東京都知事の権限、大統領並み 予算13兆円
9日の投開票に向けて、舌戦が繰り広げられている東京都知事選。16人の候補者が、戦後8人目となる首都の顔を目指している。「大統領並み」とも言われる都知事の仕事は、どんなものなのか。
毎週金曜日の深夜、JR渋谷駅前に都営バスが止まる。昨年12月以降、午前1時台~5時台に六本木との間を8本が往復する。
路線バスの24時間化は、全国初だ。きっかけは昨年4月、友好都市の米・ニューヨークを訪れた猪瀬直樹・前知事の一言だった。「東京も公共交通を24時間化する」
猪瀬氏の指示を受けた都交通局は、利用見込みや採算を調査。「美術館も夜間営業できないか」という猪瀬氏の号令のもと、約30人のプロジェクトチームも立ち上がった。
チームに携わった都職員は、都知事の権限をこう表現する。「たった一言で都政を動かせる。『大統領並み』と例えられる理由だ」
背景には、潤沢な予算と人員がある。都の予算は特別会計も含めると13兆3千億円(2014年度)で、スウェーデンの国家予算に匹敵。一般会計の歳入6兆6590億円のうち、自主財源は80%超で、国が出す地方交付税に頼らずに独自政策を出せる。職員数も、警察、消防、教員を含めると16万5千人にのぼる。
知事には予算や条例の提出権もある。国政と違って閣議もない。議会のチェックは受けるものの、歴代知事は国に先駆けた政策を打ち出してきた。
初の革新都知事となった美濃部亮吉氏は1969年、老人医療費の無料化を宣言。鈴木俊一氏は、臨海副都心開発に乗り出した。99年就任の石原慎太郎氏は、ディーゼル車規制や羽田空港国際化などを実現した。
別の都幹部は指摘する。「首相と違い、知事の場合は4年の任期が保障される。じっくりと腰を据えた政策ができるのも強み」
■年収2575万円 出退勤自由
48階建て(高さ243メートル)の都庁第1本庁舎。知事の部屋は7階にある。エレベーターを出ると、警備員と金属探知機が待ち構える。通路を歩き、高さ3・5メートルの木製の扉を開けると、執務室や応接間が広がる。
都はニューヨーク、北京、パリ、ローマなど11都市と友好提携を結び、アジア13都市と「アジア大都市ネットワーク21」もつくる。外務省から出向する「儀典長」というポストを自治体で唯一置き、外交にも力を入れる。
都知事は日本水道協会長や都体育協会長など約45の役職も兼務。年収は条例で定められ、給与と賞与を合わせて約2575万円。99年から財政再建のために10%減額されているが、首相の年収(2737万円)に匹敵する。勤務日数や時間の規定はなく、分刻みの日程をこなした鈴木氏に対し、石原氏は登庁が週2日という時もあった。猪瀬氏も週3日程度で、昼過ぎの登庁が目立った。
住まいは、青島都政だった97年にJR渋谷駅から徒歩10分の一等地に、迎賓館の役割もある知事公館(のべ1885平方メートル)を建設。だが、石原氏が「プライバシーがない」と入居せず、猪瀬氏も自宅から通った。現在、警備費などに年200万円かかる。
都は昨秋、最低価格33億5千万円で2度目の売却に出したが、買い手が付かなかった。担当者は「今後は新知事次第」と話す。
プライベートも様々だ。猪瀬氏はジョギングが日課で、東京マラソンも完走した。石原氏は大型連休を取り、静岡県の断食道場で静養することも。「本業作家、副業知事」。都庁内で陰口もささやかれた。
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《都副知事を務めた青山佾(やすし)・明治大大学院教授(公共政策論)の話》 都知事の仕事は都市計画、福祉、交通、教育と幅広い。現場を歩いて課題を見つけ、住民の暮らしを守る生活者の感覚も必要だ。少子高齢社会が迫る中、具体的な道筋を示すことが求められる。
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