とある金曜日の夜。新宿・歌舞伎町に4人の女が集った。
ハフポスト日本版が誇る、自己評価低い系のアラサー編集者たちだ。
いつも取材先としてお世話になっている、ホストクラブ経営者の手塚マキさんのご招待で、私たちはこの日、手塚さんが経営している3つのホストクラブを「はしご」させてもらった。
結論を、一言で言わせてほしい。
「女は時に、イケメンの悲しみにお金を払う」。
ホストに会う夜、女は赤い紅をひく。
午後8時。いつもと違う真っ赤な口紅をひいて、ホストクラブの扉を開けた。
最初に訪れたお店は、手塚さんが経営する「スマッパ!グループ」の本店「スマッパ・ハンス・アクセル・フォン・フェルセン」。
スーツを着たイケメンたち、シャンデリア、ふかふかのソファー、シャンパンタワー...。想像の中にあったクラシックなホストクラブだ。
挙動不審な女たちに、店長がシステム説明に来てくれたが、はっきり言って、話が全然頭に入らない。
とにかく私たちが「姫」と呼ばれる存在であることだけがよくわかった。
微発泡のウェルカムドリンクで乾杯すると、すぐに若くてハイテンションなホストさんたちがテーブルについてくれた。
この日は、「初回限定お試しコース」的な扱いになっていたので、2、30分ごとに、入れ替わり立ちかわり色々なホストさんたちがやってきて、次々に私たちの手持ちの名刺は増えた。(次回から、好きなホストさんを指名して、2時間一緒にいてもらうという楽しみ方ができるらしい)。
「ソウタです!」「ツカサです!!」「エニシです!!!!」
「そうそう、姫たちの名前は??」
おっと.........。
自分の下の名前を誰かに言ったのなんて、何年ぶりだろう?
喜びのあまり元気いっぱいに「マリエだよ!!」と答えた私の中には、甘酸っぱい汁が流れ始めていた。
ホストさんたちの個性豊かな名刺は、自分でデザインを選び、自分で発注するのだという。手書きのメッセージを書き込むホストや、自分の香水を染み込ませるホストもいる。「離れても僕のこと忘れないでほしいじゃん」だそうだ。
わ、忘れへんで...。
あくまでも主役は「姫」。自分が試されるシャンパンコール。
午後9時半。私たちはテレビでしか見たことのない「シャンパンコール」を初体験した。(来店が初めてなのだから、初体験に決まっているが。)
は、早すぎて何を言っているかわからない。でも何だか歓迎していただいているのはわかった。
シャンパンコールは、その店の全てのホストが一旦全員集まってくる。必然的に、周りのお客さんの視線もこちらに注がれる。
売上の締め日が近い月末ともなると、推しのホストにシャンパンを入れる姿を誇示しあう、女性客の熾烈なマウンティング合戦になるという。
驚いたのは、マイクが私たちの方にも向けられることだ。
「ここで姫たちからも一言ずつもらいましょう〜〜〜〜〜〜〜」
「わ、私、先週31歳になったんですね。ああ、ありがとうございます。ああ、すみません。なんとなくまだ誕生日気分なんですけど、今日こうして皆さんと最高の夜を迎えられて嬉しいです。ホストクラブ最高だと思います!!いえーい!!」
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我ながらつまらなすぎるスピーチで絶望する。
先ほどとは違う脳汁が私の中に噴出した。
お客さんだからといって、ずっと「受け身」でサービスされ続けるかと思ったら大間違い。
こうしてふいにマイクを渡される。自分が試される、それがホストクラブだ。
6200万円の男、参上。
次に訪れたのは、グループの中でも、若いホストさんが集まっている「VANPS(ヴァンプ)」。20代前半の彼らは中性的なお顔立ちに、カジュアルな服装で私たちを出迎える。「ジャニーズJr.みたい...」と4人で絶句。
若すぎるメンズ相手に、何を喋ればいいの...?
