アラフォー「SMAP」が乗り越えられなかった、典型的な日本型の"商慣習"とは

40歳前後の男性たちが、自由にモノを言えない社会で良いのだろうか。
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The Huffington Post

SMAPの解散は違和感しかなかった。木村拓哉さんや中居正広さんらメンバーは、アイドルと言えども40歳前後の「いいオトナ」。真相は分からないが、そうした年齢の男性が自由にモノを言ったり、働きかたを選べなかったりした姿は、毎日会社や組織でつらい思いをしている私たちの姿を映し出しているように思えた。「SMAPはなぜ解散したのか」(SB新書)を出版し、芸能取材も豊富なライターの松谷創一郎さんに聞いてみた。SMAPを通して見える日本って何ですか?

■生放送で謝罪をさせられる5人

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インタビューに答える松谷創一郎さん

——アイドルグループのSMAPが解散しました。およそ1年前の2016年1月18日、独立の話が表に出てきた際に、フジテレビ系「SMAP×SMAP(スマスマ)」の生放送で、5人が謝罪しました。どう見ていましたか。

私は芸能取材の経験も長いので、公の場で謝罪をさせられる姿に、そこまで驚かなかったんですよ。ただ、意外にファンはアイドルが置かれている異様な状況をあまり知らないですよね。ジャニーズは、トップのジャニー喜多川さんを始め事務所スタッフが、積極的に表には出てきませんから。

——SMAPは一部のメンバーが、ジャニーズ事務所の所属とは違うかたちで活動をしたかったようですが、情報も錯綜しました。本人たちがハッキリと自分の言葉を発表できないのは異様です。単純に比べられないですが、ハリウッド俳優のメリル・ストリープがトランプ大統領を公の場で批判するなど、アメリカでは芸能人が自由にモノを言えるように見えます。

ハリウッドのスターは世界に進出してグローバルなマーケットで収益をあげており、俳優が自由にふるまえるだけの莫大な収益が入る環境が整っていますよね。

アメリカは、芸能事務所の代わりに「エージェント」が芸能人側の窓口となり、俳優が「個人事業主的」である場合が多い点も挙げられます。一方日本は、事務所に所属する「契約社員」のような立場になりがちです。

ただ、グローバルマーケットに打って出ていない日本とハリウッドを比べるのは酷です。もし日本で「モノが言える」俳優やアイドルが生まれるとしたら、日本の芸能事務所が中国などアジアに進出して、企業などスポンサーや関係者だけの顔色をうかがわなくて良いビジネスモデルが必要です。

(※インタビュー後、SMAPの元チーフマネージャーが中国とパイプがある企業の代表取締役に就任し、海外展開をする可能性がある、との報道が『週刊文春』でなされた)。

■SMAPはネット上で「存在しない」

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ジャニーズ事務所のアイドルが雑誌などの表紙に載る場合、インターネット上では顔や姿が隠され、「影絵」でしか表示されない

——ジャニーズ事務所のアイドルの写真がインターネットで、ほとんど「使えない」という問題も改めて浮き彫りになりました。

このルールは、誰がどういう権限で決めたのかは定かではありませんが、ジャニーズ事務所が明確に指示を出していることが関係者への取材で判明しました。

ネット上の写真がコピーされて海賊版グッズの流通につながることを防ぐためだと思われるほか、興行に力を入れるジャニー喜多川さんが、所属しているアイドルのネット上の姿ではなく、ライブや番組中の「現在の、本人たちを見てほしい」と思っているという説も、真偽は分かりませんが、耳にしたことはあります。

海外メディアや一部のメディアでは使われているのに、使っていない媒体との「基準の差」も分かりにくい。

ただ、「どういう理由か」ということが問題なのではなく、こうしたネット時代に、本人たちの姿がネット上から消されている状態が続いている異様さ、がポイントです。

ジャニーズ事務所の社員たちもヘンだと思っているはずなのに、そのことを社内で問題提起しているようには見えない。事務所の公式見解も伝わってこない。これは、組織としてジャニーズ事務所内部が、かなり硬直化していることを意味しています。

——メディア側も、それに応じてしまっていますよね。

「ジャニーズ事務所はそういうもんだ」という諦観です。大手の出版社も新聞社もあきらめている。事務所に問い合わせて対話をしたり、ジャーナリズム業界で議論したりせず、「決まっているものだ」「面倒なことに関わるのはやめよう」という惰性的な考えがあるのではないでしょうか。非常に日本的というか……。

■ジャニーズ事務所の「デジタル嫌い」は時代に合わないのでは

——今の時代、芸能人はみずからTwitterやInstagramなどデジタルツールを駆使して一生懸命ファンと交流しています。多くの人にブランドが浸透し、事務所も「儲かる」からですが、そういう「普通のビジネス感覚」がジャニーズ事務所にないんですかね。

韓国を見ると、まったく逆なんです。(韓国のポピュラー音楽の)「K-POP」では、YouTubeにミュージックビデオをあげて日本を含めて世界中にファンを広げようとしています。

韓国の人口は、日本の半分以下である5000万人と、マーケットがもともと小さいので、積極的に国の外に出て行って売り込んでいく姿勢ですね。

1億人規模の市場があって、日本語を使って、日本だけで「売れる」環境と違います。ただ、今後は日本の人口も減るし、もっと大きなビジネスが出来るチャンスが海外には転がっている。SMAPや嵐はアジアなどで今の5-10倍も売れるはずです。

