森の国ドイツ/「木育」が日常に根付く幼児教育の現場

モンテッソーリ教育法に基づく「子どもの家」と呼ばれる幼稚園「箱舟」は、森の中の別荘という趣だ。
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森林文化協会の発行する森と人の文化誌『グリーン・パワー』(月刊)は、森林を軸にしながら自然環境や生活文化などの話題を幅広く発信しています。5月号の「NEWS」では、幼児教育をテーマに森林文化協会が初めて海外で開いた森林文化セミナー「森の国ドイツで学ぶ幼児教育研修旅行」の様子を、同行した編集部員の寺門充が報告しています。(写真はすべて寺門撮影)

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「毎週月曜日は『森の日』。雪でも雨でも、森へ出掛けて遊んできます」

ドイツ入国後、最初に訪れた幼稚園での女性教諭の説明だ。子どもと森林とのかかわりを端的に表す言葉だった。

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●「木育」を探るドイツの旅で訪れた保育・幼稚園の一つ。教室の穏やかさの理由は木のおもちゃか、教育法か、周囲の森か

「森の国ドイツで学ぶ幼児教育研修旅行」は、今年1月24日(日)~31日(日)にあった。森林文化協会が企画で提携し、研修旅行を多く手がけている国際航空旅行サービス株式会社(東京都中央区)が旅行を実施した。北海道から九州まで6都道県の16人が参加。大学生一人のほかは、保育園や幼稚園の園長、保育士、幼稚園教諭、事務職員ら幼児教育に携わっている人たちばかり。幼児向け美術教育が専門の大学教授も参加した。

森遊びたっぷり  自然を体感

訪れたのはドイツのほぼ中央部に広がるチューリンゲンヴァルト(チューリンゲン森)周辺五つのまちにある施設。5日間で保育・幼稚園5カ所、保育・幼稚園から高校までの一貫校2校、教育施設1カ所、博物館2カ所を巡った。また、世界最大のおもちゃの見本市「シュピールヴァーレンメッセ(ニュルンベルク国際玩具見本市)」会場では、世界の木製玩具などに触れることができた。

最初に訪れたまちがカッセル。モンテッソーリ教育法に基づく「子どもの家」と呼ばれる幼稚園「箱舟」は、森の中の別荘という趣。3~6歳の36人を5人の教師と実習生1人の計6人が担当し、専属の調理師が一人いる。

「箱舟」の3、5、6歳の混合クラスを担当する教師、メリーナ・ドゥーリングさんによると、午前10時までは朝食を食べたい子は朝食を持参して食べ、遊びたい子は遊ぶ。遊び方も一人ひとり好きなことを選ぶ。教室内には大型犬が1匹。自由に動き回り、子どもたちと遊んでいる。教師の一人の飼い犬で、地域の他の「子どもの家」でも犬を教室内に入れているという。動物との触れあいも「家」と同様らしい。

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●犬(手前)もごく自然に教室内に。子どもの自立性を尊重するモンテッソーリ教育法の幼稚園

屋外遊びは普段は園庭内で約2時間だが、月曜日の「森の日」には、隣接する森へ出掛け、約3時間たっぷり遊ぶ。どんな天気でも森の散歩道を歩き、自然を体感する。ブナやトチなどの葉や枝で、いろいろな物を作る。子どもたちが好きなのは、枝で木のソファを作る遊びだそうだ。

子ども1人当たり1カ月にかかる費用は、食事代を含め450ユーロ(約5万7000円)。このうち200~350ユーロは自治体からの補助で賄われる。保護者は所得に応じて100~250ユーロ(約1万2700円~約3万1750円)を負担する。保護者の中には失業中の人や生活保護を受けている人もいるという。

世界遺産の公園で学童保育

続いて訪れたのはカッセルにあるシュタイナー学校。保育園・幼稚園併設で、高校卒業年齢までの850人が学ぶ。小学生は学校の畑で種まきから収穫まで有機栽培の野菜作りを体験する。「人が食べるものにどれだけ手がかかるか、実際に自分でやってみて身にしみて分かる」と、同校教師でシュタイナーセンター講師のヨハン・ボルターさん。ドイツの小中学校は正午過ぎには終わるため、放課後の学童保育も行っている。

ここも森とともにある学校だ。隣接の森はユネスコ世界遺産「ヴィルヘルムスヘーエ公園」(面積240ha)。森には300種の樹木があるという。「森の学童保育」の時間には、森の中に置かれているトレーラーハウスを拠点に、保護者が迎えに来るまで森遊びをする。「子どもたちは家庭でテレビやスマホなど電子機器に囲まれている。森ではそれらから離れて自由な時間を過ごす」と学童保育担当の教師、シャールさん。「成長し社会に出た時、水、空気、木、たき火、人との温かい接触が、生活、人生の喜びの一つだと分かってくれる」と付け加えた。

シュタイナー学校ではさらにもう1校、ユネスコスクールのESD(持続可能な開発のための教育)に力を入れているニュルンベルク市内の学校も訪ねた。校庭でのコンポストと野菜作り、15歳で森林学のイロハを学び、市町村提供の公共の土地に雑木を植え、多種多様な昆虫が戻ってくることを学ぶ。環境保護分野で州やユネスコから計5度も表彰を受けた。

枝や木片から遊びを創造

併設されているシュタイナー保育園で、一人の日本人保育士と出会った。筒井ゆう紀さん。シュタイナー教育を志して渡独、10年が経つ。木とのかかわりについては「木には温もり、香り、使っていくうちに変わっていく肌触りなど、感覚に訴えてくるものがある」と言う。木のおもちゃを選ぶのは「有機的なものと関わることを大切にしているから」。園庭にはクルミやヘーゼルナッツの木があり、秋になると子どもたちは実を拾い、殻を石で砕き、食べる。遊具は大きな木にかけられたブランコだけ。遊びは枝や木片を使い、自分たちで創造するのだという。

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●フレーベルについて語るロックシュタイン館長

バート・ブランケンブルクのフリードリヒ・フレーベル博物館では、『遊びが子どもを育てる フレーベルの〈幼稚園〉と〈教育遊具〉』(福村出版、原題・KINDERGARTEN)の著者で訪日経験もあるマルギッタ・ロックシュタイン館長が、この地に世界最初の幼稚園を創ったフレーベル(1782~1852)の人となりと教育法を解説してくれた。「恩物」と訳される、フレーベル考案のシンプルな木のおもちゃの使い方も実演。フレーベルは「人間は自然の一部。人間は自然に責任がある」という考え方を大切にしている。KINDERGARTEN(子どもの庭、楽園)は幼稚園の語源となった。

参加した大分市の幼稚園教諭、足立茉由さんは「先生のかかわり方が型にはまらず自然体だった。木は自然とのつながり、関係性を学ぶ一つの要素。隣に森があったらいいなと思う。経験豊富な参加者から学ぶことも多かった。いい経験になった」と話した。