個体数調整によるカワウと人の共存

絶滅が危惧された時代があった

森林文化協会が発行している月刊「グリーン・パワー」は森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。6月号の連載「現代の『シシ垣』を築け! ~野生動物対策の次なるステップへ~」では、琵琶湖の淡水魚を食害し、樹木の枯死を招く「カワウ」対策の実例について、㈱イーグレット・オフィス専務取締役の須藤明子さんが報告しています。

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環境省のカワウ保護管理の手引きには、科学的根拠に基づき計画的に実施する個体数調整は、被害時期に被害地で行う有害捕獲とは一線を画すものであり、中長期的な目標設定のもと、相当な覚悟を持って、専門技術と組織体制で挑まねばならないと記されている。本稿では、専門的・職能的捕獲技術者の導入によって、カワウの個体数を減らして被害を軽減させた成功事例を紹介し、カワウ管理における個体数調整のあり方について考える。

絶滅が危惧された時代があった

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カワウは大型の水鳥で、河川や湖沼をはじめ沿岸部にも生息し、潜水してウグイ、アユ、コイなどを捕食する。季節に応じて採食水域を変え、冬季はオオクチバスやブルーギルなどの外来魚を食べることが多い。水辺の林などに集団でねぐらをとり、集団で営巣してコロニーを形成する。

20世紀前半までは全国に生息していたが、1970年代には、狩猟、河川改修などの生息環境破壊、PCB・DDT・ダイオキシン類などによる化学物質汚染の影響で個体数が減少して絶滅が危惧された。1980年代になると、禁猟、化学物質規制などによってカワウの個体数は回復しはじめ、現在、個体数増加と分布拡大にともなって、放流魚の食害など内水面漁業の被害が全国で発生している。また、コロニーやねぐらでは、巣材のための枝折りと多量の糞(ふん)によって樹木の枯死や土壌流出が発生、糞や鳴き声による生活被害も起きている。

プロジェクトKSS

滋賀県では、1990年から猟友会等の一般狩猟者に依頼する従来型の有害捕獲を継続してきたが、カワウは増加し続け、2004〜08年の県内生息数は、繁殖前期( 孵化〈ふか〉前)に3〜4万羽、繁殖後期(巣立ち後)に4〜8万羽となり、被害は深刻化する一方であった。

そこで、滋賀県は特定鳥獣保護管理計画を策定し、琵琶湖の巨大コロニー竹生島と伊崎半島において、プロジェクトKSS(*)を開始した。KSSでは、モニタリング体制と捕獲体制を刷新して、専門的・職能的捕獲技術者による科学的根拠に基づく計画的な個体数調整、すなわち精度の高い個体数推定、ならびに少数精鋭による成鳥の選択的・高効率捕獲を行った。

2009〜15年の間に、射手2〜3人/日で165日間(のべ373人)に5万4585羽を捕獲した。その結果、繁殖前期では、3万7066羽(2008年)から7659羽(2015年)に、繁殖後期では、7万4688羽から5940羽に減少し、目標生息数の4000羽に近づいている。カワウの減少によって、コロニーでは顕著な植生の回復が見られ、漁業被害の軽減が認められている。

管理方針に即した対策のアレンジ

カワウの日常の行動範囲は半径15km以内が多く、40km以上離れた採食地に通うことも珍しくないため、市町村域に収まらないことが多い。また、巣立ちした幼鳥は、数100km以上移動することが知られており、都府県域を管理ユニットとして設定した上で、広域を見渡して管理方針を決定することが求められる。

優先的に守るべき場所はどこで、カワウを許容できる場所はどこなのか。どの程度の数なら許容できそうか。主に外来魚を食べているカワウは許容できるかもしれない。このように、管理ユニット内での対策にメリハリをつけることが必要であるが、あらゆる対策を手当たり次第に実施してしまい、努力が逆効果となっているケースもある。例えば竹生島のように、カワウを集めて捕獲する個体数調整の場では、追い払い対策をすべきではない。対策同士が足を引っ張り合わないように調整する行政の役割はたいへん重要であり、オーケストラの指揮者に例えることができる。指揮者(行政)が全体を見渡して、対策の強弱や適切なタイミングを決め、演奏者(関係者)がこれに調和することで最高の音楽(対策)が奏でられるに違いない。

筆者は、これまでに関東から九州の複数府県において、滋賀県と同様のKSS事業を実施しているが、被害軽減に成功した事例では共通して、行政が関係者間の調整をやり抜いている。とにかくたくさん捕れというプレッシャーをはねのけるのは並大抵のことではないだろう。その努力のおかげで、適切な時期に適正数を捕獲できている。捕獲数のみで評価されがちな捕獲事業であるが、実は一定数のカワウを残すことが増加を抑制して被害軽減につながる場合が多い。効果的な捕獲とは「量より質」なのである。

専門的・職能的捕獲技術者は、見通しの利かない林内で、警戒心が強く耳と目の良いカワウに見つかるよりも先にカワウを発見して接近するストーキング技術、数10〜100mの距離でカワウの急所である脳・心臓(直径2〜3cm)に命中させる射撃技術、成鳥・幼鳥・雛(ひな)を判別する観察眼など、高い技能が求められると同時に、目の前のカワウを捕獲すべきなのか残すべきなのか、管理方針に沿って迅速かつ的確に判断できなければならない。撃てる状況でも引き金を引かない決断力が必要であり、それは捕獲の目的を深く理解することで養われる。

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ワウ管理は河川環境管理

カワウと日本人の歴史は古く、古墳時代の遺跡から鵜飼(うかい)の埴輪(はにわ)が出土し、万葉集にも登場する。竹生島でも、カワウの鵜飼や糞の肥料利用が明治時代まで続いていた。しかし、カワウを利用する生活技術や思想は、河川環境における生物多様性の喪失と化学肥料の台頭によって、失われてしまった。

堰(せき)やダムで分断された河川では、遡上(そじょう)性の魚が激減し、少ない魚を人とカワウが取り合っている。カワウから逃れるすべを知らない放流魚や外来魚が、カワウの増加に一役買っている。河川環境の自然を再生し、おびただしい数の天然魚が遡上する本来の日本の河川を取り戻すことが、人とカワウの共存に欠かせない。

(※) KSS(カワウにおけるシャープシューティング):シャープシューティングは捕獲体制の総称で、一定レベル以上の技能を備えた専門的・職能的捕獲技術者(一般狩猟者とは区別される)の従事を前提とする。