日米防衛指針18年ぶりに改定 新ガイドラインの骨子は?

日米両政府は27日、自衛隊と米軍の役割分担を定めた防衛協力の指針(ガイドライン)の改定に合意した。
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Reuters

[ニューヨーク/東京 27日 ロイター] - 日米両政府は27日、自衛隊と米軍の役割分担を定めた防衛協力の指針(ガイドライン)の改定に合意した。日本が整備を進める安全保障法制で自衛隊の活動内容拡大をにらみ、世界の安定のために両国が協力を深めることを強調している。

ガイドラインの見直しは18年ぶり。日本とその周辺の安全確保に主眼を置いてきた日米同盟は、地理的範囲、内容ともに大きく広がり、新たな段階に入る。

<共同作戦計画を策定へ>

日米の外務、防衛担当閣僚が同日ニューヨークで会談し、合意した。両国は今後、新ガイドラインに基づき、自衛隊と米軍の共同作戦の策定に入る。

1997年に作られた現行のガイドラインは、日本有事のほか、朝鮮有事を念頭に日本周辺で武力衝突が起きた場合の自衛隊と米軍の役割分担を定めていた。新ガイドラインは、日本を守るための協力体制を見直しただけでなく、自衛隊による米軍の支援を世界規模に広げた。

合意文書は「アジア太平洋地域及びこれを超えた地域が安定し、平和で繁栄したものとなるよう」にすることが指針の目的としたうえで、「日米同盟のグローバルな性質」を強調すべき事項のひとつと明記している。

日本が周辺事態法を改正することを見越し、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態が起きたと判断すれば、南シナ海や中東といった日本から離れた場所でも、そこで戦う米軍に自衛隊が補給などの後方支援を行うことを盛り込んだ。

また、国際平和支援法を新設することをにらみ、国際的な安全確保のために軍事活動を行う米軍を後方支援することも、自衛隊の役割として明記した。

<米軍の打撃力行使に日本が関与へ>

日本そのものの防衛については、平時から有事まで切れ目のない協力を打ち出した。哨戒や訓練など平時での協力内容を強化したほか、現行ガイドラインにはない武力攻撃までは至らない侵害、いわゆる「グレーゾーン事態」が起きた場合の役割分担を追加した。有事に至る以前の段階での協力を深めることで、抑止力の向上につながるとにらんでいる。

日本が武力攻撃を受けた場合の対応では、尖閣諸島(中国名:釣魚島)をはじめとする南西諸島など、中国の台頭で脅威が高まっている島しょ部に対する対応を新たに盛り込んだ。日本が新設する水陸両用部隊を中心に、自衛隊が主として上陸阻止、奪還作戦を行い、米軍が支援するとしている。

巡航ミサイルなどを使って、敵のミサイル発射台などを叩く打撃力に関する記述も見直した。能力を保有する米軍が作戦を行う部分は現行と同じだが、自衛隊が「必要に応じ、支援を行うことができる」と追加した。

日本はこれまで打撃力を完全に米国に依存してきたが、自衛隊が能力を保有しないまでも、何らかの形で関与できるようになる。

<集団的自衛権で具体例、シーレーン防衛で機雷掃海>

新たな安保法制で日本が集団的自衛権を行使できるようになることも、新ガイドラインに反映された。具体的な作戦事例として、米国領に向けて飛ぶ弾道ミサイルを日本が撃ち落とすことを念頭に、ミサイル迎撃で協力することや、ホルムズや対馬といった国際海峡を念頭に、シーレーン(海上交通路)防衛のために機雷掃海で協力するこなどを明記した。

ガイドラインは79年に初めて策定され、当初は日本有事の際の役割分担を定めていた。97年の改定で日本周辺で有事が起きた場合の対応が加わった。

中国が急速に力を伸ばしてきたこと、軍事技術の発達で脅威が瞬時に世界に広がるようになったこと、宇宙やサイバー空間など新たに防衛が必要な分野が出てきたことを受け、日米は2013年秋に再改定することで合意した。

本来は14年末までの作業完了を目指していたが、安保法制をめぐる日本の議論が遅れていたことから、半年ほど先延ばしされていた。

(久保信博 編集:田巻一彦)

日米新ガイドラインの骨子

[ニューヨーク/東京 27日 ロイター] - 日米両政府が18年ぶりに改定した防衛協力の指針(ガイドライン)は、日本の防衛で自衛隊と米軍があらゆる事態に切れ目なく対応し、日米が世界規模の同盟であることを強調している。

