(文:北見幸一、神野藤美奈子 写真:西村克也)
本質にこだわる男の24時間365日の情報源『GQ JAPAN』(コンデナスト・ジャパン発行)9月号(7月24日発売)に、人類最強のプレゼンテーションコーチ、マーティン・ニューマン氏への取材による「世界に通用するプレゼン力 10のルール」が特集されている。
世界中の著名人とのネットワークをお持ちの『GQ JAPAN』編集長鈴木正文氏。世界的に有名な企業人やハイブランド等の創業一族、セレブリティたちの誰もが魅了される素晴らしいプレゼンテーションや、高いコミュニケーションスキルに接する機会も多い鈴木編集長に、本質にこだわる男のプレゼン力について迫った。
Q.編集長は世界中に幅広いネットワークをお持ちですが、これまでもさまざまな場面で、多くのプレゼンを見てこられたと思います。編集長からみて、プレゼンのうまい人には、どんな人がいましたか?
建築家のプレゼンはうまい
鈴木編集長: 建築家はうまいと思うね。自分が施主で、プレゼンしてもらった團紀彦氏なんかはうまかった。あとは、片山正通氏もうまいかな。建築家の人たちは、模型でミニチュアをつくって、「あなたはこういう家に住みたいんでしょう」みたいな感じでプレゼンしてくる。自分とは全く違うボキャブラリーを駆使して、論理的に、まだ見えない自分の欲望に形を与えてくれるところがいいね。
Q.どんなプレゼンが良いのでしょうか?
あなたに向けてプレゼンしているって伝わることが大事
鈴木編集長: 誰に向かってプレゼンしているのか明確であることが大事。新聞の社説も、プレゼンといえばプレゼンなのかもしれないけれど、その社説は誰に向けて書いているのか正直分からないよね。批判することは簡単なんだけどね。語りかける相手が違うと問いかけ方も変わってくる。つまり、子供に「君さ、日本の政治ってどう思う」って誰も聞かないでしょう(笑)。
会話のレベルは、相手が誰なのかという人間関係で決まってくる。私は取材者だから、哲学者、政治家、芸能人などさまざまな人が取材対象になるけれども、その人の期待されている役割によって、当然ながら取材内容や質問も決まってくるよね。
オリンピック招致の際、日本のプレゼンターはIOC委員に向けて話していた。しかも、IOC委員が自分に向けて言ってくれているのだと分かるようにプレゼンすることができた。あなたに向けて話しているというのが伝わることが重要だね。
プレゼンは、内容や中身だけが重要なのではない!?
鈴木編集長: そして、基本的に感じが良くなければダメよね。人間的魅力が伝わるようにした方がよい。今月号の特集の中でもマーティン・ニューマン氏から「スーツをオーダーすべき」というような話があったけれども、服装も含めて持っている雰囲気をつくるって大事です。
また、プレゼンには、当たり前のコミュニケーションが大事。例えば、デートするとき、僕があなたに好意をもっているというのを、全身全霊をもって表現するわけでしょう。駆け引きで、わざと冷たくする場合もあるかもしれないけれど。でも、駆け引きでやっているって相手に分かってもらえないと意味ないよね。ただの冷たい嫌な奴ってなっちゃう。それもプレゼン力だよね。
デートでどういう格好をしていくかっていう時点からプレゼンは始まる。自分のことを大事に思ってもらっているって感じてもらえないと一歩も先に進めない。それは、どんなプレゼンでも同じだね。
スティーブ・ジョブズのプレゼンスタイルは、非常にミニマムな、シンプリスティックな世界観の中で、自分が正しいと思うことを、形式に寄りかからないでメッセージを伝えている。伝えやすい雰囲気をつくるというプレゼンの演出なんだよね。欧米では割とやられていますよね。日産のカルロス・ゴーンなんかもやっている。
プレゼンは普通には、内容や中身で説得すると思われているけれども、実は内容や中身が説得するわけじゃないのかもね。もっぱら、言い方、雰囲気、ある種の感性的なものが人を説得するんじゃないかな。
愛を告白する時の「愛している」という言葉以外で伝わる雰囲気みたいなもの。「愛している」を単に言葉にしただけでは伝わらないでしょう。言い方とか、場所の雰囲気が合わさってはじめて伝わるものだと思う。「愛している」の本物感というか、本気感が伝わるんだよ。言っていることの内容や中身に人は説得されるのではない。中身じゃなくてある種の文化性、文化的な共感を得られるかというのが大きい。それしかないのではないかと思う。
だから、今月号でマーティンが言っていた「スーツをつくる」、「笑顔をつくる」というのはとても大事なんです。英語の発音なんて、本当に関係ないんだよね。
Q.日本人にとってプレゼンとはどのようなものでしょうか。
日本ではプレゼンなんていらなかった
