橋下徹氏、笑顔で引退表明「大変幸せな7年半、本当に悔いがない」【会見詳報】

地域政党「大阪維新の会」代表の橋下徹・大阪市長は、幹事長の松井一郎・大阪府知事とともに、大阪市内のホテルで記者会見し、任期満了後に政治家を引退することを断言した。主な内容は以下の通り。
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Taichiro Yoshino

大阪都構想を巡る住民投票は、5月17日に投開票の結果、反対が賛成を上回り、大阪市は存続することになった。提案者である地域政党「大阪維新の会」代表の橋下徹・大阪市長は、幹事長の松井一郎・大阪府知事とともに、大阪市内のホテルで記者会見し、任期満了後に政治家を引退することを断言した。

主な内容は以下の通り。

【冒頭発言】

橋下:大阪市民の皆さん、重要な意思表示をしていただきましてありがとうございました。大変重く受け止めます。私が提案した都構想が受け入れられなかった。間違っていたということになるんでしょうね。かなり悩まれたと思いますし、非常に重い重い判断をされたと思います。日本の民主主義を相当レベルアップしたと思います。大阪市民が全国でいちばん政治や行政に精通されている市民ではないのかと思います。これだけ多くの税金を投入して構想を進めてきたが、特に、大都市局の幹部は5年以上付き合ってもらった。大都市局以外にも関係職員、相当なエネルギーを割いてつきあってくれた。納税者に失礼な言い方かもわかりませんが、政治家冥利につきる活動をさせてもらって本当にありがたく思っています。税金を使ったことにおわびというか、感謝というか、持ちながら、ありがとうございましたと市民のみなさんにいいたいです。

松井:まず大阪市民の皆さん、本当に悩ましい問題に対し、二者択一のご判断を求めました。本当にそれぞれが悩まれて判断された結果だと思います。この結果を、真摯に受け止め、謙虚に受け止め、この大阪を、大好きな大阪が次の機会に賛成、反対とも双方問題があるということは出たわけですから、僕らが残された任期は様々な問題解決に向けてしっかり働きたいと思っています。府庁で多くの職員が努力をしてくれました。ストレスもかかることがあったでしょうし、支えてくれたみんなにお礼を言いたい。究極の民主主義で決まりましたから、あとはしっかり残りの任期を働いていきたい。

【質疑応答】

Q 敗因は?

橋下:僕自身への批判もあるだろうし、都構想をしっかり説明しきれていなかった僕自身の力不足ということになると思いますね。

Q 任期満了で退くというお考えに変わりは?

橋下:市長任期まではやりますけど、その後は政治家はやりません。

Q 市長とかだけでなく、政治の世界には一切?

橋下:弁護士はやります。維新の党の法律顧問を雇ってもらえないかとさっき江田さんに言ったんですけど。

Q 今後の任期はどのように

橋下:各党に、こういう結論がでましたので話し合いをお願いしたい。いろんな課題、議会で進んでいないこともありますけども、任期満了までに進めるところは進めていきたい。自民、民主、公明で、改正自治法の総合区制度を使って住民の皆さんにみじかな行政をしたほうがいいという提案もあった。維新の市議団とも議論して、少しでも前に進めれば。

Q 笑顔に見えるが、そのお気持ちは

橋下:いやー、7年半、自分なりにやれるところはやってきたつもり。38歳から無理してやってきたところもあるでしょうね。もともと自分のことで生きてきた人間が、ちょっと公の仕事でお返ししなきゃという気持ちで政治の道に入った。有権者の皆さんからすれば、おかしいじゃないか、やりすぎじゃないかということもいろいろあるけど、自分なりに悔いのない政治家としてのこれまでの7年半。思う存分やらさせてもらった。今日もこういう舞台で住民投票の結果で政治家を辞めることを言わせてもらうなんて、本当に納税者のみなさんに申し訳ないけど大変幸せな7年半だった。

Q 進退について。70万人という(賛成の)数を見ても、気持ちに変化はないか。

橋下:だってそれはもう、政治ですから。負けは負け。ここは公務員と違うところです。きのうの街頭演説では戦を仕掛けたわけですから。「叩き潰す」と言って叩き潰された。民主主義、大変素晴らしいですよ。メディアも含めて徹底議論した。負けたのに命を取られない政治体制は、日本はすばらしい。僕はこのまま生きて別の人生を歩めるわけですから。絶対に民主主義は是が非でも守らなくてはいけない。そのためには報道ですよ。報道の自由は絶対に守らないといけない。僕もメディアにはやいのやいの言ってるけど、報道の自由が民主主義を支える根幹ですから。メディアの皆さんにも頑張ってもらいたいし、素晴らしい政治体制だと思いますね。

Q そうはいっても過去に発言を覆したことはある。100%ないですか?

