながるよう促す。カナベーロ博士によれば、患者は以前と同様の声で話せるようになり、理学療法を受けて1年以内に歩くこともできるようになるという。
1971年、アメリカのケース・ウェスタン・リザーブ大学医学校で、サルの頭部を別のサルの体に移植する実験が行われたが、サルは自力で呼吸することもできないまま、手術から8日後に拒絶反応のため死んだ。71年にサル6匹の頭部を移植した別の実験でも、24時間生き延びたサルはいなかったという。
スピリドノフ氏とカナベーロ博士は、スカイプを通して話したことがあるだけで直接会ったことはないが、手術についてはこれまで2年間話し合ってきたという。スピリドノフ氏は、手術日はまだ決まっていないが早ければ2016年になりそうだと話す。
スピリドノフ氏はロシアの国営メディア「ロシア・トゥデイ」に、「頭部を移植する手術は、始めて宇宙遊泳をすることに似ています。この技術は、将来私より症状が重い患者たちを救うことになるでしょう」と伝えている。
しかし一方で、この頭部移植は成功の見込みがないと批判する医師たちも多い。アメリカ脳外科学会次期会長のハント・バチェール博士は「私は誰にもこの頭部手術をしようとは思わないし、自分にもして欲しくはありません。死ぬよりもひどい結果になるでしょう」と話している。
この記事はハフポストUK版に掲載されたものを翻訳しました。
[日本語版:水書健司、合原弘子/ガリレオ]
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