最近、マスコミからギグ・エコノミー(Gig Economy)やクラウドワーカー(Crowd Worker)という言葉をよく耳にする。
ギグ(Gig)とは、そもそも1920年代におけるアメリカのジャズ等のライブ・ハウスで、即席でその場限りの演奏者を求めて一緒に共演することを意味するものの、最近は「単発の仕事や日雇い」を意味する言葉としても使われている。
つまり、ギグ・エコノミーとは、インターネットのプラットフォームを通じて単発の仕事を依頼したり請け負ったりする働き方の経済形態を意味する。
一方、クラウドワーカーは、クラウドワーク(Crowd Work)を実際に行う労働者であり、ここでクラウドワークとは、群衆、集団、グループを意味する「クラウド」と労働を意味する「ワーク」を組み合わせた言葉で、直訳すると「集団(群衆)労働」という意味になる。
集団(群衆)労働というと地上の工場や作業場で多数の労働者が一緒に働くことを思い出せるものの、実際にクラウドワークは、地上ではなく、インターネット上を主に利用するという点で集団(群衆)労働と差別化される。
つまり、クラウドワークとは、ある仕事を任せたい人がインターネット上のプラットフォームを使って、その仕事を担当してくれる人を募集し、それを見つけた人が応募するという形で取引が成立する仕事であり、仕事の委託や報酬の支払いもネット上で済まされる。
しかしながら、上記の概念はクラウドワークという言葉に統一されず、クラウドソーシング(Crowd Sourcing)、シェアリングエコノミー(Sharing Economy)、ヒューマンクラウド(Human Cloud)、デジタルワーク(Digital Labour)、ギグ・エコノミー(Gig Economy)等の言葉が混在している。
クラウドワーカーと関連して最も議論の多いのは、サービスを提供するクラウドワーカーの就業上の地位であるだろう。
つまりクラウドワーカーを自営業者として見なすべきなのか、あるいは雇用者として見なすべきなのかがまだ統一されていない。
アメリカではクラウドワーカーを雇用者として分類する事例もあったそうだが、一般的にクラウドワーカーは自営業者、特に個人事業主に分類されることが多い。
問題は、クラウドワーカーが増加しているにもかかわらず、彼らに対する法的措置がまだ十分に整備されておらず、多くのクラウドワーカーが多様なリスクに直面していることである。
仕事の発注者(使用者)は、今までの伝統的な雇用をクラウドワーカーに代替することにより、生産や雇用のみならず、賃金まで需要の変化に合わせて調整することが可能になり、安価に効率良く仕事を依頼することができるようになった。
一方、クラウドワーカーは、自分の不得意な作業は除いて得意な仕事のみを選んで受注することが可能になり、好きな時間や好きな場所で働けるようになった。
しかしながら現在の法律や制度の下ではクラウドワーカーが得られるメリットはそれほど多くないだろう。
まず、クラウドワーカーは労働者として認められていないので、最低賃金法による最低賃金が適用されない。
また、クラウドワーカーには企業の福利厚生制度や公的社会保険制度が適用されないケースが多く、現在や将来の医療保障や所得保障に対する不安が増加することになる。
つまり、クラウドワーク等、使用者がいない仕事が導入・普及されることにより雇用や賃金の柔軟性が高まる一方、景気変動のリスクはそのまま個人に転嫁されるケースが増加する。
日本では今後同一労働同一賃金が推進されることにより非正規労働者の処遇水準は今より改善されることが予想されるものの、増加するクラウドワーカーに対する対策はまだ行われていない。
労働基準法等が適用されず法的に保護されない彼らをこのまま放置しておくと、新しいワーキングプアが生まれ、貧困や格差がより拡大する恐れがある。
クラウドワーカーの増加は日本だけの現状ではない。アメリカ、フランス、イギリス、ドイツ等の他の先進諸国でも同じ経験をしている。
イギリスのある調査では、回答者の10%がギグ・エコノミー(Gig Economy)のプラットフォームを利用しているという結果が出た。25~34歳の年齢階層だけに絞ると約3分の1がギグ・エコノミーを利用して仕事を探しているという驚くべき結果である。
今後アメリカやヨーロッパ等の諸外国の事例や対策を参考に、ギグ・エコノミーやクラウドワーカーに対する対策を急ぐべきである。
関連レポート
(2017年2月28日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
生活研究部 准主任研究員