ギリシャ危機、7月にも再燃か〜一からわかる「そもそも」と「これから」

2015年2月末で終了予定だったギリシャ政府向け第2次金融支援の枠組みは6月末まで4ヵ月間、延長されることになったが、ギリシャのユーロ圏離脱のリスクは低下したのか。
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ATHENS, GREECE - JANUARY 23: Supporters of the New Democracy party wave Greek national flags during Greek Prime Minister Antonis Samaras' final pre-election rally in Athens, Greece, on January 23, 2015. (Photo by Ayhan Mehmet/Anadolu Agency/Getty Images)
Anadolu Agency via Getty Images

2015年2月末で終了予定だったギリシャ政府向け第2次金融支援の枠組みは6月末まで4ヵ月間、延長されることになったが、果たして、ギリシャのユーロ圏離脱のリスクは低下したのか。

筆者は、十分に低下したとは考えていない。なぜなら、ECB (欧州中央銀行)がギリシャの市中銀行への融資を打ち切るリスクが残るためである。7月に危機が再燃する可能性はある。

■身の丈に合わない借り入れが危機の発端

ギリシャは2010年以降、世界の金融市場において懸念の対象となってきたが、何故、これほどまでにギリシャが問題視されてきたのか。その背景には、ギリシャ政府が2000年代初頭から半ばにかけて、身の丈に合わない規模で海外から多額の資金を借り入れたことがある。

EU(欧州連合)では、中央政府、地方政府、社会保障基金から構成される一般政府の財政赤字が、国内総生産に対する比率(一般政府財政赤字対名目GDP比率)を3%以内に抑えることが求められている。しかしギリシャはこの基準を満たさないまま2001年にユーロ圏に加盟した。このように財政状況が必ずしも良好ではなかったにもかかわらず、ギリシャは、高い信用力を有する単一通貨ユーロの採用に成功したことで、市場からの信頼を獲得。ギリシャ国債利回りは急低下、政府は低い調達コストを背景に海外から多額の資金を調達した。

政府は調達した資金を年金給付の増加や、公務員雇用の拡大に活用した。このような支出は与党の選挙対策としては絶大な効果を発揮した一方、調達した資金は中長期的な経済成長に資するような分野には十分に活用されなかった。それでも、世界経済が順調に推移している局面ではギリシャ経済が問題視されることはなかった。

しかし、2009年秋以降、市場はギリシャへの不信感を急速に高めた。2009年10月に、欧州統計局が、ギリシャの財政統計が正確に把握されていないと指摘、これを受けて、財政状況を精査したギリシャ政府は、同年のギリシャの一般政府財政赤字対名目GDP比率が当初見込みの3.7%ではなく12.5%に上ると発表したのである。これに驚いた投資家はギリシャの財政統計への不信感を抱き、ギリシャ国債の利回りは急速に上昇、政府は2010年4月には自力での資金調達に窮し、債務不履行の危機に陥った。

そこで、2010年5月に、IMF(国際通貨基金)、ユーロ圏諸国はギリシャ政府に対し第1次金融支援の実施を決定、ギリシャ政府に対し、再び自力で資金調達が可能となるよう、財政の立て直しを求めた。

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2010年5月5日、アテネ中心部で緊縮財政に反対する10万人規模のゼネストがあり、警官隊との衝突で3人の死者が出た。不況と緊縮財政への不満から、ストとデモが頻発していた。

■脱税、政治家の利権が財政再建の妨げに

もっとも、ギリシャの財政再建は容易には進まなかった。その背景には脱税の横行、国有資産の売却の遅れがある。

脱税については、2012年にギリシャ政府高官が「脱税規模は2011年の一般政府財政赤字額の2倍にも相当する」と指摘したほど、脱税が横行していた。ユーロ圏諸国はギリシャ政府の徴税能力改善に向けて、人的、システム面での支援を行ったが、徴税能力の抜本的な改善には不十分であった。2011年においてもギリシャの財政赤字対名目GDP比率は10.1%と、目安である3%を大幅に上回ったままとなった。

