「シンデレラ体重」をめざす女性の心理とは? 専門家は「生理が止まるレベル」と問題視するも…

「日本の若者の低い自尊感情」と「均質な社会」が背景?
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「モデルに食事を与えないで下さい」と書かれたTシャツを着るファッションモデル。やせすぎモデルを起用しない動きが広がる前は、問題が広く認識されない現状があった=2007年のロンドンファッションウィークのショーで
Alessia Pierdomenico / Reuters

「シンデレラ体重」という言葉が、Twitterなどで広まっている。大手エステサロンが20年前に提唱したとされるが、詳細は不明だ。

「シンデレラ体重」を求める計算式は「身長(m)×身長(m)×20×0.9」ともされる。

身長160センチの場合、1.6×1.6×20×0.9=46.08キロが「シンデレラ体重」となる。

「シンデレラ体重」を、適正な体重の指標として使われているBMI(ボディ・マス・インデックス)に当てはめるとBMI18となり、「やせ」(低体重)の領域に入る。

若者の健康に詳しい大阪市立大の早見直美講師は、「生理が止まる可能性もある低体重のレベル」と警鐘を鳴らす。どういうことなのか、話を聞いた。

「シンデレラ体重」が注目を集めているようですが、「美容体重」「モデル体重」など、似たような言葉は以前から出回っていました。

どの言葉も意味は同じで、健康上は「一番よい」とされるBMI22を下回る、20~21を「理想」と位置づけた体重です。「シンデレラ体重」は、それにさらに0.9をかけているので、BMI18の体重が出てきます。

BMI20、21は、まだ「標準」の領域ですが、18.5未満は「やせ」の領域で、かなりの低体重です。

18まで落ちると、様々な健康への悪影響が増えていきます。

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ファッションショーに登場したやせているモデル。今でこそ、やせすぎモデルを使わない動きが広まっているが、少し前までは、こんな体形のモデルは珍しくなかった=2011年、イギリス
Luke MacGregor / Reuters

例えば、無月経。10代はまだ生理が不順だったり、ホルモンバランスが不安定だったりすることが少なくありませんが、低体重で栄養が足りない状態が続くと、月経を起こすためのホルモンが十分に分泌されなくなります。このため、無月経が引き起こされるのです。場合によっては、ホルモン剤で治療しても生理が戻らなくなることもあります。

将来、子どもを産みたいと思ったときに、過去のそうした無理なダイエットなどが原因で機能が働かず、妊娠しづらくなるリスクも高まります。妊娠しても、十分栄養が行かず、体重が極端に低い赤ちゃんが産まれる原因にもなっています。

普段でも疲れやすくなったり、骨の密度がスカスカになって骨折などを引き起こす「骨粗鬆症」になったりもします。ホルモンバランスといっても、体のいろいろな機能とつながっていて、後の病気のリスクになりえるのです。

2017年に発表された「国民健康・栄養調査」では、10代と20代の女性の「やせ」の割合は、ともに20.7%と、全世代でもっとも高い結果が出ました。

日本女性の「やせ願望」は、最近出てきた話ではありません。国民健康・栄養調査によると、90年代以降、20代の若い女性で「やせ」の割合が20%台(5~4人に1人)と、ここ20年は続いている傾向です。

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国民健康・栄養調査の概要資料から。赤い点線が20代女性のやせの人の割合。
厚生労働省

日本学校保健会が実施した児童生徒の調査で、自分の体形のイメージについて「少し」もしくは「かなり」の程度で「やせたいと思っている」と答えた中高生の女子は70~80%ほどを占めていました。また、実際の体形がやせているグループでありながら「やせたい」と思っている高校生の女子は20%いました。

海外の同世代と比べ、なぜ日本女性の「やせ願望」がことさら強いのかを考える際、日本の若者の自尊感情が、他国の若者と比べて低いという点も見過ごせません。

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文部科学省

また、社会的、文化的な背景も影響を与えていると思います。

日本は欧米などと比べ、見た目などが比較的均質で、あまり差異がない。そうした中で、社会や身の回りの基準が、より細くあることがいいと示すと、皆がそっちに流されてしまう傾向がある。遺伝的にそこまで体が大きくなりにくいということもあり、よりやせの方に、シフトしやすいのかもしれません。

やせ願望に影響を与える外的な要因は、おおきく三つ、「家族」と「友人」と「メディア」と言われています。

ファッション誌「Vogue」が2012年、世界的にやせすぎのモデルを使わないなどの取り決めを発表したり、2017年、フランスでやせすぎのモデルの活動を禁止する法律が施行されたり、グッチやルイ・ヴィトンなどを展開する企業が相次いでやせすぎモデルを使わないなどの動きが起きていますが、日本ではまだ、本格的なムーブメントといえるまでは広がっていません。

思春期は、自我が確立していくプロセスでもあります。自尊感情が低く、「自分はこうだ」という意識が確立していない状態の中で、体の「理想像」を雑誌のモデルやアイドルの細い体形に求めてしまい、ダイエットを始めてしまう人が少なくなりません。

ロールモデルは本来、もっと多様であるべきだと思うのです。

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モスクワのファッションウィークで登場したプラスサイズのモデル=2016年10月、モスクワ
Sergei Karpukhin / Reuters