日本の防衛については、武力攻撃には至らない「グレーゾーン事態」を含む平時、放置すれば日本に重要な影響が及ぶ事態、武力攻撃の発生が予測されたり起きた場合に分け、両国の協力の枠組みを示している。日本による集団的自衛権の行使事例もここに盛り込まれた。

このうち、放置すれば日本に重要な影響が及ぶ事態については、地理的制約がないことを明記し、南シナ海や中東などでも自衛隊が米軍の後方支援をできるように変更した。

また、2001年に米軍主導で実施したアフガニスタン攻撃のような軍事作戦に対し、自衛隊が後方支援することを役割とした明記した。

宇宙やサイバー空間を安定的に利用するための協力も、今回のガイドラインから追加した。

新ガイドラインの骨子は以下の通り。

<指針の目的>

平時から有事まで、日本の平和と安全を切れ目なく確保。アジア太平洋地域とこれを越えた地域の安定に寄与。

<両国間の調整強化>

両国の協力が円滑に進むよう、有事だけでなく、平時にも活用できる同盟の調整メカニズムを設置。

<日本の防衛>

●平時、グレーゾン事態の協力

・情報収集、警戒監視、偵察。

・弾道ミサイルへの対処。

・国際法に基づく海洋秩序の維持。警戒監視や演習を通じた日米のプレゼンス強化。

・演習中などに攻撃を受けた場合に、互いの装備品を防護。

・2国間、多国間で訓練、演習。

・補給や整備、輸送など、互いに後方支援。

●放置すれば日本に重要な影響を及ぼす事態における協力

・非戦闘員の退避。

・船舶検査など海洋安全保障。

・日本に難民が流入する場合の対応。

・捜索、救難。

●日本有事における協力

・空域、海域を共同で防衛。

・弾道ミサイル攻撃に共同で対処。

・島しょ部含む陸上への攻撃に共同で対処。

●その他

・日米それぞれが警戒、監視体制を強化し、情報を共有。

・打撃力は米軍が実施。自衛隊は必要に応じ支援。両国の緊密な調整によって作戦を実施。

・宇宙、サイバー防衛で協力。

・特殊部隊による作戦で協力。

・化学、生物、放射線、核に関連した事案や攻撃に対し協力。

●日本以外の国に対する武力攻撃への対応(日本が集団的自衛権を行使する事例)

・日本への弾道ミサイル攻撃を警戒する両国の艦船を互いに防護。

・機雷掃海を含めシーレーン防衛で協力。

・船舶検査で協力。

・弾道ミサイルの迎撃で協力。

・必要に応じて互いに後方支援を提供。

●日本における大規模災害への対応

<地域と世界の安全のための対応>

●国際的な活動における協力

・国連平和維持活動に参加した際に日米で協力。活動に参加する国連職員などの後方支援や保護で協力。

・国際的な人道支援、災害支援で協力。

・海洋安全保障のために海賊対処や機雷掃海で協力。

・(東南アジア諸国など)パートナー国の軍事能力向上を支援。

・国際的な活動に参加した際に情報収集や装備品の防護で協力。日米相互に後方支援で協力。

●3カ国、多国間協力

・地域の他のパートナー国や国際機関と協力。

<宇宙、サイバー空間における協力>

●宇宙に関する協力

・宇宙空間の安定利用に影響を与える事象について情報を共有。宇宙関連の装備や技術で協力。

・互いの宇宙システムが脅威にさらされた場合に、被害の軽減や回避のために協力。能力の回復で協力。

●サイバー空間に関する協力

・サイバー空間の安定利用のため、脅威や脆弱性に関する情報を共有。訓練など能力向上に関する情報を共有。

・自衛隊と米軍の活動に欠かせない重要インフラやサービスの防護で協力。

・日米それぞれネットワークとシステムを監視。

・それぞれのネットワークを強化。

・共同演習。

・日本でサイバー攻撃が起きた場合、日本が主体的に対処し、米国は適切な支援を提供。

・日本の安全にとって深刻なサイバー攻撃が圧政した場合、適切に協力。

<その他>

●防衛装備、技術の協力

・共同研究や開発、生産などで協力。

・共通して使用する装備品の整備機関の強化。

・他のパートナー国と協力。

●情報協力、情報保全

・秘密情報の保護を強化。

・他のパートナー国との情報共有を推進。

<指針見直しの手順>

情勢変化と照らして内容が適切か定期的に評価。必要なら適時、適切に更新。

(久保信博)