企業ブランド(以下、ブランド)はここ数年、新しい行動の時代に突入している。二極化しがちな問題への支持を公の場で示すことをますます厭わなくなってきた。組織的な人種差別や有色人種に対する警察の残虐行為など、社会の構造を切り裂くような問題に関して、沈黙を選ぶブランドは「ズレている」と見なされるリスクさえある。しかし、平凡な言葉を並べ、中身のない宣言を発表することも同様のリスクがある。不安や支援のために何をしようとしているかを真摯に伝えるブランドの方がより多くの人の心に響くだろう。
米ミネソタ州ミネアポリスでジョージ・フロイド氏が警察に無差別に殺害されてから、企業の行動や連帯を求める無数の悲痛な誓い、ソーシャルメディアのサウンドバイトなど、さまざまな声が上がった。6月1-2日、米サステナブル・ブランドが開催したSB2020リーダーシップ・サミットでP&Gのマーク・プリチャードCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)はこう語った。
「ブランドの構築に携わる私たちは本能的に何か言おう、投稿しようと考える。しかし、ブランドが『私の思いと祈りはあなたと共にあります』と発するだけの時代は終わった。行動に移し、耳を傾けることが求められている」
今年1月に本サイトに掲載した「ブランド・パーパスの専門家が予測する、2020年のトレンド」にも書かれていた通りだ。「ブランドは自らのパーパスに取り組むことで、さらに政治的になっていく。人々が抱える政治に対する虚無感を満たし、立ち上がることで、世の中の人にとってさらに意味のあるつながりをつくることになる」。
ここでは、決まり文句を並べる言葉だけではないブランドを取り上げる。人種差別反対主義が発信する情報を共有し、新たな法律を求め、差別に加担する組織への支援を取り止め、「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」の活動に取り組み、人種の平等と社会正義の名の下にたゆまぬ努力をしている非営利団体に資金援助やサービスを提供することで、正義を実行するブランドだ。
エアビーアンドビー
「一部のホストやゲストがいまだに差別を経験しているという痛ましい事実を認めずに、この最近の出来事について語ることはできない。帰属意識をつくり出すというのはわれわれのミッションに反している」
ホームシェアリング大手の米Airbnb(エアビーアンドビー)は2016年、黒人だという理由で断られるというゲストやホストから寄せられた人種差別問題に対応して、差別をしない方針とコミュニティへのコミットメントを打ち出し、誓約を辞退した130万人以上をプラットフォームから削除した。
ここ最近の出来事をうけて、同社は現在、NAACP(全米黒人地位向上協会)とBlack Lives Matterに合計50万ドル(約5480万円)を寄付し、従業員による両団体へのマッチング寄付も行っている。また、同社では黒人従業員のグループBlack@Airbnbが作成した「Activism and Allyship(積極的行動とアライシップ)」という社内ガイドを共有した。アライシップとは、社会から差別や抑圧されてきた人々を支援するという意味がある。活動家や人種差別反対主義の専門家のこれまでの取り組みを参考にしてできたものだという。Airbnbの社内外の人々がより良い、より積極的な協力者になるために行動を共にする手助けになるものだ。
バンク・オブ・アメリカ
バンク・オブ・アメリカは、全米で経済的不平等、人種的不平等に取り組むコミュニティを支援するために10億ドル(約1090億円)を拠出すると発表した。米国の人種差別問題に取り組むために金銭的支援を行うことを発表したのは大手銀行で初めて。この基金は、ウイルス検査やその他の医療サービスなどのプログラムの立ち上げ、とくに有色人種のコミュニティに焦点を絞り、マイノリティが経営する中小企業の支援、黒人やヒスパニック系の教育機関とパートナーシップを4年間にわたって構築することを宣言している。
ベン&ジェリーズ
ベン&ジェリーズは長年にわたり、気候危機から選挙権、刑事司法改革にいたるまで、あらゆる分野で声高に活動を展開してきたブランドだ。同社は声明で、Black Lives Matterへの支持を改めて表明したほか、あらゆる形態の白人至上主義を解体するための4つの具体的なステップを訴えた。