また、国有資産の売却についても遅々として進まなかった。筆者の当時の欧州各国の取材では、「ギリシャ政府は、政治家の関係者が多く務める国有企業の売却には慎重」との声が聞かれた。政府債務を減らす手段として期待されていた国有資産売却は、政治家の利権も影響し、十分な成果を挙げることができず、2011年に名目GDPに対する借金の総額の割合(一般政府債務残高対名目GDP比率)は171.3%と、ユーロ圏では最も高い水準となった。

このような状況の下、IMF、ユーロ圏諸国は、このままギリシャ政府に金融支援を続けてもいずれ債務返済不能に陥るリスクが高いと判断した。そこで、2012年春に、ギリシャ政府は、ギリシャ国債を保有している民間部門の債権者に対し元本の削減を強制、いわゆる借金の棒引きを実施、IMF(国際通貨基金)、ユーロ圏の金融支援基金であるEFSF(欧州金融安定基金)はギリシャ政府に対する第2次金融支援を開始した。

■自立への道を歩んだかに見えたが、総選挙で暗転

ギリシャ政府は新たな金融支援プログラムの下で再度金融支援を受けることになった。2014年には一時的ではあったが、自力での国債発行に成功、資金調達面で自立への道を歩む兆しを示した。2012年以降の欧州中央銀行(ECB)の金融市場安定化策が主因ともいえるが、2014年には同国の一般政府財政赤字対名目GDP比率がユーロ圏加盟以降、初めて3%を下回る見込みとなったことも影響した。

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1月25日、総選挙の投票を終え、支持者らに手を振るツィプラス氏

しかし、2015年1月の総選挙の結果、ギリシャ政府の自力での資金調達は一段と困難となった。1974年のギリシャ民主化以降、政権を担ってきた新民主主義党と全ギリシャ社会主義運動が敗北、反緊縮を掲げた左派政党である急進左派連合が勝利したためである。急進左派連合の勝利により、市場では「ギリシャ政府が財政赤字削減に取り組まないのでは」との懸念が高まった。

そのような中、第2次金融支援の枠組みは2015年2月末に期限を迎える予定だったため、ユーロ圏諸国は新たに就任したツィプラス・ギリシャ首相に対し、同国が3月以降も金融支援を受けることが可能となるよう、第2次金融支援の枠組みを延長するよう求めた。

ところが、ツィプラス政権は当初、第2次金融支援の枠組みの延長を拒否した。なぜなら、ギリシャ政府が第2次金融支援の下で資金を借りるとなれば、年金給付削減、最低賃金引下げ、雇用削減を伴う国有資産売却といった国民に痛みを伴う措置をIMF、ユーロ圏諸国から求められるためである。

そのため、ツィプラス政権は、厳しい緊縮措置を求められる第2次金融支援の枠組みを一旦破棄、その代わりに、ユーロ圏諸国に対し、条件の緩い新たな金融支援の枠組みの創設、3,200億ユーロ(約41.6兆円)に上るギリシャ政府債務の減免に向けた交渉開始を要求、また、これらの交渉を進める間の資金繰りを賄うためのつなぎの金融支援を求めたのである。

このようなツィプラス政権の態度に業を煮やしたのが、ギリシャ政府への最大の債権国となっているドイツ政府である。メルケル・ドイツ首相、ショイブレ・ドイツ財務相はツィプラス政権に対し、あくまでも第2次金融支援の枠組みの下で財政赤字削減、政府債務削減に取り組むよう要求、第2次金融支援の期限延長を要請しないのであれば、交渉を打ち切る姿勢を示した。

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2月12日、ベルギー・ブリュッセルの欧州連合(EU)首脳会議で顔を合わせたドイツ・メルケル首相(左)とギリシャ・ツィプラス首相