橋下:また2万%って言わせたいんですか?(注:橋下氏は2008年、大阪府知事選への立候補を「2万%ない」と否定し、その後翻した経緯がある) あのときはご存知の通り、僕が番組収録を抱えていて、番組の予定が組まれていたので、どうしても「出ない」と言わないと放送できなかったのでああいう言い方をした。今はそういう制約はないので、嘘をつく必要もない。政治家は僕の人生から終了です。

Q 12月になって大阪や日本の情勢が劇的に変わったら、将来にわたってもう一度政治家に、という可能性は?

橋下:ないですよ。まず一つは住民のみなさんの気持ちをくみとれていなかった。負けるんだったら仕掛けるべきじゃない。その判断が間違っていた。政治家としていちばんだめです。それから、僕みたいな政治家はワンポイントリリーフ。課題が出た時に解決する実務家。政治家の原理原則は嫌われちゃいけない。僕みたいな政治家が長くやる世の中は危険です。敵がいない政治家がやらなきゃいけない。敵を作る政治家は本当にワンポイントリリーフ。必要とされて、いらなくなれば交代。権力は使い捨てがいちばん健全です。でも僕みたいなスタイルで8年やらせてもらった。大阪もどうなのかなあ。

Q 大阪都構想の再チャレンジを仕掛ける気はないか。

橋下:自民、公明、民主、共産の意見をしっかりとらえた形になっていない。のちに道州制にでもなったときに、都構想の設計図がものすごい財産になる。いつかわからないが、誰か政治家が日本の危機的な状況の中で、統治機構改革を打ち出す政治家が出てきた時、都構想の設計図を頼りにされたらうれしい。

Q 維新の会と維新の党、看板政策が否定された。今後どうするのか。

橋下:維新の党はわかりません。大阪維新の会は、統一地方選、職を投げ捨てて大阪都構想のために参加してくれた。不甲斐ない代表のせいでこういう結果になりましたが、次のリーダーを選んでもらって、個人政党じゃないですから、次のリーダーにしっかり引き渡していきたい。それが大阪維新代表としての最後の務め。

松井:維新の党は今は国政政党の中で存在感を発揮していただいている。今は顧問という立場ですし、国民のために活動してもらえると思っている。大阪維新の会は2度、統一地方選を経験し、大阪において第1党をいただいている。今回、都構想については反対多数になったが、大阪の課題について一番よくわかっている政治集団と思っている。府議会、市議会の第1党の重責を果たしてもらいたい。議員団の運営はそれぞれリーダーがやっていただいていますので、そういう人を中心に、ローカルパーティー、全国でもこれだけのものは例がないと思っている。

Q 大阪維新の会の役職は2人とも退くのか。

橋下:どこかで引き継ぎをしないと。

松井:任期満了までは。仲間ですから。我々も仲間に入れておいてもらいますよ。

橋下:メンバーに恵まれて、よく僕みたいなのがリーダーやりつづけられた。まったくそういうのできないタイプですから。大阪市の職員もよく支えてくれたと感謝してます。

Q どういう声が反対派に響き、賛成派に響かなかったのか分析してほしい。

橋下:いや、分析するまでもなく、すべてトータルでこちらのいうことが伝わらなかった。こちらの説明能力不足ということに尽きます。

Q 松井知事はどうするのか。

松井:任期満了までは知事を務めるという気持ちです。与えられた仕事をやりきろうと。まあ「これで辞める」と、今日ここで言うのは…うーん、代表はずっと言うてますが、反対されて感情的にそういうことを言ったと思われるのも嫌なので。清々しい思いでここに座ってるので。

