[東京 1日 ロイター] - 過激派組織「イスラム国」に日本人2人が拘束されていた事件は1日、湯川遥菜さんに続き後藤健二さんも殺害されたとみられる動画がインターネット上に投稿され、最悪の結果になった。
日本政府は2人の救出に最大限の努力をしてきたと強調するが、救出できる道はなかったのか、今後は政府の対応の検証が焦点となりそうだ。
<与野党一致で「イスラム国」非難>
政府が今回の動画を確認したのは、1日午前5時前後。後藤さんとみられる男性がオレンジ色の服を着せられてひざまずき、そばに黒装束の男がナイフを持って立っている様子が映っている。その後、後藤さんが死亡したとみられる映像が続いている。
動画の中で、犯行グループの男は、安倍晋三首相に対し「勝ち目のない戦争に参加する日本の決定のせいで、このナイフは後藤健二を殺害するだけでなく、さらなる日本人の殺りくを引き起こすことになる」と述べていた。
菅義偉官房長官は1日午前の会見で、殺害されたのは後藤さん本人の可能性が高いとの認識を示したうえで「卑劣極まりないテロ」とあらためてイスラム国を非難した。
イスラム国の対応に対し、2人を惨殺するという「テロ行為」であると、国内では与野党を問わず、厳しく批判する声で一致している。
ただ、2人の殺害は避けられなかったのか──。その点については、政府に他の選択肢もあったのではないか、との声が一部で出ている。
<ヨルダンに対策本部で異論も>
一部の中東専門家の間で指摘されているのは、ヨルダンに現地対策本部を設置したことの判断に対してだ。
同国は米国を中心とした「有志連合」に加わっており、イスラム国への空爆にも参加している。イスラム国側から見れば、敵であるヨルダンに対策本部を置いたことで、日本の立場が明らかに「敵」と映った可能性がある。
また、ヨルダンとの関与を日本が強めた結果、後藤さんの解放の条件とヨルダン人パイロットの安否問題が交錯し、後藤さん解放に向けた対応がより複雑化したとの見方も専門家の中で出ており、1日の菅官房長官の会見でも、ヨルダンに対策本部を設置した判断に対する質問が出た。
在シリアの日本大使館は、同国内の治安悪化を受けて2012年3月から閉鎖され、業務を在ヨルダン日本大使館内の事務所で行っている。
菅官房長官は今回の事件がシリアで発生したことから「対策本部をヨルダンに置いたことは自然なこと」としているが、これまでの対応について、有識者を招くなどして今後検証する考えを示した。
<不透明なイスラム国との交渉パイプ>
また、政府がイスラム国との直接的な接触を試みたかどうかについても不明だ。ヨルダンを含めた関係諸国、部族の長、宗教指導者などに協力を要請する中で、政府は「何が最も効果的かを考えて対応した」(菅官房長官)と説明しているが、イスラム国との間で直接的なパイプを駆使して効果的な交渉を展開できたのかどうか、不透明な部分も多い。
さらに政府が警戒するのは、日本人を対象にした新たなテロ事件だ。今回の動画には、日本人に対する殺害を警告するメッセージも含まれており、政府は「テロリストの入国阻止に向け、水際作戦をしっかり行う」(菅官房長官)など、警戒を強化する方針だ。
だが、中東では多様な分野で日本人がビジネスに参画しており、これまでとは違ったリスクに日本と日本国民が、直面しつつあると言えそうだ。
(梅川崇 編集:田巻一彦)