どの街にもある「美容室」。ここで働く美容師たちは、訪れる人々の髪を切るだけではなく、カタログの撮影といった仕事はもちろん、閉店後の練習など就業時間が長い。一方で、ファッションアイコンとして多くの人々から羨望の眼差しを向けられる存在でもある。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、美容師の勤続年数の平均は約6年だという。専門学校に通い、国家資格である美容師免許を習得しつつも、10年も経たないうちにその大半が引退の道を選ぶのだ。また、同じく同省によると店舗の78%が「後継者なし」と回答しているそうだ。免許を眠らせてしまう美容師が多いと言える。
美容師はそれほどまでに過酷な仕事なのだろうか? しかし、その形態は少しずつ変わってきているのかもしれない。2015年1月27日に開催されたヘアケアメーカー「シュワルツコフ」による女性美容師たちを集めたトークセッションで登壇した角薫さん、浦さやかさん、前田百合子さんは「新しい働き方」を提唱する。もちろん、3人とも原宿や表参道の人気サロンに勤める美容師だ。
左から角薫さん、浦さやかさん、前田百合子さん
今年40歳を迎えた角さんは、原宿に自らの店舗「dea」を構える経営者でもある。独立する前は、ファッション雑誌にも度々登場するサロンの店長として働いていた。
「美容室の代表は主に男性が多いです。私が勤めていたサロンは、複数店舗を持っている規模が大きいものでしたが、女性店長は私が初。男性の上司は頼りがいがある一方、女性独特の悩みなどを相談しづらいとも言えます」とその現状を語る。実際に、結婚や出産といった人生のターニングポイントで自らの職を辞する美容師がとても多いという。月の定休日の平均が約5日と言われている美容室で働くのは、肉体的にも精神的にもハードであることは容易に想像できる。
そこで角さんは「女性美容師がもっと自由に働けるように」と独立を決意したそうだ。「dea」は勤務している13人中9人が女性。さらに角さんを含めた女性従業員の7人が既婚者だという。そのため、ショートタイムワークやフレックス制を採用し、各々のライフスタイルに合わせた勤務体系を実践しているそうだ。
また、同じく登壇していた「BEAUTRIUM」で働く前田さんも「年齢や出産などの理由で大好きな仕事を辞めざるをえないのはおかしい」と語る。彼女自身、現在4歳になる子どもを持つ母親である。勤務先は表参道や銀座に店舗を置くサロンで、毎日多くの人で賑わっている。
「私は、美容学校に通っている時からこのサロンで働きたいと思っていました。実は、一度入社試験で落ちてしまい、再チャレンジして働くことができるようになったんです。憧れた職場なので、できるだけ長く勤務していたいと思っています。結婚や出産を経て、今でも週に6日現場に立っていますね。私のようなキャリアはサロン創業以来初だったこともあって、自分の要望はしっかり伝えてシステムを作っているような感じです。育児をしながらでもハサミを握れることがとても嬉しいんです」と、自身の働き方を語る。
自分の人生とキャリアを天秤にかける時代は少しずつ変わってきているように見える。努力して掴みとった憧れの職業を、何かを犠牲にして継続するのはいささか悲しい。しかし、最前線で活躍する彼女たちの働き方を見ていると、何か希望を垣間見ることができる。これはきっと美容業界にとどまらず、働くすべての女性たちに言えることかもしれない。