鈴木編集長: これまで日本社会ではプレゼンは必要なかったのかもしれない。もっぱら内向けだったからね。大企業でもそんなに必要なかったでしょう。基本的には作られた輪の中で従業員は仕事をしていく。社内の会議の中では、プレゼンというより上役に対して根回しする方がやりたいことを通せるようになっている。
しかし、21世紀に入ってきたあたりから、対話からやるのが増えているようだ。日本企業でも話しかけ方が変わってきている。プレゼン力が必要になった。
例えばTEDなんかの世界で、プレゼンすることで共感を得て、それがまた新しいビジネスにつながる。そういうことが結構多いよね。さらに、グローバル化された世界で仕事をしていく中で、つまり、相手が分からない中で、プレゼンしなければならない。
グローバル化するって、ローコンテクストの世界が増えるってことなんですよ。日本は、今でも部分的には非常にハイコンテクストな世界。言わずとも分かるっていうのがハイコンテクストの世界であり、言うだけ野暮よっていう世界。ハイコンテクストの世界では、濃密なコンテクストが既にあるから、言表自体がさしたる意味を持たない。コンテクストを追認するだけでことが足りる。
本格到来するローコンテクスト社会で必要となるプレゼン力
鈴木編集長: 日本は他の先進諸国と比較して、外国人労働者の受け入れが少なかった。ドイツはトルコから、フランスはアラブから、イギリスはアフリカから労働人口を受け入れなければ生産ができなかった。アメリカもスペイン系を受け入れてきた。だから、欧米は戦後、ローコンテクストな社会でずっとやってきた。ローコンテクスト社会だから、やろうとすることは言わないと伝わらないし、目的も伝わらない。
日本は国内の農村から、集団就職のような形で労働力を調達できた。人口が減少している日本では、国内で生産労働力を十分に調達できなくなっている。だから政府は外国人労働者を積極的に受け入れようとしている。それはドイツ、フランス、イギリスがやってきたことと同じ道を通ろうとしている。人口の1割以上が、外国人労働者になるような世界がしばらくするとやってきそうだ。
そうなると、日本はますますローコンテクストな社会になる。グローバル化を目指すのであればなおさら、ローコンテクストの世界に露出されることになる。だからプレゼン力が必要になってくる。
また、外国人が増えることだけではなく、国内の要因でもローコンテクストな社会になろうとしている。例えば、世代間のギャップというのもそう。これまでは世代間ギャップがあっても、先輩・上司の言うことを聞いてきた。それは会社が一生面倒を見てくれるという共同体意識があったからだろう。これまでは会社に忠誠心を持ってやってきたが、もはや会社は共同体ではなくなって、単なる利益集団と化してしまっている。社内でもローコンテクスト化しているから、ほとんど外国人と話すのと同じようにプレゼンをうまくやらないと、やりたいことができないとか、やりたいことに到達しないということが起こってきている。
しかし、ローコンテクストな会社は人を鍛えますね(笑)。もたれあい、寄りかかりあいが通用しないんだから。
Q.最後に、『GQ JAPAN』9月号の見どころを教えてください。
知的な面白さ満載。本質にこだわる男の情報源
GQ JAPAN 2014年9月号
PHOTO: PEGGY HIROTA
© 2014 CONDÉ NAST JAPAN.
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鈴木編集長: 特集は「THE NEW V.I.P. 世界のすごい人たち71人」。これって結構面白いと思うよ。世界に次々に現れる、いままでの常識を葬り去るすごい人々。ここにある全員の名前って言える? 言えないよね。でも世界にこんな人がいるというのを知っておいた方がいいね。ビジネスでも役立つよ。
それと「悪魔の詩と25年目の"聖戦" 文豪サルマン・ラシュディの終わりなき闘争/逃走」も面白い。いろいろ考えさせられるね。
「CITIES IN THE SKY 壮大なる未来都市計画」というのも面白いね。思い描かれた未来は、何かしら変形しながら実現するわけで、鉄腕アトムも全部ではないけど、ちょっと実現されたでしょ。
今月号も、意味ない原稿は全くないですよ。
知的な面白さ満載です。
『GQ JAPAN』編集長 鈴木正文
1949年東京生まれ。業界紙の英字紙記者を経て、二玄社に入社。
1984年に自動車雑誌『NAVI』の創刊に参画し、89年に編集長就任。
2000年に新潮社へ移り、編集長として男性ライフスタイル誌『ENGINE』を創刊。
2011年11月より男性ライフスタイル誌『GQ JAPAN』(コンデナスト・ジャパン)の編集長に就任した。『GQ JAPAN』は、米国で創刊され、現在19カ国で発行されている世界で最初のメンズ・ファッション&ライフスタイル誌『GQ』の日本版。
(2014年8月6日 DIGITAL BOARDより転載)