■変化を志した韓国芸能界

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韓国の人気グループ「JYJ」のメンバーの一人

——ジャニーズ事務所をはじめ日本の芸能界はどうしたらいいのでしょうか。

韓国のケースが参考になります。著書にも書いたことですが、2010年、韓国の人気男性グループの「東方神起」のメンバー3人が脱退して、JYJという新しいグループを作りました。

しかし、音楽番組には出られなくなった。東方神起時代に所属していたプロダクションが韓国大手のエスエム(SM)エンタテインメントで、テレビ局などに圧力をかけたとされています。

韓国の公正取引委員会が乗り出して、SMエンタ側の妨害を禁止する命令を出しました。また、国会議員が動いて放送法も改正され、芸能人の出演の有無にたいして芸能事務所などが圧力をかけることを防いでいます。

芸能界の慣習を疑問視した「ファンの声」も大きかったようです。つい最近も、韓国の国民はデモなどで声をあげ、朴槿恵政権を事実上終わらせましたよね。

民衆が声を上げることで社会を変える成功体験が身近なものとしてあります。そもそも、民主化を国民がデモによって成し遂げた国ですから。

韓国の俳優やアイドルは独立しやすくなった分、タレント側の力が強くなり、ギャラが高騰しているという面もあるので、こうした「改革」が今後もうまくいくかどうかは分かりません。しかし、既存のシステムから何か違うものへと移ろうとするダイナミズムを感じます。

■KANSHAして、だけで良いのか?

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——日本でも、SMAPのメンバーが解散に追い込まれたとみられる状況に対して疑問や戸惑いを感じたファンも多いです。

SMAPの存続を求める37万の署名が集まったり、クラウドファンディング(朝日新聞社のサイト「A-port」)でお金を集めて新聞広告を出し(トップ写真参照)、SMAPに思いを伝えるプロジェクトが立ち上がったりしました。

もちろん素晴らしい取り組みですが、韓国のように、そうした怒りやモヤモヤした感情、感謝の気持ちを「制度を変える」という方向に持って行くやり方もあるんだよ、ということを本を通してファンに伝えたかったんです。この商慣習を変えない以上、また繰り返されるだけですから。

——SMAP問題は、しょせん「芸能界のこと」という人も少なくないと思います。俳優やアイドルの権利が守られるようになっても、一般の人には関係ないのではないですか。

そういう意識があるのはわかりますが、本当にそうでしょうか。日本社会の悪い意味でのあいまいなところや、労働者の権利が守られない社会の象徴にみえます。本来は社会派の知識人が取り組まないといけないところですが、その多くはSMAPの問題を「たかが芸能」とバカにしていますよね。

先ほどのメリル・ストリープの例もそうですが、アンジェリーナ・ジョリーが乳がん防止のための活動をするなど、芸能界って、今を生きている私たちの「ロールモデル」というか、私たちがどんな社会の一員になりたいかの理想型を体現してくれる存在という面もあります。

SMAPは同世代のファンが、生き方に共感していました。それなのに、40歳を過ぎて、あれだけのスターになっても、自由にモノが言えず、テレビの前で謝罪をさせられる。こういう生き方が、私たちの「ロールモデルでいいのか」という問いかけですよね。

■忘れる日本人とSMAP

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——SMAPを通して、私たち自身の姿を見せられているようです。

社会学者の宮台真司さんは、昔から日本人の悪い側面として「忘却癖」を指摘しています。私もそれを引いて、安保法制のときの安倍政権の最大の戦略はこの「忘却癖」の利用にあると指摘しました。

実際にその戦略は、最近の安倍政権の支持率の高さを見ると、確実に成功したと言えます。最近のSMAP問題に対してみんなが問題意識を感じたのに、解散して年が明けたら潮が引くように誰もが語るのをやめてしまいました——年末に解散するというのもジャニーズ事務所はマスの心理を分かっていると思いましたが、こんな日本で本当に良いのでしょうか。

これが「年忘れ」ってやつか、と痛感しましたが。

(ジャニーズ事務所の幹部の)メリー喜多川さんの「独裁者ぶり」を単に血祭りにあげても、根本的な問題は解決しません。彼女にも彼女が切り拓いてきたゆえの論理がある。

一般的に芸能事務所がコストをかけて育ててきた俳優やアイドルが独立をはじめ、自由に活動されてしまうと困る、という理屈もわかります。

それをひとつひとつ解きほぐして、うまい落としどころを見つけて、良い解決策を見つけていく、政治や法律を使っていく、という動きが生まれてほしいですね。実際、民進党の井坂信彦・衆議院議員などのように、SMAP問題と放送法について問題提起した国会議員も出てきています。

日本は一気に変えてハードランディングさせようとしても、既得権益層に強引に潰されるのがオチです。かといって、忘れてしまうこともよくない。だから、粛々とシステムの「構造的欠陥」をほどき、段階的に変えていくしかない、と思っています。

日本と似たような構造問題を抱えた韓国は、常に変わろうとしています。日本なりの「社会改革」って何だろう、ということをSMAP問題が私たちに問いかけています。

■松谷創一郎氏のプロフィール

まつたに・そういちろう。1974年生まれ、広島市出身。商業誌から社会学論文まで幅広く執筆。国内外各種企業のマーケティングリサーチも手がける。得意分野は、カルチャー全般、流行や社会現象分析、社会調査、映画やマンガ、テレビなどコンテンツビジネス業界について。現在、『先読み! 夕方ニュース』(NHKラジオ第1)にレギュラー出演中。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』、共著に『どこか〈問題化〉される若者たち』、『文化社会学の視座:のめりこむメディア文化とそこにある日常の文化』など。社会情報学修士。