テレビ時代劇「大岡越前」などで知られた俳優の加藤剛(かとう・ごう)さんが亡くなっていたことが9日分かったとスポニチなどが報じた。80歳だった。
加藤さんは1938年、静岡県生まれ。少年時代は太平洋戦争の真っ只中だった。
御前崎で過ごした少年時代は、戦争のさなか。軍医だった義兄を亡くした。B29の機銃掃射や艦砲射撃を何度も見た。空腹を満たすためにウミガメの卵も食べた。悲しい体験だった。
だからこそ、「戦争は絶対にやってはいけない。反戦の気持ちは繰り返し演じていかないと風化してしまう」という思いが強く、「戦争もの」の役がくると、進んで受ける。
(1998年2月8日 朝日新聞朝刊・静岡県版)
1961年に早稲田大学文学部演劇科を卒業。在学中、難関だった俳優座の養成所入りを果たした。
俳優デビューは1962年。戦時中の日本軍の中国侵攻を描いたテレビドラマ「人間の条件」だった。苦悩を抱えながら武器を手に取り、雪の荒野をさまよう主人公・梶を演じた。
1964年に養成所を卒業し、俳優座に入団した。
松本清張原作の映画「砂の器」(1974年)では、野心的な若き天才音楽家・和賀英良を好演。ハンセン病に対する差別を背景に、過去を消すため犯罪に追い詰められた和賀の姿は、戦後日本に社会の問題点を問いかけた。
テレビ時代劇では1970年〜99年まで続いた「大岡越前」で活躍。南町奉行・大岡越前守忠相を演じた。勧善懲悪かつ情の厚さを交えた「大岡裁き」を言い渡す姿は、お茶の間で愛された。
平成の終わりを前に、昭和の名優がまた一人旅立った。