イギリスのヨーロッパ連合(EU)からの離脱の賛否を問う国民投票について6月24日、離脱派が大勢を占めることになった。この結果を導いた背景はどういったもので、そして世界や日本へどんな影響があると考えられるのか。イギリス在住14年のジャーナリストでメディア・アナリストの小林恭子さんはハフポスト日本版のSkypeでのインタビューに応じ、「イギリスは、最初は世界の仲間外れにされて苦しい立場に立つかもしれませんが、その後もなんとかやっていくと思います」と話した。
――離脱派が過半数を占めました。どう受け止めていますか。
かなりの驚きです。「まさか」という感じです。
予想はまったくできませんでした。総選挙だと前回の結果と比較できますが、今回はできません。本当にだれもが分からないという感じでした。
市場では通貨ポンドが対ドルで上がり、金融街シティーは残留の方向と見ていたんですね。また開票結果を最初に発表したジブラルタル(イギリスの海外領土)は残留派が多数で、開票の早い段階では残留が優勢の見方でした。しかし開票につれ、次第に離脱派が伸びました。想定外でした。
――小林さんはどちらが望ましいと思っていたのですか。
EUは「そもそも戦争が起きないように」と始まり、欧州が団結したものです。単一市場からの経済的利益を受けることもあり、私は残留がいいと思っていました。しかし、EUは組織を維持することで一杯となっていて、また(経済危機となった)ギリシアに酷い扱いをするなど小さい国には冷たくもあり、ユーロ圏経済はどうなるのかとの先行き不安はありました。ただ、今回の投票では残留としながらも、将来は場合によってはEUから抜けることもある結果になるかと思っていたのですが。
――残留派が多いロンドンなど都市部と、地方では意見が分かれたようです。
それはかなりあります。地域によってバラツキがあります。イングランド北部では離脱を望む声が強く、一方、都市圏は残留を望みました。格差や階級差が出ているようだとみなさんが言っていました。
――投票の結果、現状に不満を持つ人が半分いたということですね。
そうなんです。その層はずっとありました。2004年には旧東欧諸国のEU加盟があって東欧の移民が増え、2008年には世界金融危機があって経済が悪くなり、公的サービスが削減され、生活が悪くなったと人々は思いました。そして気がつくと、移民がいろんなところで仕事をしていました。EUは域内では人、モノ、サービスの自由な行き来が原則ですから、無制限に人が入ってきていたんです。学校や病院なんかも移民が多く入ってきて溢れたりして、人々の不満感が高まり、「移民を規制してほしい」という気持ちが強まっていました。
しかし、政治家はもしEUを否定すると「おかしな人だ」と思われかねないため、誰も民意を汲み取ろうとしませんでした。EU脱退を唱える「イギリス独立党」(UKIP)が次第に支持を伸ばすようになり、2014年の欧州議会選挙のイギリス議席で第1党となりました。政治的うねりが出てきたんですが国政に反映されるまでは行かず、2015年5月の総選挙ではイギリス独立党は1議席しか取れず、党首のファラージ氏が当選しないなど、国政の壁は厚かったんです。
――今後イギリスは、混乱することになるのでしょうか。
イギリスは階級社会の名残があり、エリート層と労働者階級・下級層とは所得の差もあり、読んでいる新聞は違い、言葉や考え方が違うんですが、今回それがはっきりとした形なって見えました。その溝を、これからどうするのかという課題があると思います。
イギリスは(EU域内でパスポート検査をしない)「シェンゲン協定」に入ってなく、(共通通貨)ユーロを導入しないでポンドを維持してきました。離脱を支持してきた人たちは、イギリス一国でも対外的にやっていける国力があると信じているんです。EUはダメで、EUと付き合わない方が世界が広がるとの自負心が強いんです。イギリスは、最初は世界の「仲間外れ」にされて苦しい立場に立つかもしれませんが、その後もなんとかやっていくと思います。
――世界や日本への影響はどういったものがありそうですか。
日本円は一次的には影響を受けるでしょう。イングランド銀行(中央銀行)は資金投入する動きをみせていて、一次的に混乱が少しは収まる可能性があります。ただ、将来的にはどうころぶか予想が付きません。
日本への影響でいうと、日本企業が頼りにしているというより、イギリスが日本企業に頼っているという側面があります。日本企業が1000社の14万人の雇用を手助けしているとされ、日本のイギリスへの投資額は中国より多いです。キャメロン政権は日本を頼っています。日本企業が撤退すると、イギリス経済に大きな影響が出るでしょう。
離脱しても、単一市場にこれまでどおり加盟し、これまでと同じように取り扱われるのか、それとも税金を掛けられるのか。EUの対応次第というところもあります。でもEUは一つの国ではなくて集合体なので、結論を出すのに時間がかかります。状況は混迷するでしょう。
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