Q 今後の議会対応は。

橋下:まずは維新の会市議団が議会の中でいろいろな話をしてくれると思います。少数与党ですから他会派の意見を聞かないとこちらの提案は通らない。

松井:結果が出てノーサイドということで、府議会においても過半数はないわけです。ただ、府議会も市議会も第1党には変わりない。ぜひ他会派のみなさんと、我々は市長と大阪の改革案件まとめてますんで、一歩でも進むように話し合いしてもらいたい。府市統合本部で3年半かかりましたんでね。民間にどんどん入ってきていただいたほうがいい案件、まとめきっております。進めていくことがメリットになる。府議会、市議会とも過半数はないけど第1党なんで、他会派のみなさんと話し合いをし、調整して、進めてもらいたい。

橋下:都構想ばっかりやってたわけじゃない。他会派の理解も得て、任期満了までに進められるものは一つでも進めていきたい。

Q 11月にも知事選、市長選への対応は。

橋下:何も考えてません。

Q 住民投票の意義は

橋下:211万人の有権者でしょ。通常の地方選だと投票率は20から30%台。そういう中で66%が足を運んでくださって。しかも中身が本気で考えるとものすごい難しい話を、資料見ながら、メディアの情報取り寄せながら、タウンミーティングにも足を運んでくださった。反対派の集会にも行っているだろうし、民主主義の活動だった。

Q 144万人が投票して1万票差。悔しくてしょうがないのでは?なんでそんなに晴れやかに?

橋下:こんな最高の終わり方ないじゃないですか。ボロカスにやられたらシュンとするけど、こんなありがたいことないですよ。本当に悔いがないし、総力戦でやってくれて、最後結論がこうなって、これはトップとしてありがたい話はないです。本当に納得できる。

Q ギリギリまで結果が読めない状況、どのように見守っていた?

橋下:僕らは待つだけ。こんな経験はなかなかさせてもらえないし、いやーもう、すごい経験させてもらいましたよ。最高でした。

Q 結果が出た直後に率直にどんなお気持ちでしたか?

橋下:負けた。終わったと。

Q もしかすると政治家という仕事にお疲れだったのでは?

橋下:そんなのみんな疲れてますよ。疲れないのは仕事してない証拠ですよ。でもやらなきゃいけない。でも終わりは終わり。

Q しかしこれほどの僅差ですから、賛成派の支持者は納得しないのでは?

橋下:僕は現職の市長で、71万の市民が僕の提案に反対した。それはもう、ダメですよ。市長は満遍なくみんなに好かれるのが通常の原理原則だと思いますけどね。

Q 折に触れて「憲法改正の国民投票の予行演習」と言っていた。学んだことは?

橋下:僕じゃなくてメディアでしょう、学んだのは? 報道の仕方じゃないですか? あわてて告示になってから急に情報提供し出して。憲法改正の国民投票のときには、メディアの皆さんがもっと、どういう情報提供を、どの段階からしなければならないのか。もし仮にディベートするのであれば、僕はテレビ局、ぜんぜんディベートのルール学んでないし。これは僕らの教育プログラムになかったからですが、中堅幹部の皆さんもみんなそうなんでしょう。それはメディアがもう少ししっかり勉強してもらわないと、正確な情報提供にならないんじゃないでしょうかね。言ったら質問会なのかディベートなのか。質問会なら質問者が時間をかけて提案理由を説明して、その上で質問に入るならいいけど。提案者の提案理由と批判者の批判理由の説明が同時間なんてありえない。徐々にディベートの形になりつつありましたけど、当初はぐちゃぐちゃだったんでねえ。テレビ局なんてみんな、総務省が強いのか同時間配分。お互い、賛否同じ時間だけしゃべらせる。それがディベートなのか質問会なのかわからない。もし憲法改正の国民投票、たぶんあるんでしょうから、そのときはしっかりメディアの皆さんが情報提供の仕方を勉強してもらって、しっかり国民の皆さんに情報提供してもらいたいと思いますね。

Q 運動の難しさは?

