My Eyes Tokyo(以下MET)はこれまで約9年間、文字通り世界中から日本に来た人たちにインタビューしてきました。一つの地域に偏らないよう努めてきたのは「私たちは同じ"人間"なのだ」ということを、私たち自身も感じたいと思ったからであるし、またそれを多くの人と共有したいと思ったからでした。
最近、そんな私たちが心から"同志"と呼ばせていただきたいと思う方に出会いました。誤解や無理解が生まれがちな"グローバル"という言葉の真の意味を日本企業に伝えるアメリカ人、ブライアン・シャーマンさんです。
ブライアンさんは、今年初めに発売されたある雑誌で、このように語っていました。
「外国人とのコミュニケーションで最も必要なものは、どこの国の人とも人間同士の付き合いができること、そのために同じ興味を共有する力、共感しあえる力を持つことです」 (『クーリエ・ジャポン』2015年3月号)
私たちは、この言葉に共感しました。そして私たちが今年9月末に「海外に日本製品を売り込むために必要なこと」をテーマにディスカッションイベントを行ったことを機に(*イベントに関する記事はこちら)実際にお会いさせていただきたく思いました。外国人含むイベント参加者とのディスカッションの中で、日本製品を海外に広げていくには、マーケティング面だけでなく、社内の意識も変えていかなくてはいけないからではないか、というご意見が参加者の方々から出たからです。
ただ私たちは、共感だけに留まりませんでした。ブライアンさんがおっしゃる「どこの国の人とも人間同士の付き合いができること」「そのために同じ興味を共有する力」「共感しあえる力」が必要なことには深く賛同します。でも、一体どうすればそれらを身に付けることができるのでしょうか?
私たちMETからの挑戦状とも受け取られかねないこの問いに対して、ブライアンさんはご多忙にもかかわらず、ご自身の少年時代にまでさかのぼりながら丁寧にお答えくださいました。
*インタビュー@東京アメリカンクラブ
■ 13歳で見つけた人生のミッション
例えば皆さんが、貧困国と言われる国に行ったとします。そこの人たちは、今日食べるもののことで頭がいっぱいです。日本のような先進国とは全く違う - そのように思いがちです。
でも人間としては「食べたい」「寝たい」「できるだけ人生を楽しみたい」といった、皆さんと同じ欲求を持っているはずです。
グローバル化を成功させるための根本の根本は「お互いの異なる部分を乗り越えて、共通点を見つけること」です。私はこの部分に、アメリカと日本の架け橋として関わりたいと思い、これまで様々な立場から日本企業のグローバル化を、主に人事面から見つめてきました。これは私にとって、もはや仕事を超えた"人生のミッション"だと思っています。
その原点は、私の13歳の頃の経験です。
私は13歳の時に日本に来ました。私の出身地であるニューヨークと東京との間で行われていた姉妹都市間の交換留学プログラムに参加し、都内の一般家庭に2週間滞在しました。それが私にとって初めての海外体験でした。 初めて見る食べ物やウォシュレットに驚きました。当時の私は日本語は全く話せなかったし、もちろん理解もできませんでした。そんな私たちに、日本の中学生たちが英語でコミュニケーションを取ってくれました。楽しい時は一緒に笑い、別れの時は共に涙を流しました。
確かにお互いの文化の違いは存在しました。でもそれらは全て私にとって表面的なことでした。東京滞在中に私は「どの人間も同じ人間なのだ」という、根本の根本に気がついたのです。
■ 日米の架け橋として選んだ"人事"
思えば私の人生は、13歳の頃の私によって決められたのかもしれません。その後私は、国際サマーキャンプや留学、JETプログラムなどでアメリカと日本を行き来する中で「両国の架け橋になれるような仕事をしよう」と決心し、日系企業向けの人事コンサルテーションサービスを提供している、ニューヨークのベンチャー企業に入社しました。
