保守的なジョージアで男性同士の恋愛を描いた映画『ダンサー そして私たちは踊った』。主演俳優の感じた挫折と希望

ジョージアでのプレミア上映は5000枚のチケットが発売後13分で完売したものの、右翼団体やグルジア正教会などから、激しい抗議が寄せられたという。
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レヴァン・ゲルバヒアニさん
朴順梨

名物料理の『シュクメルリ鍋』が松屋の定食になったり、2019年の即位の礼に出席した臨時代理大使の衣装が「ジェダイの騎士みたいでカッコいい」とバズったりと、なにかと注目されている国・ジョージア。

コーカサス山脈と黒海に面したジョージアは、2015年までグルジアと呼ばれていたので、その名で覚えている人も多いことだろう。ジョージアはワイン発祥の地とも言われ、ラグビーが盛んなことでも知られている。

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東ヨーロッパの地図。グルジアは中央下部のピンク色の部分。
Pomogayev via Getty Images

こう聞くと「楽しくておいしい魅力の宝庫」に思えるかもしれない。しかしジョージアは時に、別の顔を見せる。それはセクシャル・マイノリティにとても厳しいということだ。

そんなジョージアの舞踊団を舞台に、男性同士の恋愛を描いた映画が『ダンサー そして私たちは踊った』(2月21日公開)だ。ジョージアでのプレミア上映は5000枚のチケットが発売後13分で完売したものの、右翼団体やグルジア正教会などから、激しい抗議が寄せられたという。

ジョージアで生まれ育った主演のレヴァン・ゲルバヒアニはこの作品がスクリーンデビュー作だが、監督からの出演オファーを5回断ったそうだ。なのになぜ演じることを決めたのか。レヴァンに聞いた。

今もロシアの影響下にあるジョージア

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『ダンサー そして私たちは踊った』より
French Quarter Film / Takes Film / Ama Productions / RMV Film / Inland Film 2019

「保守的なジョージア社会の中でセクシャル・マイノリティを扱った作品に出るのは、容易なことではありませんでした。ジョージアは色々な側面でロシアの影響が強く、セクシャル・マイノリティへのヘイトもそれが原因です。演技の経験が全くない自分を監督がinstagramで見つけてオファーをくれたのですが、演じることを経験するまたとないチャンスなので、演じることにしました。演技は初めてでしたがとくに意識せずに演じていたら、キャラクターが徐々に自分になじんでいった感じです」

 ロシアでは2018年6月、『健康と発達を害する情報からの子供の保護に関する連邦法』という法律が改定され、非伝統的な性的関係(同性愛を含む)を未成年に宣伝することが禁じられるようになった。ジョージアは1991年までソビエト連邦の一国だったこともあり、ロシア同様にセクシャル・マイノリティに対し、非常に不寛容な空気が蔓延している。レヴァンが出演を躊躇したのも、そこに理由があると語った。

同作はジョージアの伝統的な舞踊団を舞台に、主人公のメラブがカリスマ的な魅力を持つ新入りダンサーのイラクリと出会い、切磋琢磨していくうちに互いに愛情が芽生えて……というストーリーになっている。最初はライバル心を燃やしていたものの、激しく相手を求め合うまでになる。そんなメラブとイラクリの間にあるのが、ジョージアンダンスだ。メラブは女性のマリをパートナーに力強く踊ってきたが、レヴァンいわく「ジョージアンダンスはある意味、とても硬直している」のだという。

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「ダンサー そして私たちは踊った」より
French Quarter Film / Takes Film / Ama Productions / RMV Film / Inland Film 2019

 「ジョージアンダンスの特徴はまっすぐで、型にはまっています。映画の中で監督が『セックスの入る余地はない』と言うシーンがあるように、美しく力に溢れているけれど、人間を機械のように扱っている部分があります。だから型にはまらない動きをしてしまうと、そこに感情のようなものが加わり、別の解釈が生まれてしまう。そういった要素を封印するのが、ジョージアンダンスなのかもしれないと思っています。自分が今コンテンポラリーダンスを踊っているのは、解釈の自由があって型にはまらず、したいことが出来るのが理由です」

  

ジョージア人には「乗り切る力」がある

 レヴァンは「人間はみな平等だから、セクシャル・マイノリティに対しても特別な意見はない。自分との違いはないと思う」と語る。しかしレヴァンが演じるメラブは、自身の性的指向に気づいたことで悩み、挫折を味わうことになる。それでも彼には希望があると、レヴァンは見ている。

 「2人が愛を貫き通したとしても、ずっと秘められた関係でないとならない。つまり友人のふりをしていなくてはならない。それでもその人の隣にいたいと思えるかはわかりませんが、個人的にはそれでも幸せだと思っています。メラブは確かに挫折を味わうけれど、保守的で重い場所からカラフルな場所に向かって、自分を解放していきます。この作品は苦しいだけではなくて、希望も込められています」

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「ダンサー そして私たちは踊った」より
French Quarter Film / Takes Film / Ama Productions / RMV Film / Inland Film

同作はジョージアにおけるセクシャル・マイノリティだけではなく、人々の貧しさも描いている。メラブはダンサーとレストランのアルバイトを掛け持ちしていて、度々停電する狭い家に家族と暮らしている。しかしそれは、決して珍しいことではないそうだ。

 「ジョージアには実際に電気代が払えない人が多くいます。それどころか食事もろくに食べられない、飢えている人もいます。なのに政府は、そういう人を救済しようとしません。ジョージア政府は「2ラリ(日本円で約75円)あれば1日賄える」と言ったことがありますが、それではパンを買うだけで半分なくなります。なのに2ラリで食費も交通費も生活費も賄えというのは、非常にバカげた話ですよね」

 それでもジョージアの人たちには「乗り切る力」があるとも、レヴァンは言う。

 「ジョージアの人は耐久性があるというか、忍耐力と苦難を乗り切る力があり、とても打たれ強いんです。メラブは2つですが、平気で4つの仕事を掛け持ちしたりするし、職がなくてもユーモア旺盛な人も多い。ユーモアがあるからなんとか生き延びていけるし、へこたれない強さがあるのだと思います。そういうジョージア人が持つポジティブさも、この映画の中から読み取っていただければ嬉しいですね」