橋下:原則は自由がいいと思いますよ。日本は公選法でかなり強制的に運動量を制限してますから。今回はかなり自由でしょ。それはいろんな情報飛び交いますけど、それは言論じゃないですか。メディアがあるなら情報提供すればいい。いくら物力作戦でやろうが、メディアに比べれば微々たるもんでもない。いろんな嘘が飛びかえばメディアが正せばいい。僕は政治運動というか、国民投票の運動の際には、自由にやればいいと思う。

Q 大阪が変わるチャンスは失われたか

橋下:いやいや、今回で大きな変わるチャンスを得たと思いますよ。住民投票で賛成、反対いろいろ出た。僕と議会の対立もありましたが、住民投票受けて、少しでもことが前に進むことになれば、いいことだと思う。こっちは負けた方。勝った方、進めるものがあれば、協議していきたい。

松井:都構想は反対が上回った。でも改革案件はいろいろある。改革が進んでいない状況は、都構想に賛成のみなさんは不満を持たれている。反対の立場のみなさんがたと、維新で話し合って、改革案件は進めてもらいたい。

橋下:大都市制度の話は進むんじゃないですか。改正自治法の調整会議とか。これはしっかり進んでいくと思いますよ。これはやるということを自民党も言っている。時期がどうであれ進めていかなければいけない。

Q 橋下代表が「住民投票を仕掛けた」。通常はボトムアップだが、正しいやり方だったか。

橋下:いやいや、仕掛けたというのは、都構想を進めるにあたって提案した。法律に住民投票が記載されている。プロセスの中に入っているわけですから。都構想実現にあたって住民投票を経なければいけない。それだけです。

Q 住民から湧き上がってくる意思を組み上げてやったか。

橋下:両方あるんじゃないですか。住民の皆さんはそんなことわからない。都構想を僕と松井知事で提案した。その中の手続きとして住民投票入っていた。住民投票を入れるかどうかは国会でも議論があったが、最後は議会の議決と住民投票ということで、特別区設置の法律がそういう形になっているだけ。住民のみなさんがやりたいと思えば住民投票は今の法律でもできるが、法的拘束力はない。

Q 政界引退は無責任ではないか。課題はいろいろある。原発再稼働反対とか、若者世代の年金改革。今まで都構想実現のために政権批判を抑えていたように思うが、残り半年で原点に戻る考えは。

橋下:私は公務員、全体の奉仕者ですから、国民の奴隷ではありません。僕は今度、自分の人生を歩んでいきたい。弁護士としてプロフェッショナルなプライドもある。依頼をして頼まれた仕事をしっかりやっていく。万人に好かれることもなく、仕事をやって結果を出す人生を歩んでいきたい。

Q 原発再稼働反対で野田政権を倒した勢いでやってほしいのだが

橋下:僕は国民の奴隷ではありません。そういうクライアントが現れて報酬払ってくれるんだったらやります。

Q 安倍政権と対峙するということでよろしいですか。

橋下:それは維新の党の執行部に聞いてください。

Q 自民党は地方は反対だが、官邸が理解を示すというねじれがあったが、結果を受けて改めてどう思うか。

橋下:相当、自民党支持層に影響あったと思いますよ。安倍政権が「反対」と言えば反対に回るところを、官邸側のいろんなメッセージの出し方が、大きな影響を与えていたということになると思う。

松井:これまでも一貫して、安倍総理も官房長官も都構想は「意義がある」。ただ、決定権は市民。ぶれなかった。ありがたかったですね。党利党略ということでなく、大阪の様々な問題点がある中で、解決する一つの手段との捉え方をずっと続けていただいたことは感謝しています。

Q 地域内で賛否が対立して住民にしこりが残ると懸念する方が多かった。

橋下:それがないようにしてもらいたい。それが民主主義なんですから。終われば最後、みんな大阪のことを考えて賛成、反対を考えただけだから。しこりが残るようなことではないと思いますよ。

Q 自民党が提案した総合区制度には否定的だった

橋下:住民のみなさんのそういう結果が出たわけですから、できる限りのことはやらないといけないと思いますよ。民意は重いものだから、考えていかないとけいない。

Q 地下鉄民営化について。野党は廃止条例には反対だったが、自民の一部には賛成もあった。出し直す可能性はあるのか

橋下:維新の会が協議して。僕はあと半年しかないから、維新の会と他会派が協議して、それで進めていきたい。

Q ほかの道はなかったのかという思いはないのか

橋下:ないですね。だってみなさん、こんな住民投票、できると思ってましたか? 針の穴にゾウを通すような。これしかないという、ギリギリの、ありえないぐらいのところを進めてきた。これ以上ほかのやり方やってくれと言ってもできない。

Q 嫌われる政治家は結果を最後出せないことにもなる。論理矛盾を抱えているのでは?