以降、人事コンサルタントから日系企業の海外拠点での人事マネージャー、そして日本企業の本社でのグローバル人事担当として経験を積み、様々な視点から日本企業のグローバル化への取り組みを見てきました。
それらの経験をもとに2010年2月「グラマシー エンゲージメント グループ株式会社」を立ち上げて独立。以来、日本企業向けのコンサルティング、トレーニング、ファシリテーションサービスをご提供しています。
ビジネスは、決して簡単ではありません。特に外国人であれば、日本人以上に日本社会に貢献するビジネスをしなくては、日本でビジネスする意味は無いと思っています。つまり、日本人が認める品質のものを提供しなければならないということです。
でも私は幸いなことに、日本の環境に支えられている気がします。日本のおかげで仕事ができている。だから私は日本に心から感謝しています。
■ 違いだけでなく 共通点にも目を向けよ
私の会社は最近「英語de人事®」という、その名の通り英語で人事を学ぶプログラムを開発しました。その狙いは、グローバル人事のコンセプトを知り、日本の企業がグローバル対応の人事制度構築を考え、そのコンセプトと照らし合わせながら探ること、そして海外拠点の人事担当者との英語でのコミュニケーション力を高めることにあります。
誤解していただきたくないですが、グローバルの人事基準の方が常に日本の人事基準よりも上だということではありません。場合によっては、日本の基準の方がグローバル基準を上回っていることもあります。しかしそのようなことも、日本のことだけを見ている人は分からない。海外は日本とは違うのだとしか考えません。
そこで、私が何度も申し上げていることを、ここでもお伝えしたいと思います。
「違いは確かにあります。でも、違いばかりではなく、共通点もあるのです」
相違点だけでなく、共通点にも敏感になる感覚を身に付ける。それが、私たちが開発した「英語de人事®」のプログラムです。
もうひとつ「英語deリーダーシップ®」というプログラムもあります。もし皆さんが会社の中間管理職で、海外拠点の人たちとコラボしなくてはならなくなった場合、お互いの違いがどこに眠っているかを明らかにすることや、それらを乗り越えていくためのコミュニケーションスキルをお伝えしています。
"異文化研修"という言葉を、最近よく耳にします。日本はこうで、海外はこう・・・このような研修を1日受けたら、思うのは「やっぱり我々日本人は特異なんだ」ということに終始するでしょう。違いばかりを強調しても、ビジネスには役立ちません。
様々なレベルで違いがあることを意識しながら、それらの違いをどのように乗り越え、お互いの共通点を見つけ出すことができるか。ビジネスパーソンとして、そのマインドは必須だと思います。
■ "笑顔で挨拶"は基本中の基本
"違いを乗り越える"ために必要なこと - "共通点を見出すこと"と答えるのは早計です。その前にやるべきことがあります。
それは「私はあなたの敵ではない」「あなたは私の敵ではない」というマインドセットを持つこと、そしてそのような雰囲気を醸し出すことです。そのために必要なことは "笑顔で挨拶"そして"お互いを知ろうとすること"。そのために世間話などで、スムーズなコミュニケーションを可能にする雰囲気を作っていくわけです。
多くの日本人に見られる傾向があります。それは、慣れていない環境に行くと、少し受身的になることです。周りを見て、状況を確認しながら動く。ただそのような姿勢だと、日本本社と海外拠点とのミーティングでは、日本人が中心を占める本社側が受身になります。
そうなると海外拠点の人たちは「この人たちはどんなことを考えているのか?」と訝しく思い、やがて「本社の人たちにはリーダーシップがない」と判断される。そうなると、本社は海外拠点をリードすることができなくなります。私はこのような場面を頻繁に見てきました。
このようなことを避けるためにも、まずはお互いが気軽に話ができる環境を作る必要があります。
■ 英語力は必要。でももっと大事なことは?
