現在観測されている太陽活動の低下により、2025年ごろ以降にグリーンランドの気温が上昇する可能性が高いことが、国立極地研究所の研究チームによって明らかになった。これまで指摘されていた温室効果ガスによる気温上昇に太陽活動の影響が重なることで、これまで考えられていたよりも早くグリーンランド氷床の融解が進むことが懸念される、と研究チームは言っている。
小端拓郎(こばし たくろう)元特任助教(現スイス・ベルン大学主任研究員)を中心とする国立極地研究所の研究チームは、グリーンランド氷床頂上部分の氷床コアを使って過去の気温変動を復元する研究を続けている。過去4,000年の気温変動を調べ上げ、原因として地球軌道の変動や温室効果ガス、火山、太陽活動が考えられることを既に明らかにしている。
今回は、頂上部分とは異なる氷床コアを用いて2100年前までの気温を復元し、これまでと同様の気温変動を確認した。また、過去2000年の北半球平均気温と比較すると、グリーンランドは太陽活動が活発な時期に北半球全体の平均的傾向からずれて低温になり、太陽活動が不活発な時期には、北半球の平均的傾向よりも高温になることも分かった。
グリーンランドと亜寒帯北大西洋では、1980年代から1990年代中ごろまで気温の特異的な低下現象が観測されている。亜寒帯北大西洋とはグリーンランドの東側と南側に広がる海域を指す。この海域では表層水が高い塩分濃度と低い温度のため深層水より重くなり、沈み込みが起こる。その表層水を補うため大西洋では南から北への海流が生じ、それとともに熱が南から北へと運ばれる海水と熱の大循環が起きている。これは「北大西洋子午面循環」と呼ばれるが、太陽活動が活発化すると異変が生じる。亜寒帯北大西洋の表層水の水温上昇に加え、溶けた氷河や氷床分が加わって河川水の流入量が増える結果、表層水の比重が低いままとなり、沈み込みが起こりにくくなってしまう。
研究チームは、1980~90年代に観測されたグリーンランドと亜寒帯北大西洋の特異的な低温が、1950~80年代の太陽活動の活発化によって説明できることを突き止めた。表層水の沈み込みに起因する北大西洋子午面循環が弱まり、大西洋の南から北への海流による熱輸送も抑えられたことで、グリーンランドを含む亜寒帯北大西洋が寒冷化した、と。太陽活動は1990年代以降に大きく低下している。その影響が2025年ごろ以降にグリーンランドの気温上昇として顕在化してくる可能性がある、と研究チームは見ている。
グリーンランドは、全て溶けてしまうと海水面が現在より7メートルも上昇するだけの量の氷床で覆われている。地球温暖化が進むとどれだけの氷床が溶けて海水面上昇をもたらすかが、大きな関心時だ。気候モデルを用いて地球全体の熱輸送プロセスの研究を進めるとともに、太陽活動がどのようにグリーンランドの気温変動に影響を与えていたかをさらに詳しく調べたい、と研究チームは言っている。
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・2015年4月28日ニュース「500~300万年前の最大海水面上昇10メートル程度」
・2013年7月2日ニュース「北半球が2015年以降に寒冷化!?」
・2012年9月21日ニュース「北極海の海氷面積が観測史上最少に」
・2012年2月14日ニュース「地球温暖化で海洋内部の水温も長期的に上昇」
・2007年11月9日ハイライト・山本良一 氏・東京大学 生産技術研究所 教授「温暖化地獄からの脱出に全力を」