橋下:歴代の知事、市長が手をつけられなかった問題、議会、職員が避けてきた問題をやってきた自負がある。僕はやっぱり実務家なんだと思います。僕は課題があれば解決するという実務家なのかなと。周りにどう思われるかとか考えずにやるところがある。でもどこかで社会に課題があった場合はやらなきゃいけないことがどこかで出てくる。そういうときはそういう政治家が求められるんじゃないですかね。非常に短気の賞味期限の政治家が求められることもあるんじゃないですかね。

(橋下氏、「打ち合わせがある」として一時退席)

Q 反対派も死力を尽くしてやっていた。自民党、共産党をどう見たか。

松井:どちらも必死でしたでしょうね。我々は二重行政を解消するために制度を変えよう。相手は大阪市役所という体制を守りながらも改革はできると。議論がかみ合いませんでした。死力を尽くしてやったということだと思います。

Q 途中から都構想自体の説明も、魅力を語るより不安を削るという話が多くなった。不安がどんどん増していったという感じか。

松井:どこへ行っても不安を語られました。制度の話と政策の話がごっちゃになって、今回は制度を変えようという話をし続けたが、途中から税金が上がる、水道代が上がる、敬老パスがなくなるだの、負担が上がるという不安を打ち消すことに苦労しましたね。まあそれは、すべて不安は打ち消せませんでした。

Q 女性からの指示が弱含みだった。不安を解消できなかった

松井:目の前の生活不安は女性は敏感に反応された。制度の話とは別だったんですけど、なかなか誤解を解けなかった。

Q 運動期間がもう少し長ければ訴えは浸透した?

松井:運動期間は十分でした。ただ、メディアのみなさんの伝え方、要は我々の問題解決の案に対して、反対のみなさんからは、いろんな恐れ、不安があるという議論になりましたので、2案択一ではなく、都構想への漠然たる不安が、なかなか、説得できるところまでいかなかった。案と対案への比較をしてほしかったですね。

(橋下氏が戻る)

Q 演説内容が途中から不安払拭に移っていったが。

橋下:何を言っても言い訳になるから、説明不足ということに尽きます。

Q スコットランドのように、最後は保守的になる。

橋下:それはそうですよ。現状に相当な不満がないと変化に踏み出せませんよ。これはこの場ですからあえて言わせてもらうと、僕と松井さんと維新の会で、相当、安定感を与えることができたのかな。不平不満がないように、役所改革も徹底してやってきたつもりです。それまでの不平不満がものすごい上がってる状況だったら、僕が大阪知事選に出た時だったら、あるいは政権交代の時期だったら、国民のみなさん変化を求めてた時期だった。そのあと民主党政権がああいう状態になり、安倍政権が極めて安定した政治をやっている。大阪府政も市政も、不平もそこそこ抑えることができたのかな。そういう全体の政治状況の中で、ここまで強烈な変革を求める提案というのは、なかなか多くの市民には受け入れられなかったのかな。今は安定していることもいいことだから。僕らは提案が実現できなかったのは悔しいけど。変革をどんどん求める世の中は不平、不満を持っているということだから。

Q もう少し早く進められれば結果は違っていた?

橋下:いや、拙速であれば不安を感じるでしょうから。ただ、政治家は公約を掲げて実行するのが政治家。ダブル選挙の時「この任期でやる」と言った以上、このスケジュールで進めて、あとは有権者が判断すればいい。

Q 無党派の投票率がかなり高かった。数字ははっきりわからないが…

橋下:感覚で言われても答えようがないですね。調べたらいいだけじゃないですか。

Q 66%を超える投票率。投票率を上げる効果は国政選挙に結び付けられる効果はあったか?

橋下:メディアで考えてください。記者の人、答えてあげてくださいよ。

Q より政治に関心を上げるために何が功を奏したでしょうか?

橋下:何が功を奏したと思いますか?

Q 投票日ギリギリまで演説していたり、ボランティアがチラシを配っていたり、一般に近い人が政治参加していたというのもありますが。

橋下:その通りです。

Q 知事就任前のインタビューで「行政の出す数字はバラ色。疑ってかかる必要がある」と言ったが、都構想の数字もバラ色だった。

橋下:それはそういうところもあると思いますよ。推計なので。ただ、市政を運営するにあたって推計をもとに予算を組んでいる。それ以上のやり方はない。あの数字は、ちゃんと特別区にして運営できるかの数字なので、あれしか計算方法がない。ただ、それをメディアがきちっと検証してくれてますから、それはそれでいいんじゃないですかね。

Q 安倍総理のようにリベンジした例もある。安倍氏に自身を重ねるといったことはありますか?