女同士、目で合図をしながら、何とか話をつなごうとしているところに、だぶっとした胸元ガラ空きのシャツを身にまとった1人の男性がやってきた。
もとい「舞い降りた」と言った方が正しいかもしれない。
彼の名前は「優希刃(ゆうき・やいば)」。1ヶ月で6200万円を売上げるという圧倒的な記録を持つ伝説のホストだ。はっきり言って、お顔が美しすぎます。
25歳の体から匂い立つ、圧倒的な自信に気圧されるアラサー...。
モジモジする私たちを彼は甘ったるい会話でリードする。「ねぇ、この夏の目標を言い合おうよ」。
私はまたしても変な汗をかきながら、頭をフル回転させた。
さっきのシャンパンコールでのダサいスピーチを挽回したい...面白いこと言わなきゃ、、
追い詰められた31歳に、見かねた同僚が「刃さんに決めてもらったら?」と助け舟を出す。
「しょうがないなぁ」と小悪魔のような笑みを浮かべた刃さんが一言。
「じゃあ、まりえちゃんは、今年の夏、毎週新しい下着を買うってのどう?(ニッコリ)」
このあと、自分の口から出た言葉を、今も私は信じられていない。
「うん、そうする...」
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いやしないだろ。
ちょっとロジカルシンキングができていなかった。
確かなことは、ドSな態度とニッコリスマイルのコンボは、破壊力が半端ないということ。
そりゃ6200万円売り上げるわ。納得しかなかった。
ホストクラブは、女の友情も深まる。
最後に訪れたのは、アラフォーのホストさんたちが出迎えてくれる「アデオス」。シックな赤を基調とした落ち着いた店内は、ラウンジのような空間だ。
私たちは、ものすごく上質な赤ワインで乾杯した。
そこでは、62歳の現役ホスト・鶴屋文隆さんの、衰えぬ恋愛への情熱で笑い合った。(文隆さんは、誰よりスピーディーにLINE交換を持ちかけてきた)。
不動産業から転身し、ホスト歴1年だという38歳・ダイキさんの「生まれ変わりたくなったんだよね」という転職理由に妙に納得した。
代表のNARUSEさんをはじめ、アデオスの皆さんは、とにかく包容力がやばい。結局アラフォー男性が一番落ち着く...。
私たち4人は自然と自分の話をはじめてしまった。
「仕事ではこんな葛藤があるんだよね」
「最近のデートはこうだった」
「男の人の気持ちってよくわからない...」
ホストさんたちへの人生相談を通じて、同僚の「いつもと少し違う顔」が見えてきて、不思議な結びつきも芽生えた。
楽しい時間はあっという間。お店は法律上、深夜1時までに閉店しなくてはならない。シンデレラタイムを少しだけ回った頃、会はお開きになった。
一晩で36人のホストさんと出会い、正直、満たされまくった。いつも眠っている感情がむっくり起き上がっているのを感じた。
多分それは、「自己肯定感」に近いものだと思う。
私、生きててもいいらしい。だってこんなにイケメンが優しくしてくれるんだもん。
(何とでも言ってください...)
私たちは、イケメンの悲しみにお金を払っているのかもしれない。
午前1時半。帰りのタクシーの中で、私はふいに、手塚さんが前に取材で口にした言葉を思い出した。
「僕たちの仕事は、毎晩毎晩、自分に値段がついちゃうんで」ーー。
ああ。確かにホストさんたちはみんな、選ばれるための努力をしていた。「LINE交換しよう」、「俺のインスタ、フォローしてよ」とグイグイくる人もいれば、「俺はアフターとか絶対行かないから」とライバルとの差別化を図る人もいた。
彼らは毎晩「今夜こそ誰からも選ばれないかもしれない」という不安と闘っている。
もしかすると、ホストさんに会いにいく人たちは、キラキラした表情の向こう側に透けて見える、こうした不安や悲しみにお金を払っているのかもしれない。
ホストクラブって「お金で愛を買う場所」と思っていたけど、「お金で憂いを引き取る場所」なんだなぁ(深読み)。
イケメンの悲しみを買い取れる女になるべく、また仕事頑張ろう...。
記念に撮った浮かれポンチな自分の写真を見ながら、私は少しずつ現実世界へと戻っていった。
◇ ◇
「スマッパ!グループ」のホストクラブは、手塚さんの強いこだわりで、全てホワイトな「明朗会計」。初回は2000円から楽しめるので、ちょっとした非日常を体験しに、歌舞伎町の夜に消えてみるのもいいかもしれません。
ちょっとした「非日常」、それがアタラシイ時間。
人生を豊かにするため、仕事やそのほかの時間をどう使っていくかーー。ハフポスト日本版は「アタラシイ時間」というシリーズでみなさんと一緒に考えていきたいと思います。「 #アタラシイ時間 」でみなさんのアイデアも聞かせてください。