入院中に「つながり」と「わくわく」を届けるギフトをつくりたい----そんな思いを持って、杉山絢子先生が代表を務める一般社団法人「CAN net」では、現在お見舞い用のカタログギフト「お見舞いギフトブック」を制作するため、クラウドファンディングサービス「READYFOR」にてプロジェクトを公開しています。このプロジェクトのお話を伺いました。
―「お見舞いギフトブック」とは、どのようなものですか。
「お見舞いギフトブック」は、入院・療養生活をされている方と、そんな方たちのお見舞いに行きたい方のために企画されたカタログギフトです。カタログギフトというと、よく結婚式の引き出物や出産祝いとして贈られますよね。それをお見舞いの品用に制作することで、お見舞いに行く方が気軽に渡せて、入院中の方もわくわくしながらアイテムを選べると考えました。
入院している方は、病気になって大変なことが増え、辛い思いを抱いていることが多いです。時には「何で私が!?」と病気に対して腹が立つこともあります。そんな中、まわりの人が気にかけてくれているということ、外の空気を運んできてくれるということは、入院中に孤独にならずに前を向いていくきっかけのひとつになります。
しかし、一方でお見舞いに行く側の悩みとしてよく聞かれるのが、「どのようなタイミングでお見舞いに行けばいいのか分からない」「病気をした家族や友人に、何て声をかけていいのか分からない」「何を持っていってあげたらいいのか分からない」などです。これらのことに悩んでお見舞いに行くことをためらってしまう方がいます。
入院している方とお見舞いに行く方、そのつながりを強めるきっかけをつくりたい、入院中でもポジティブに過ごせるようにしたいという思いから、今回のプロジェクトを立ち上げました。
―「お見舞いギフトブック」の特徴は何ですか。
「想い」「選択肢」「未来」の3つが届けられることを特徴としています。
「想い」については、お見舞いしたいと思う方の気持ちを届けやすくするような仕掛けをしています。お見舞いに行く人が読むと参考になるお見舞いのルールや、入院中の方が周囲にどんなことを求めているかなどの入院経験者の声を別冊に記載しています。それを読むことで、病気と向き合っている人がどのような思いを持っているのかを知ることができます。そこから、お見舞いに行きやすくなったり、メールや手紙などを送りやすくすることで、病気を抱えた方と周囲の方をつなぎます。
「選択肢」については、入院されている方に贈るものについてです。実際に入院・療養生活を経験された方々の意見に基づいたアイテムを掲載し、受け取った相手に自分が好きなものを選んでもらいます。現在掲載を予定している一例としては、入院中の食事に美味しさをプラスするためのふりかけやジャム、足先などの寒さを感じることが多い入院中に温もりを与える湯たんぽなどがあります。選ぶことでわくわくしてもらう気持ちを届けます。
「未来」について、「お見舞いギフト」では、病気を通じて生じた気持ちの変化、入院・療養生活を送る中での悩みごとや困ったこと、快適に過ごす方法など、先輩入院経験者の声を記載しています。病気のために、今までできていたことが思うようにできなくなってしまったり、以前とは違う見かけになってしまうこともあります。また、治療が終わったとしても、今までとの生活のギャップに戸惑いを感じたり、仕事を辞めることになってしまったりもします。そうすると社会に戻りにくくなって、そのまま引きこもってしまったり......と、病気を抱えると、病気自体の辛さ以外にも色々な悩みを抱えることも多いです。同じ様な経験をした人たちの言葉を届けることで、入院中だけでなく、これからの人生をより良く送る上での一助となればと願っています。
―この「お見舞いギフトブック」を通して伝えたい事は何ですか?
私たち「Can net」では、「がん・病気になっても自分らしく生きられる社会」を目指しています。そのために、多様な職種、経験をもつメンバーが集まり、病気の経験をネガティブなものではなく、ポジティブなものに変換するための活動を行っています。
入院や病気の経験は、辛くて嫌なことばかりではないと私は思っています。私自身、自分や家族の病気の経験があったからこそ、自分の有限な時間をしっかり生きたいと思えるようになりました。しかし、このような心の変化というのは、メディアや物語などでよく取り上げられているような劇的な変化ではなく、病気と向き合っていく過程で少しずつ身についていくものであると思います。皆さんの、ご自分や大切な人の病気と向き合う経験を、次に向き合う人に少し役立たせることができる。「お見舞いギフトブック」でそんなサイクルの仕掛けづくりをしていきたいと考えています。
(聞き手 / 左舘 梨江)
○「お見舞いギフトブック」プロジェクト概要
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【プロフィール】 杉山 絢子 腫瘍内科
一般社団法人CAN net 代表理事
2002 年旭川医科大学卒業。北海道の地方医療を経験後、がんの化学療法を勉強するため国立がん研究センター東病院化学療法科のシニアレジデントを修了。2013年「誰もが病気になっても自分らしく生きられる世の中」の実現をビジョンとする一般社団法人CAN netを立ち上げ、代表理事に就任。CAN netの事業内容を発表した「社会起業大学ソーシャルビジネスグランプリ2013年冬」ではグランプリを受賞。北海道で現役の腫瘍内科医としても活躍している。医学博士、がん薬物療法専門医
■CAN net http://can-net.jp/