橋下:総理は僕なんかよりすごい政治家です。ありえません。今回、最高の政治家人生を歩ませてもらって、悔いがあればやりますよ。何も悔いがない。自分の期限を切らさせてもらって、こんな最高なことはない。せまい人間関係で生きてきたものが、様々なメンバーとやらせてもらった。自分の力を出し尽くしたと自分でも思ってるし、これ以上のことやれと言われても無理。誰か本書いてください。

Q 政治家になるつもり、当初はなかったと思うが、ご家族への思いがあれば。

橋下:家族への負担は大きかったですよ。全力で大阪府警が守ってくれてましたんで、安心に暮らすことができたけど、38歳から警護対象になって、普通ではなかなかそこまで制限されない制限はたくさんあった。妻もそうですが、よく子供が耐えてくれた。僕みたいなやり方してれば、子供の世界では軋轢もあるだろうけど、学校や友達がうまくやってくれて、子供の世界を築いてくれる友人や学校だったのでありがたく思ってます。この12月、任期終わったあと、8年分をなんとか取り戻していきたい。

Q テレビからのオファーもあると思うが

橋下:まったくないと思います。テレビ局なんて僕のこと大っ嫌いでしょう。

Q 議会ならすり合わせることも可能だが、住民投票は0か100。メリットとデメリットは。

橋下:ものごとには譲歩できることとできないことがある。僕は予算は全部通しているし、譲歩しながらやってきた。ただ、都構想は身分に関わること。やるかやらないかどっちか。市役所を前提にした様々な団体の存続が危ぶまれる。議員、職員の雇用も不安定になるし、話し合いで無理な場合は、最後は民意を使わせてもらわないといけない。コストはかかるけど、殺し合いよりましですよ。納税者のみなさんには感謝しないといけないけど、必要経費ですよ。議員の身分を奪うかどうかは、議会では武力行使ですからね。本当に感激してます。

Q 民主主義がレベルアップしたと強調していたが、通常の選挙に比べて、どのあたりに感じたか。

橋下:住民投票だから全部いいってわけじゃないですよ。そのプロセスを全部見てください。知事と市長の政治グループがタウンミーティングを繰り返した。ここまで住民のみなさんに対して行政が、権力者側が説明を繰り返したことはないと思う。徹底して現場に出て説明して、やればやるほど大阪市は基礎自治体としては大きすぎる、211万人の有権者と直接対話するなんて不可能ですよ。このプロセス全体が民主主義のレベルを上げた。パネルを使った街頭タウンミーティングなんてどこでもやってない。そこに2時間も住民が立ったまま聞いて質問している。大正時代の自由民権運動のような雰囲気でしたね。

Q ワンイシューだから議論が深まるのか。

橋下:ワンイシューだからできるんです。都構想だけで時間がかかる説明なんですから。議員の投票率が上がらないなんて当たり前で、課題がよく見えないなら投票率が上がるわけない。全国の地方議員選挙で特定課題がイシューになってることなんてないですよ。変革が求められる世の中、僕の役割だから変革の案を出しましたけどね。投票率が低いというのは、裏を返せば政治がそこそこ安定してるということ。テーマがなければ投票率なんて上がるわけがない。投票率が高いというのは、課題があるということが世の中にとっていいことなのかどうか。

Q この日のために二人三脚。どんな思い?

松井:恥ずかしすぎて。二人きりのときに言います。

橋下:そんな、夫婦じゃないんだから。でも松井知事がいなかったらこんな政治グループの代表なんて絶対できないです。政治ごと、まつりごと、大変ですよ。政党の中でもポジション、金、いろんな不満が出る。7年半、何も煩わせられることなく、ひたすら自分の考えを有権者に訴えかける。大阪維新のメンバーも大変だと思いますよ。僕が急にああだこうだと言い出す。政治ってのは人間力、包容力、人間関係ですから、そういうところを全部、松井知事がやってくれた。僕はやっぱり実務家ですから、人間関係は下手でしょうね。

Q 江田代表が辞任を表明しましたが、聞いてましたか?