追い込まれたギリシャ政府は2月23日に第2次金融支援の枠組み延長を要請、ユーロ圏諸国は枠組みを2015年6月末まで4ヵ月延長することを認めた。

■第2次金融支援の枠組み延長は時間稼ぎに過ぎない

それでも、第2次金融支援の枠組み延長は単なる時間稼ぎに過ぎない。ギリシャ政府が実際に金融支援を獲得できなければ、政府の手元資金は早ければ3月中にも枯渇、銀行が数ヵ月以内に破綻に陥るリスクがあるからだ。

ギリシャ政府が金融支援を受け取るには、2月23日に発表の政策リストの詳細を4月末までにIMF、ユーロ圏諸国などと合意、政策リストに盛り込まれた緊縮措置をギリシャ議会で可決させる必要がある。すなわち、ギリシャ政府が反緊縮の議員を説得、2月23日に提出した公約の詳細を議会で可決して、ようやく金融支援を獲得できるのである。

反緊縮を掲げるツィプラス政権にユーロ圏諸国が不信感を抱いていることは明らかである。ギリシャ政府と金融支援の交渉を行ったことのある欧州のある官僚は筆者に対し「ギリシャは他の欧州諸国とは違い、政治的な駆け引きをするため、交渉し難い相手である」との見方を示した。ユーロ圏諸国のギリシャ政府への不信感は、反緊縮のツィプラス政権の誕生により加速したと見られ、現在、ギリシャ政府がどこまで本気で緊縮措置を打ち出せるか見極めたいというのが本音であろう。

しかし、ギリシャの急進左派連合は左派政党、独立ギリシャは右派政党であるにもかかわらず、反緊縮の1点で合意し、1月の総選挙後に連立政権を誕生させただけに、ツィプラス政権が緊縮路線に転換すれば、連立政権が瓦解する可能性がある。現状ではギリシャ議会が緊縮法案を確実に可決できる保証はない。

一方、ギリシャ議会が6月までに緊縮法案を可決できなければ、ドイツを中心としたユーロ圏諸国は金融支援の枠組み延長には一切応じず、金融支援を見送ることになろう。この場合、ギリシャ政府は7月に、ECB保有のギリシャ国債の償還に対応できず、債務不履行に陥ることになろう。また、ECBはギリシャ国債という信用力の低い資産を多く保有するギリシャの銀行は存続困難と判断、ギリシャの銀行への融資を打ち切る可能性がある。このような状況では、ギリシャの民間銀行が破綻、ギリシャがユーロ圏に留まれないリスクもある。

ツィプラス政権が窮地に立たされていることに変わりはない。ドイツ政府と妥協、緊縮路線に転向すれば連立与党分裂、議会解散リスクに直面する。一方、強硬に反緊縮路線を維持すれば、ギリシャ政府は債務不履行、銀行破綻リスク、ユーロ圏からの離脱危機に直面することになるからだ。

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第2次金融支援の枠組み延長を受け入れた後の2月28日、支持者への演説を控えたギリシャ・ツィプラス首相

■ギリシャ議会は2015年夏に解散、総選挙か

筆者は、ギリシャのユーロ圏残留のためには一定の緊縮措置も必要と理解している野党議員が緊縮法案の成立に協力し、6月頃にEFSFは18億ユーロ、IMFは35億ユーロの金融支援をギリシャ政府に実施、ECBは20億ユーロ弱のギリシャ国債保有を通じた利益をギリシャ政府に還元すると見込んでいる。これにより、ギリシャ政府は債務不履行を回避、また、ECBはギリシャの市中銀行への融資を継続、ギリシャの銀行部門は流動性破綻を回避することになろう。

もっとも、ツィプラス政権が短命に終わることも考えられる。ギリシャ政府が2015年6月までに緊縮法案の可決に成功、金融支援を受け取る代償として、連立与党が分裂、7月頃にギリシャ議会が解散、総選挙という事態が考えられるためである。反緊縮を掲げて誕生したツィプラス政権は、財政赤字削減による景気低迷に苦しむ南欧諸国の一部から希望の星と受け止められているが、数ヵ月で終焉を迎える可能性がある。

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