■第69代横綱白鵬、立ち合い変化の優勝は2回目
大相撲春場所千秋楽結びの一番、白鵬が先場所の栃煌山戦を彷彿させる立ち合いの変化で、第70代横綱日馬富士を土俵下に退け、36回目の優勝を「決めてしまった」といってよい。横綱同士の熱戦を期待した観客の多くが失望し、表彰式を前に家路についていった。これほど盛り上がらない表彰式を見たのは初めてだ。
「あの(初日)黒星は、私にとってはいい薬だったんじゃないかと思います。2日前からいい相撲ではありましたけど、本当に千秋楽、ああいう変化で決まるとは思わなかったので、申し訳ないと思います」
優勝インタビューで、白鵬は観客やテレビの視聴者などに謝罪したが、納得する人は拍手や激励した方だけだろう。
実は白鵬が立ち合いの変化で優勝を決めたのは、9年ぶり2回目だ。
1回目は2007年春場所の優勝決定戦で、第68代横綱朝青龍を退けている。
このとき、朝青龍は土俵上で憮然(ぶぜん)とした表情を浮かべていた。白鵬は当時大関だったとはいえ、番付上位であることに変わりないのだから、場内もしらけた雰囲気だったと記憶している。
さて、白鵬は2015年初場所後の審判批判発言以降、評判が悪い。
その後、勝負が決まったあとのダメ出しで、北の湖理事長(当時)が師匠宮城野親方(元前頭竹葉山)に厳重注意をした。しかし、白鵬はその後もダメ押しを続け、今場所は土俵下の井筒審判長(元関脇逆鉾)に全治3か月の重傷を負わせ、取り返しのつかないことをした。
さすがに審判部も黙るはずがなく、伊勢ヶ濱審判部長(第63代横綱旭富士)が直接注意した。最高位であり、現役力士の手本(模範)とならなければならない横綱がダメ押しで2度も厳重注意されるのは、みっともない。協会(公益財団法人日本協会)は即座に「出場停止」もしくは「引退勧告」を突きつけるべきで、"「横綱」という名の金看板"に対する"大甘処分"に疑問を持つ。
さらに千秋楽直後に放送されたNHKの『サンデースポーツ』で、マンスリーキャスターの桑田真澄氏が立って白鵬に花束を渡すと、ソファーに坐ったまま受け取っており、礼節の基本すらわかっていない。
■「立ち合いの変化」に苦言を呈す
今場所は大関豪栄道や平幕の勢といった大阪出身の力士が活躍し、15日間を盛り上げたが、大関同士の一番で注文相撲が多く見られ、歴代の理事長が公約として掲げている「土俵の充実」に陰りが見えた。2015年秋場所で、第71代横綱鶴竜が立ち合いの変化で勝つ注文相撲が2番もあってからは、ほかの横綱大関も"上位陣も変化していい"という認識を持ったのかもしれない。
"勝ちにこだわる"注文相撲は禁止されていないとはいえ、本場所初日の協会ごあいさつで、歴代の理事長が「気迫のこもった相撲を展開。皆様の御期待にお応えできるものと存じます」と大相撲ファンに約束する以上、力士はそれに応えなければならない。特に三役力士(小結以上)は、協会ごあいさつで理事長とともに土俵へあがり、あいさつ文をそばで聞いているのだから、なおさらだ。
先述した通り、歴代の理事長は「土俵の充実」に努めてきた。特に春日野理事長(第44代横綱栃錦)は立ち合いの際、土俵に手をつけることを徹底。二子山理事長(第45代横綱初代若乃花)は、待ったをした関取に制裁金(十両5万円、幕内10万円)を科した。
若貴ブーム以来の大相撲人気に沸く昨今、その隆盛を長く持続させるには、「立ち合いの変化禁止」を明文化し、"ワンランク上の土俵の充実"が求められる。大相撲ファンは「駆け引き」ではなく、「純粋な勝負=いい相撲」を見たいのだから。