橋下:聞いてましたけど、責任問題ではないんじゃないですか?と言いましたんですけどね。都構想の問題なわけで。江田さんは江田さんの思いがあるでしょうから。

松井:まさにそうで、6年前に大阪の二重行政を解消するにはローカルパーティーでやろうとやってきた。国政政党の代表の責任問題とは違うと思うんですけどね。国政選挙で負けたわけでもないし。民主主義の結果であって、政党が勝った負けたの話では全然ないし、これだけの時間かけて大阪中大騒ぎになって、すごい清々しい結果ですよ。やるべきことも悔いなく戦ったんで。国政政党の代表は、江田代表は維新の党を引っ張っていただきたいと思ってるんですけどねえ。江田代表も、筋とかけじめとか大事にされてるんで、あれですけど。

Q 都構想は国から権限と財源を取ってくる仕組みになっていなかった。国は大阪を東京に並ぶダブルエンジンにしようと思っていたと本当に思っていたか? もし実現したら、そのためにどういうことを考えていたか。

橋下:僕ね、都構想は100年で考えてる。じゃあ周辺の市町村が入ってないじゃないかとか、言われたけど、そんなの一気にできるわけないじゃないですか。大阪府知事と市長をダブルで取るなんて、普通はありえない。周辺市まで全部市長を取って議会の過半数を取るなんてできるわけない。徐々に広げていけばいい。それから、国から権限持ってくるって話も、「都構想みたいな制度論でやるんじゃなくて、やるべきことは政策とか首都機能移転」という人は、まったく知らない人。学者や政治家が言ったことはすぐ実行できない。役所組織がつくらないと。器がないと政策も実行できない。国の権限持ってくるといっても大阪府庁や市役所みたいな中途半端な役所では無理です。100年ぐらいのスパンで、大阪市から初めて、大阪都庁が本当にできれば、ここが受け皿となって、国からいろんな権限、首都機能移転だってある。簡単に言うけど、どこに何を持ってくる、どういう方針でやるのか、これだけでバラバラになる。それなら大阪都庁をつくって工程表を作って国と協議させる。初めて国と交渉ができる。これはまあ、それが現実的なやり方です。権限と財源って言いますけど政治闘争です。地方分権というのは、何でもかんでも地方に与えればいいとは思っていません。安全保障の権限を下ろしたら大変なことになる。市町村がやるべきことをやる、という「べき論」だと思ってる。大阪都構想はべき論で割り振ったわけですよ。ええとなんの話してましたっけ。

Q 大阪市は存続することになるが、この状態では無理?

橋下:無理。この状態ではできません。大阪市にそこまでの力はありません。権限の配分はそこまでの政治闘争になるわけです。お願いベースだと絶対動かない。政治の力でとってこないと。それは大阪都庁、都知事の力だったり、ローカルパーティーがないと無理ですね。それでもある程度のところまではきたという自負はありますけど。

Q 国政政党の維新の党は求心力を失うのでは?

橋下:そうなるならそれまでのことだし、僕や松井さん以外にも人材いますから。

Q 橋下さんだから維新に入った人も多いと思う

橋下:そんなことありません。個人政党じゃないんだし。大阪維新のメンバーはきわめて優秀ですよ。メンバー、外に出てバンバンやる人たくさんいますんで、かえって僕らがいなくなった方が活躍の場が増えると思いますから。ちょうどいいんじゃないですか?

Q 国政の維新の党としてはいかがですか?

橋下:一緒ですよ。国政の維新の党にも人材がたくさんいる。

Q テレビのオファーがあれば?

橋下:求められたら報酬もらいますよ。この7年半、ノーギャラでやってたんですから。

Q ギャラアップとなりますか?

橋下:もらえないでしょう。テレビ局の幹部さん、橋下だけは許さないという人がたくさんいる。

Q 国政に色気が出たことありますか?

橋下:ないですよ。都構想やるって決めたのが知事になって2年目ですが、そこから走ってきましたし。

Q 石原慎太郎さんは「将来の総理」と言われていたが、ステージを変えようとしたことは一度もない?