CNNのハンナ・ジアディ氏も指摘しているが、ベン&ジェリーの宣言は、人種差別反対主義を掲げるブランドの中でも際立っている。優れて包括的で、直接的なものだからだ。米国における差別の歴史的ルーツを取り上げ、構造的な人種差別を訴え、今後の警察による虐待を防ぎ、人種的不平等を是正するための具体的な方針を提唱している。
リフト
配車大手Lyft(リフト)の共同創業者ローガン・グリーン氏とジョン・ジマー氏はメールで声明を発表した。
「当社は交通アクセス・イニシアティブ『LyftUp』を通して、有色人種コミュニティへの取り組みを継続してきた。最近の危機の間も、必要な交通機関の円滑化と公平なアクセスを実現するために活動する全国の公民権団体に50万ドル(約5480万円)分の乗車クレジットを提供している。特にミネアポリスでは、LyftUpの乗車クレジットをNPOレイク・ストリート・カウンシルに寄付し、街の再建に取り組むボランティアに提供する考えだ」
セサミストリートとCNN
一方、セサミストリートのキャラクターたちはCNNと協働で、子どもたちに人種差別について説明する集会を開催した。「人種差別に立ち向かう」集まりでは、CNNのコメンテーター、ヴァン・ジョーンズ氏とエリカ・ホール氏が司会を務め、ビッグ・バードとともに仲間のエルモやアビー・キャダビー、ロジータが専門家に加わり、家族から寄せられた質問に回答した。この特別番組は6月6日(土)午前10時(東部標準時)にCNN、CNNインターナショナル、CNN en Españolで放送された。
フェイスブックの姿勢を批判し、広告を下げた企業
藻類由来のオメガ3サプリメントを製造しているスウェーデン企業シムリスは6月2日、フェイスブックとインスタグラムの両方で有料広告を停止し、Black Lives Matter運動を支持すると発表した。
これは、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが表現の自由を理由に、トランプ大統領の「略奪が始まれば銃撃も始まる」という政府による武力行使を肯定する投稿に対し、フェイスブックは措置をとらないと表明したことに対する反発だ。一方、ツイッターは「暴力を賛美している」として希望するものだけがクリックすれば見られる措置をとった。ザッカーバーグCEOの対応にはフェイスブックの一部の幹部や従業員が反発し、ストライキを行った。中にはツイッターで異を唱える従業員もいた。
シムリス創業者兼CEOのフレドリカ・グルフォト氏はLinkedInでこう説明した。
「憎しみを助長し、暴力を促進し、誤報を流すプラットフォームのサービスにお金を出すことは道徳的に不可能だ。そうしたプラットフォームは、人種差別運動を促す役割も果たしている。フェイスブックは介入を拒否したことで、自社のスタンスを明確にした。だから私たちもそうする。本日をもって、シムリスはこうしたシステムの一部であることを止め、フェイスブックとその子会社(インスタグラムを含む)への有料広告を停止する。これにより、他のブランドや製品と比べて、当社がマーケティング上で大きく不利な状況に陥っているというのは理解している。しかし、私たちは、誠実さと尊敬が長期的には勝つと信じており、友人やコミュニティが私たちのメッセージをシェアしてくれることを信じている。シムリスは大海のほんの一滴に過ぎないが、病気にかかったような健全でないシステムに自社の資金を投資し続けることはできないし、今後もするつもりはない。その代わりに、私たちは心の声に従うことを選び、最後には愛が勝つと信じている」
その後、一連の批判を受け、ザッカーバーグCEOは6日、コンテンツに関する方針を見直すと発表した。
ほかにも、収益をBlack Lives Matterや他の人種的正義のために働くNPOに寄付することで支援するブランドもある。しかし最終的には、『マーケティング・ウィーク』でマーク・リットソン氏が指摘するように、黒人やその文化の恩恵を受けてビジネスが成り立っている企業、人種差別に反対するメッセージを流す企業の経営陣に黒人をはじめ有色人種が一人もいないというのは真の説得力を持たない。企業が自らのリーダーシップ、経営陣を多様化してから、人種の平等について語り始めれば、永続的な変化が生まれるだろう。
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