皆さんの中には「そうは言っても、英語があまり上手くないし・・・」と思われる方もいるでしょう。でも私自身、それほど英語力にはこだわっていません。
私は仕事柄、様々な職種の人たちと出会いますが、一番グローバルな環境に向いているのは営業マンです。
国内で営業をしている人の実際の英語力は、大変申し訳ないですが低い傾向にあります。それは英語を使う必要が無いからです。
でも彼らは、たとえ英語が分からない環境に置かれようが、とにかく自社製品を売り込まなくてはいけません。だからか、彼らは私たちが行う研修プログラムに対して一番前向きですし、社交性も群を抜いています。先ほど申し上げた"お互いの違いを乗り越えるために必要な根本中の根本のこと"が、彼らには備わっています。だから、あとは英語力をつけるだけです。
英語が流暢である必要はありません。とにかく一生懸命「あなたと一緒に話したい」という姿勢さえあれば、英語の文法を少し間違えたとしても、誰も全く気にしないのです。
■ グローバルよ "死語"になれ
私が訪問する企業の中には、こうおっしゃるところがあります。
「私たちはグローバルではない。ドメスティック企業ですから」
「私たちは日本人だけの会社。だからグローバル企業ではない」
このような言葉を聞くと、違和感を覚えます。
教育の影響なのか「日本は島国だから、そこで生まれ育った私たちは、海外の人とは違うのだ」という刷り込みが、日本人にされているように思います。それは企業の方も同じで「私たちはグローバルではない。ドメスティックだから海外のことは分からない」とおっしゃる方が多く見受けられます。
また日本企業の人事担当者の多くは「我々日本人は・・・」と言う。つまり"内"と"外"を無意識のうちに分けています。そして同じように"ドメスティック"と"グローバル"を分けています。なぜこれに疑問を感じるかというと、本社の人事は国内外の社員全員を見る必要があるからです。グローバル化が進んでいる企業の場合、社員は地球上の各地にいます。そのような視点は人事をはじめ、本社全体に不可欠なのです。
私にとっては、今いる東京や日本がすでにグローバルなのです。グローバル(Global)という言葉の原型は"グローブ"(Globe)つまり地球です。日本は地球の外ではなく、地球上にありますよね。
だから皆さんの中にある"ドメスティック"と"グローバル"の境界線を、もう少しグレーにする必要があると思います。"グローバル"という言葉が死語になってほしいとすら、私は思っています。
世界中の至るところに"違い"は存在します。国によって法律は違いますし、習慣も食べ物も違います。違いが厳然として存在するからこそ、先ほどから何度も申し上げているように、それらの違いを乗り越えるための意識と感覚を身に付けることが重要だと私は思っています。
■ 真のグローバル人材になるために
私がグローバルコミュニケーションをテーマとした「英語deリーダシップ®」研修をさせていただく時、一番"嬉しくない"ご感想は:
「外国人の考え方がよく分かりました」
逆に、一番嬉しいご感想は; 「私は英語を勉強しようと思っていたのですが、ここで習ったことは 日本でも応用できます」
このように思える方が、真にグローバル人材になっていくのだと思います。なぜなら英語と日本語の違いは確かにありますが、コミュニケーションを取るための基礎となる部分は同じだからです。グローバルコミュニケーションは、英語を話せるようになることでは決してないのです。日本での良い考え方を普段以上に意識して、自らが架け橋となって海外との関係をより良いものにしていく。それが"グローバル"だと私は思います。 日本での考え方は海外でも通用することを認識し、"内"と"外"を意識しながら自分の2本の足をその両方に置くこと。これらがグローバルコミュニケーションの第一歩だと思います。
"内"と"外"の意思を一つにするために必要なのは「我々がなぜこれをするのか、理解をしてもらうまできちんと説明する」ことです。そのために、今まで皆さんの会社の中で普通に行ってきた業務に対し「なぜ、これをやっているのか」と、一歩踏み込んで考えることが必要になってくると思います。
例えば、どこの企業でも理念があります。私たちが力を入れていることのひとつに"企業理念の浸透"があります。日本企業の海外拠点に向けて行うのですが、それらは決して日本国内だけにしか通用しないものでは無いはずです。その理念は「我々グローバル企業の存在意義」、つまり「我々がなぜ存在するのか」を表すものであり、世界のどの場所でも共有され得るものです。
だから後は、英語力など気にせずに相手に伝えるだけ。そうすることで、皆さんのグローバルコミュニケーション力は確実に進歩します。これは相手の国籍に関係ないどころか、日本人同士でもご活用いただけることです。
日本の強みや潜在能力は、まだまだあると思います。海外に伝えたい日本独自の価値観も多くあります。それらを広く伝えることで、より良い世界を構築することに貢献したい・・・ それが、私の夢です。
【「異文化理解」を深めるインタビュー記事5選】
(2015年11月18日「My Eyes Tokyo」に掲載された記事を転載)