橋下:僕とか石原慎太郎さんなんて、いちばん議院内閣制の中で政治家に向かないタイプ。首長だからできるんですよ。いやでも指揮命令権の中で動く。僕は5秒もできない。

Q 賛成多数だったら年末の市長選に出ると言っていたが、道筋をつけた時点で引退するつもりだったのか? 世間は「国政狙ってる」と思ってたが。

橋下:次は堺をなんとかしなきゃと思ってましたから。周辺を組み合わせていきながら。歴史をひもとけば簡単で、大阪市は市域拡張に失敗したんですよ。全体のプロセス見て、府庁が中心になるように描いてたんですが、なかなか100年スパンなんて言ってもみなさんついてきてくれないし。

Q するとそれを達成した時点で…

橋下:もう持たないですよ。次は堺っていたとき、また同じことやるんですか。これから秋以降の人生が楽しみです。

Q 茶髪と色眼鏡に戻るのか。

橋下:もう似合わない。顔がシワシワでやつれて、そうとう疲れた男になってしまった。また頑張って生気を取り戻します。

Q 冠番組持ってやろうとか

橋下:(NHKの)登坂さんと一緒にやります。ずっと年上か年下か悩んでたんですけど。

Q 体調は?

橋下:絶好調です。ただ、やっぱり運動不足でお腹出てくるんで、顔はやつれてくるんで、政治家は顔に疲れが出るとだめですよ。

松井:睡眠不足がこたえるね。

橋下:やれるところまではやった。まあここまでやりきったのはない。高校時代のラグビー、司法試験。メンバーや職員に支えられて、相当な労力かけてると思いますよ。

Q もし政治家に戻れるなら報酬0でやる?

橋下:やりません。PTA会長と自治会長の延長でやってる。権力持つんで感謝はされないけど、棺桶入るときは、すっきり入れるかな。自分だけ考えてきた人生。ちょっとは公のためにやれたかな。もうこっから、来年は、自分のために頑張りますよ。

Q 改革途中、着手したばかりの案件もある。西成特区や教育改革もこれから。どうしていくのか。

橋下:やれるところまでやりますよ。ただ、首長なんて選挙で敗れれば終わり。行政マンが継続すべきは継続するし、方針転換するところはする。これが政治と行政のバランス。一人でなんでもやってたらそっちの方が権力が腐敗する。任期ごとに変わることを前提にしているわけですから、バランス持ってやればいい。基本的には僕らの仕事は4年。

Q 橋下さんだから西成をえこひいきできた。期待してた方も非常に多かった。バランスも大事なんでしょうが、西成が変わるチャンスを失うのは仕方ない?

橋下:仕方ないですよ。僕がたまたまそれを求められた。求められればまたそういう政治家が出てくるでしょう。一人の政治家がずっと権力の座につくことも健全じゃないし。僕がやれることは精一杯やったつもり。

Q 今、プライベートが増えるのであれば、何がしたい?

橋下:増えないですよ。もうちょっと市長スケジュール見てください。空かないですよ、まったく。

Q たかじんさんに伝えたいこととは。

橋下:死んだ人にこんな場で言うことじゃない。これ以上できないというところまでやったから。もうちょっとこうやったらいいなんて言わせないだけのこともやったという自負もあるので、多分たかじんさんはわかってると思いますよ。

Q 島田紳助さんに報告するとすれば

橋下:それはまた、メールします。

Q 残り半年の任期で辞任するのは、うめきた2期再開発、IR誘致、大阪湾岸の管理一元化という個々の政策にどう影響するか。

橋下:今の都市計画局は優秀ですから、順調に進んでいくと思いますよ。今後はどういう知事と市長が誕生するか。有権者が判断することですから。

Q 「私たちの言葉は市長に届いているのか」という話を少なからず聞いた。心に残った市民の言葉は。

橋下:基礎自治体としては規模がでかすぎます。それを伝えるのがメディアの役割ではないでしょうか。薄すぎますよ。267万人で1時間コミュニケーション取っても質疑応答1、2回でしょ。心に残った言葉なんて、一つ一つ紹介することでもないし。

Q 嫌われないでほしかったという言葉も。

橋下:それを恐れてちゃ改革できないですよ。そういう時代に求められた役割ってことがありますから。不必要なったらチェンジ。これが健全な民主主義ですよ。

Q ご自身でこれが変わった、ということは。政治姿勢とか。人に合わせるものとか。

橋下:そこは自分で言うことじゃない。「ちちんぷいぷい」との関係がいちばん変わりましたよ。いつの間にか喧嘩ばっかりするようになったし。

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