ギリシャ国民投票、「緊縮策受け入れ」「ユーロ離脱」揺れる世論

ギリシャで5日に行われる緊縮策受け入れの是非を問う国民投票。薬局を営むジョージア・ゴレミさんは、債権団が提示した支援条件に反対票を入れる予定だ。
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A protester holds a Greek flag as she takes part in a rally in support of the people of Greece at the 'Place de la Bastille' in Paris on July 2, 2015, as Greeks prepare to vote in a referendum on bailout conditions on July 5. AFP PHOTO / LOIC VENANCE (Photo credit should read LOIC VENANCE/AFP/Getty Images)
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[エレフシナ(ギリシャ)/アテネ 1日 ロイター] - ギリシャで5日に行われる緊縮策受け入れの是非を問う国民投票。薬局を営むジョージア・ゴレミさんは、債権団が提示した支援条件に反対票を入れる予定だ。一方、公立学校の教師であるミカリス・フィオラバンテスさんは賛成に一票入れるつもりだという。

ギリシャは自国への支援をめぐって債権団と激しい議論を繰り広げているが、2人に代表されるようなギリシャ国民の反応は、国民投票の結果がいかに予測困難かを物語っている。

債権団は、規制緩和や公共部門の削減など自分たちが提示する改革案によって、ギリシャの財政は安定に向かうとしている。

ゴレミさんは、先の支援策と引き換えに課された自由化措置によって近隣のスーパーマーケットとの競争が激化し、自身の店が窮地に立たされていると語る。

ゴレミさんの店は現在、採算を合わせるために1日13時間営業している。消費者には今以上の支払いが無理だと分かっているため、利益改善のための値上げには二の足を踏んでいるという。首都アテネから北西に位置するゴレミさんの住む町エレフシナでは、大通りにあるほぼすべての店に板が打ちつけられ、閉店している。

「反対に投票する。かつて学生だったころ、今以上に良い暮らしができると信じていた。しかし50歳になり、そんな暮らしはないと悟ったから」とゴレミさんは話した。

一方、フィオラバンテスさんは、反対票を投じることで、自身が患う多発性硬化症の治療に必要な輸入薬が手に入らなくなることを恐れている。フィオラバンテスさんの給料は過去5年間で3割カットされ、1250ユーロ(約17万円)から888ユーロ(約12万円)まで下がった。だが、銀行が営業を停止し、資本規制が導入されたことで、もしギリシャが改革案を拒否すれば、事態はさらに悪化するのではないかと考えるようになったという。

「もしユーロ圏を離脱したら、給料が支払われなくなることを恐れている」と不安を口にした。

<世論の変化>

1日に発表された世論調査の結果によると、債権団の改革案に対しては反対が54%となり、賛成の33%を上回った。

しかし、6月28─30日に実施された調査結果を分析すると、反対派の割合が銀行休業の発表後に減少していることが分かる。

現金が不足しているとのうわさが飛び交うなか、銀行ATMの前には、1日当たりの引き出し限度額60ユーロを下ろそうと長蛇の列ができている。専門家らは、賛成派が向こう数日の間に勢いを増す可能性があるとみている。

この2日間、賛成派・反対派合わせて数万人がアテネ中心部に集結した。賛成派の陣営には労働者や年金生活者が多く見られた一方、反対派には失業者や公務員が数多くいた。

結局、どちらの立場を取るかは、失うものがあると感じるかどうかによるだろう。

ゴレミさんが住むエレフシナでは、多くの人は失うものがあるとは考えていないようだ。2010年に失業し、それ以降はカフェで時間をつぶしているというレオニダス・ツィロスさんは、「欧州連合(EU)は私に金があろうとなかろうと気にするものか。私もギリシャが欧州と袂を分かつことになっても、気兼ねなんてしない」と語った。ツィロスさんの背後では、他の男性たちがツィロスさんの考えに同調した。

ツィロスさんにもゴレミさんにも、海外での仕事を探そうとしている娘がいる。エレフシナでは4人に1人以上が失業状態にあり、ギリシャの平均失業率を上回っている。多くの工場が閉鎖され、造船所で働く何百人もの従業員は、長期間給料が未払いであることに対し、頻繁に抗議活動を行っている。

その1人であるディミトリス・マブロナソスさん(42)は、「過去5年にわたって600世帯が厳しい状況を余儀なくされている」とし、同僚の多くは車上生活していると語った。

<歴史の教訓>

アテネの暮らし向きがそれよりいいかと言えば、多くの人にとってそれは当てはまるものではない。しかし、前述のフィオラバンテスさんのような賛成派は、もし改革案を拒否すれば、戦争時の状況に逆戻りするかもしれないと考えている。

「私の両親が経験したドイツ占領時代へとギリシャは戻ることになる。飢えと死にまつわる話を聞いて育った。ユーロを離脱するなら、違った形でこれが起きることになる」と、フィオラバンテスさんは話した。

市場調査会社の共同経営者であるバソ・カツァキオリさん(40)も、同じような不安を抱いている。通信会社などから依頼を受けて調査を行うカツァキオリさんだが、ギリシャと債権団との協議が行き詰まるにつれ、次第に仕事が無くなっていったという。

カツァキオリさんの会社は、数カ月前には約10件のプロジェクトを抱えていたが、過去1カ月で約6件まで減少。銀行が営業を停止した今月29日には、すべてのクライアントからプロジェクト中止の電話があったという。「まるで戦争前のようだ」とカツァキオリさんは語った。

賛成派のデモに参加した人の多くは、次世代のためにもユーロにとどまる必要があると話す。

8歳と6歳の子供とデモに参加したアレキサンドロス・スタブロウさん(42)は、「子供たちの未来のためにデモに参加している。欧州を信頼しているし、また必要としている。私たちの生活は欧州にある。だから、賛成に投票する」と述べた。

エレフシナでも草の根的なデモが行われている。冷蔵庫の修理会社を営むディノス・ロウシスさんは、反対への支持を訴える横断幕を作る資金さえなかったため、「ノー」と書いたA3サイズの用紙1500枚を地元の市場で配ったという。

ロウシスさんは過去5年間で会社の縮小を余儀なくされ、8人を解雇した。現在はどうにか会社を維持しているため、残る2人は首にせずに済んでいるという。

債権団の要求に立ち向かうことは、占領と軍事政権に耐えたギリシャにとってプライドの問題だとし、「軍事政権に耐え、闘った。歴史的に、そして論理的に考えても、私は反対に票を入れる」と、ロウシスさんは語った。

ロウシスさんはまた、「ユーロを離脱することは怖くない。ユーロができる前からギリシャも欧州も存在していた。だから、ユーロを離れても存在するだろう。ユーロ(の終わり)が世界の終わりではない」と述べた。

(Karolina Tagaris記者、Deepa Babington記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)

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